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最近、その人がベジタリアンかどうかを、初対面で何となくで判別できるようになった気がする。焼肉大好きな僕が偉そうに言うのも皮肉な話ではあるが(笑)。先日都内のとあるパーティ会場でロジャー・ジョセフ・マニング Jr.に初めて会った。

その日が彼との初対面であったのだが、僕は彼がベジタリアンであると直感した(そして程なくそれは、音楽ライターの伊藤なつみさんに彼がかなりハードコアなベジタリアンだという事実を聞かされて、確信に変わるわけであるが)。やや小柄な上背、何とも中性的で、深い知性と強い意志をたたえた表情。柔らかな口調で僕との初対面の喜びを言葉にしてくれる。彼の音楽を拝聴してきた僕にとって正直少し意外な第一印象であった。

西海岸発の伝説のポップバンド=JELLY FISHの中心メンバーとしてシーンに登場以来、ノスタルジーなアナログシンセサイザーを操るインスト・ポップ・ユニット=MOOG COOK BOOK、パワー・ポップ・バンド =IMPERIAL DRAG、かのBECKやAIRのライブやレコーディング時の敏腕キーボーディスト、さらにはソフィア・コッポラ監督による映画『ロスト・イン・トランスレーション』の音楽を担当したりと、まさに八面六臂な活動を展開する男に対して、僕は勝手に雑食的でもう少しアメリカ的なマッチョなイメージをしていたからだろう。勿論ベジタリアンがやわな音楽を作っているって言うつもりはないのであるが。何を隠そう僕も今から約5年前、ファンタスティック・プラスチック・マシーンの『テイク・ミー・トゥ・ザ・ディスコ』という楽曲のリミックスを彼にお願いしたことがあるのであるが、仕上がったトラックを聴いた時、その余りにも肉食的で攻撃的でタフなトラックに感動したのを覚えている。リミックス名〔MALIBU MIX〕、いかにも日焼けしたアメリカンの健康的な感じがするではないか(実際の彼が不健康だとは言わないが)。そんな初対面の彼がその時に手渡してくれたのが彼の本人名義としては初となるアルバム『SOLID STATE WARRIOR』のサンプルCDRだった。

そしてくしくも、僕ファンタスティック・プラスチック・マシーンの3年ぶりのアルバムと全く同じ2月22日にここ日本でリリースとあいなったわけである。そしてそのアルバムは、彼がフェイバリットに挙げるアーティスト達、例えば、ビーチボーイズ〜ブライアン・ウィルソン、トッド・ラングレン、ビートルズ、カーペンターズ、バート・バカラック、エンニオ・モリコーネ…(まさに僕のそれとドンピシャでもあるわけであるが)などからの影響を素直に反映した、かくも素晴らしいポップアルバムに仕上っていた。いい音楽とは? いいレコードとは?我々がその答えを断言できないでいる間に、彼は素直に音楽と向き合いこんな名作を作りあげてしまったのだ。しかも不思議と彼の繊細なルックスともまんま同調するような雰囲気を持った作品のような気がしたのである。

オープニングナンバーのタイトルは「THE LAND OF PURE IMAGINATION」。これまた凄い偶然に再び驚く。僕FPMのニューアルバムのタイトルは『IMAGINATIONS』というからだ!あまにりも違う見てくれの彼と僕とのシンクロニシティにとても嬉しい気持ちになったのだ。そんな彼のアルバムに対して非常に僭越ではあるが、僕のアルバムのオープニングのモノローグを捧げてみたい。

ロジャー・ジョセフ・マニングJr.,田中知之

想像。 それは私達にとって最高の娯楽であり、 また最大の恐怖である。 ならばいっそのこと、 その享楽と畏怖の両方を極限まで味わってみませんか? 私の音楽と一緒に。

確か別れ際に彼は、「実はもう次の作品も作っていて、それはクラフトワーク meets ファット・ボーイ・スリムみたいなアルバムなんだ」と。いやぁ、こりゃまた次は雑食〜肉食的な作品になりそうだなぁ。そっちも今から非常に楽しみである。

ロジャー・ジョセフ・マニングJr.,田中知之

ロジャー・ジョセフ・マニングJr.,田中知之
エッジィでポップ、ハッピーでインテリジェント、スタイリッシュでリリカル。FPMが掲げるコンセプトは「いつになっても古びないエバーグリーンな楽曲であり、同時にフロアでプレイできるダンストラックであること」。多彩なゲストを招きクラブミュージックというフィールドから一歩も踏み外すことなく、現代人の可能性・限界にまで思いを馳せたプロデューサーズ・アルバムの傑作。

Fantastic Plastic Machine『imaginations 』

ロジャー・ジョセフ・マニングJr.,田中知之

田中知之 (Fantastic Plastic Machine)

DJ/プロデューサーとして国内外で活躍。ダンスミュージックに自身のルーツを散りばめた、独自の音楽スタイルがワールドワイドに支持されている。 2004年に立ち上げたDJ-MIXシリーズ"Sound Concierge"全7作がMIX CD〜コンピレーションとしては異例のセールスを記録中。TAHITI 80、BONNIE PINK、SU (RIP SLYME)、Benjamin Diamondなどをフィーチャーした待望の5thオリジナルアルバム『imaginations』が2月22日にcutting edgeより発売する。