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うまくいかない。何をやっても裏目裏目に出る。普通なら何の問題もなく進むものがまったく進まなかったり、自分の失敗ならまだしも人のせいで窮地に追い込まれる。気を使えばおせっかいだと思われ、黙っているとやる気がないと思われる。

パソコンを触れば原因不明のフリーズ。何を着てもしっくりこないし、ちっともモテない。気晴らしでもしようと思い飲みに行こうかと友人に連絡してみても、誰もつかまらない。八方塞がりの行き止まり状態。そんな時、もがけばもがくほどさらに深みにはまっていく。頭の中で、お笑い芸人ヒロシが登場するときの「ヒロシのテーマソング」がリピートし始める…誰しも多少はそんな経験はあるはず。実は僕も、今あまりいい時期じゃないらしい…。

しかし考え様によっては、とてもいい時期なのだ。人ってそういう逆境とか苦しい経験によって、人間的な深みを増したり、人にやさしくなれたり、いい意味で哀愁をおびたりするものである。逆に失敗や挫折を知らない人間って“底”を見たことがない分、人間として薄っぺらいし、哀愁や色気があまり感じられない。

ライ・クーダー

ライ・クーダーの新しいアルバム『シャベス・ラヴィーン』を聴きながら何となくそんな事を考えた。このアルバムは50年代にロスにあったヒスパニック・コミュニティーの伝説のエリア「シャベス・ラヴィーン」をモチーフにした作品だ。ラティーノでチカーノでイルマリアッチ?な哀愁に満ちた素晴らしい一枚である。ライ・クーダーと言えば数年前にちょっとしたブームになった(これまた哀愁の)ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブのサウンド・プロデュースを手掛けたことでも有名である。あと大好きなのは、ヴィム・ベンダース監督の映画『パリ、テキサス』の伝説のサントラ。これも説明不要の哀愁度300%の傑作だ。とにかく、僕にとってこの人は「必殺哀愁仕事人」なのである。

なんだか最近は、このアルバムをきっかけに、この手の哀愁音楽にはまっている。こんな時期は、流れに逆らわず一人孤独に浸るのも良いかもしれない。

Shimoda

下田法晴/ Michiharu Shimoda

1967 年生まれ。 SILENT POETS /サイレント・ポエツ、グラフィック・デザイナー
1991 年に美大で出会ったメンバーと SILENT POETS を結成。 今までに通算 6 枚のオリジナル・アルバムと 7 枚のリミックス・アルバムなどをリリースし、海外からも高い評価を受ける。現在は DJ Yellow を共同プロデューサーに迎えた次回作を制作中。
その他、 ISSEY MIYAKE のパリ・コレクションの音楽やUA のプロデュースや平井堅のリミックス、またグラフィック・デザイナーとしても活躍している。

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