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19世紀後半、英国ヴィクトリア朝期の女性たちは、少女のころからレディに憧れた。もとは貴族や上流階級の女性を指した「レディ」という言葉が、立ち居ふるまいや感性、品のよさを示すようになり、中流階級の女性たちもこぞってレディを目指したそうだ。 そんなレディとレディ候補生たちが、日々どんな暮らしをしていたのかを、当時の小説やハウツー本を基に解き明かした本である。内容は濃いのだけれど、語り口は学問的ではない。むしろトリビア的情報に「へぇ! そうなの」と感心しているうちに、そのころの生活が肌身で感じられるようになってくる。

だってティータイムにはどんなものを食べたか、生理用品はどんなものを使っていたか、ダンナが死んだ未亡人はいつまで悲しんでいればいいのか、そんなことまで詳しく教えてくれるのだ。1項目約1ページずつおよそ80項目にわたって、そんな調子で当時の女性たちが関心を持っていたこと、生活にかかわることが並べられていて、どのページから読み初めてもOK。文章はユーモアたっぷりで1ページごとに思わずくすくす笑ってしまうし、盛りだくさんな図版は眺めているだけでも楽しい。

『英国レディになる方法』目次の項目を見ると、まるでいまの女性誌を見るよう。コスメ、下着、ダイエット、避妊……当時の奥様稼業は女中さんがいてもダンナに気を遣って結構たいへんだったんだ、とか、やっぱり親戚や友人のつきあいってのに一番苦労するんだ、と妙に親近感を覚えたりもする。読み終わるとすっかりレディ気分。いや、気分だけですが。レディになりたい人も、そうじゃない人も、読めば英国レディ気分だけはたっぷり味わえるはずだ。

『英国レディになる方法』 岩田託子 川端有子 著 河出書房新社 ¥1,800

  text / motoko jitukawa