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何事も上達するにはモチベーションが重要だ、と私は長年思っている。ヘタでもいいんだ、好きでやっているんだから、と思っていれば、何年やっても上達はしない。そもそもいつまでたってもヘタでは、「好き」という気持ちも薄れていきがちだろう。

やっていて楽しいと感じ、続けていくエネルギーが湧いてくるのは、ある程度の達成感があってこそ、である。

だから、今「英語がうまくなりたい」と思って、英会話学校に通い、CDセットに大枚をはたいている人たちに聞きたいのは「あなたはなんのために英語が必要なのですか?」ということである。そんな余計なお世話なことをエラソーに私が言うのは、私自身が確たる動機なしにずるずると外国語習得にムダな時間とお金を費やし続けてきた人だからだ。今振り返っても、膨大な時間とお金の8割はムダだったと後悔の念にかられる。身につかなかったのは、習得の方法がまちがっていたのではなく、動機があいまいだったからだ。

そんなことを今回取り上げた「リーダーの英語」を読みながら考えた。帯に「何が人に感動を与えるのか。どうすれば人を説得し、動かすことができるか」とある。本書が読者に促す英語学習の動機は、この帯にあるとおり「人に強く訴える英語を身につける」こととはっきりしている。「そんな、ムリです。外国人がハローと言っただけで銅像になってしまう私には」という人に、ちょっと待て、と言いたい。外国に行ったときに道をたずねたい、レストランで注文したい程度の動機では、上達は見込めない。それなら指差し会話の本を持っていき、身振り手振りでも十分だからだ。「なーんだ、言葉はちがっても、気持ちはなんとか通じ合うものだ」という安易な結論に達すれば、一気にやる気はうせるだろう。

リーダーの英語

本書の著者は2人。長年通訳として活躍し、大学で通訳やスピーチを教えているツル先生こと鶴田知佳子氏と、国際金融の最前線で仕事をしている柴ちゃんこと柴田真一氏である。2人が、サッチャー、ケネディ、エリザベス女王、レーガン、ブッシュといった英米のリーダーたちのスピーチを取り上げて、どうすれば人の心に訴える話ができるかを説く本書は、英語を学ぶための強烈な動機をきっとあなたに与えてくれるはずだ。スピーチが録音されているCDが添付されているので、リーダーの英語に実際にふれて、どういう点がすぐれているのかをテキストを読みながら確認できる。スピーチの背景にある歴史や文化背景についての情報も豊富である。 本書はたしかに英語の学習書ではあるが、英語の力をつけるだけでなく、きっと日本語でのプレゼンテーション能力やコミュニケーション能力の向上のためにも役立つはず。その意味で、英語を使う現場にいないビジネスパーソンにもお勧めである。

(text / motoko jitukawa)

『リーダーの英語』  鶴田知佳子、柴田真一 共著 コスモピア出版社 \\2,100(税込)