東信、花
繊細でありながら大胆、そしてコンセプチュアル。人の心につきささってくる強いメッセージ性を、花というオーガニックな素材で表現するのが、フラワーアーティスト、東信(あずま まこと)さんだ。今春のミラノ・サローネでは、幅15メートルもの苔の沼を発表し、世界のメディアの度肝を抜いた。

10年経つと繊維が消える新素材を使い、都市の緑化と人の瞑想の時空を同時に実現する試みが評判を呼び、すぐさま大きな仕事が舞い込んだ。

(上写真)オフィス地下の花屋「ジャルダン・デ・フルール」で。壁一面の黒板には東さんの思考が描き出される

人と自然をつなぐ

東信、花

東京では一風変わった花屋を構え、オーダーメイドのフラワーアレンジメントを中心に手がけている東さんは、今や海外の美術館からも招待を受ける、日本を代表するクリエイター。過去2年間は独自運営のギャラリーで実験的インスタレーションを試みるなど、自身のクリエイティヴィティを研ぎ澄ます挑戦もおこたらない。その姿勢には、現代の人と自然をつなぐリアルな関係性が浮き彫りにされている。

この春、表参道のジャイルで始まる新作展がまた、型破りなものだ。東さん自身が愛する音楽と花とのダイレクトな融合。様々な音を生むコンパクトエフェクターにインスパイアされ、それぞれの音に合わせて花を生けると同時に、エフェクター自体も器に見立てて展示する。「もともと、パンクバンドをやるために、十代の頃、東京に来たんです。だからいつも音は意識していて、今回は思いっきり音と花をミックスしてみようかなと」。 初日は、ライヴを行いながら、整然と床に並べた花を足で踏みつぶしていく。花びらは潰れ、アクション・ペインティングのように色が混ざり合うプロセスがスペクタクルを生む。その様子は映像に記録し、会場で上映。会期中観客は、さらに花の朽ちる様子を生で体験することができる。

(左写真)ミラノサローネ2009で展示した苔庭「Time of Moss」

探求心と実験精神

東信、花

斬新なアート・インスタレーションから最先端技術を使った庭まで、東さんの手がける表現は実に幅広く、制約がない。アクリルや鉄など、素材の開拓にも余念がなく、科学者のような探求心と実験精神がその根底にはある。コンクリート打ちっ放しのミニマルなアトリエ空間は、スタッフが着る白い上っ張りとあいまって、実験室のようであり、肉屋のようでもある。「昔、パリで見た肉屋の様子にインパクトを受けて、いつかこういう店をやりたいなと思っていたんです」。肉や皮に花を生けたりもするというから、驚かされる。 そうした自由な作風が生まれた背景には、九州の田舎で育った経験が少なからず影響していると彼は言う。「ただ、花があたりまえに身近にありましたが、それが仕事になるとは思っていませんでした。東京で、たまたまバイトしたお花屋さんで、『こんな世界があるんだ』『花は生き物だから面白いな』と再発見したんです」。

繁殖に時間のかかる苔の作品もそうだが、東の作品には、生命の時間を意識した作品が多い。“奇形の植物”である盆栽をつり下げた代表作「式」も、生き物の生死と対峙させられるコンセプチュアルな作品で、ドイツで発表した際、大きな反響を得た。「花は愛でるものですが、僕らは植物を殺しながら、生かすわけですから。環境についていろいろ言われていますが、花屋に並ぶのは、切って、死にかけた花で、永遠に生き続けるものではない。花の命を引き受け、きちんと自分たちの手で組み立てて、みなさんの心の中に植え続けていくのが僕の仕事だと思っているんです。そこにもう一歩踏み込んだ意味を与えてあげなければ、ただ虐殺しているだけですから」。

お花屋さんでありたい

東信、花

岩やランドスケープなど、残るものをつくりたいと語る東さんの仕事は、最近、空間や環境へと広がりを見せている。世界を舞台に活躍して実感するのは、その土地によって植物は違うということ。近年は、茨城に畑をもち、自分で植物を育てはじめている。「まだ畑仕事がヘタなので、上手になりたいです。最終的には、広い土地で畑をやりながら、その一角につくった小さな小屋で、お客さんにその場で切った花を生けてあげられるようにしたい」。 一本の木を見たときに、人が何を思うのか。これだけ環境破壊が進む中で、閉ざされた都市環境では、自然はますます遠ざかっていく一方だ。「ただ自然の中に行こうと呼びかけるのではなく、感じることが大事です。こういう時代だからこそ、植物を見て、感じて、心の植物を育てることが、本当のエコロジーだと思う」。

生け花などの流派や制度に寄り添わず、いい意味で自己流。大竹伸朗らコンテンポラリー・アーティストとのコラボレーションの機会も増え、人からいい刺激を受けながら、自ら交配し、進化する。植物を支配するのではなく、同じ目線で接していると言う、自然体の東さんが、「僕はお花屋さんでありたい」と何度も語っていたのが印象的だった。

(左写真)茨城の木々に囲まれた畑で植物を育てている

(text / noriko miyamura, photo / shiori kawamoto)

東信、花

東信「Distortion×Flowers」

会期:2009年5月15日(金)〜6月7日(日) 
会場:GYRE3F「EYE OF GYRE」 渋谷区神宮前5-10-1 Tel 03-3498-6990
時間:11:00〜20:00 ※5月15日は17:00まで
料金:無料

東信(あずま まこと)プロフィール
1976年福岡県生まれ。花屋「JARDINS des FLEURS」を営む傍ら、2005年以降活動の幅を広げニューヨーク、パリ、ドイツで個展を開催。2008年には21_21 DESIGN SIGHTで開催された吉岡徳仁ディレクション「セカンド・ネイチャー」にも参加。