コーヒー&シガレッツ
人間を中毒にさせるものは大きく分けて二つある。一つはアドレナリン爆発のウハウハ覚醒状態になる“アッパー”と、ユルユルなリラックス状態を約束してくれる“ダウナー”だ。前者はパチンコなどのギャンブルや唐辛子のような激カラ食品など。

後者は何かと言えば、お茶にタバコ、人によってはお酒である。私の場合はコーヒーだ。医学的なことは知らないが、時間がゆったりと流れ始め身体の力が抜けてきて、気付くとふう〜とか、むはぁ、みたいな息をついちゃっている。心地よい。

ジム・ジャームッシュの新作『コーヒー&シガレッツ』は、そんなユルい空気の中にある 11 組の会話を並べた作品だ。ネタもダウナーなら作品自体もダウナー、ユルユルな映画である。 実は映画にもアッパーとダウナーがありジャームッシュはダウナー映画の名手なのだが、なかなかその真価が一般化しにくい。“大爆発とか流血とかお色気シーンとかがない”=“退屈”と誤解されがちだからである。

その良さを理解してもらうため、今日は私流の楽しみ方を伝授する。

コーヒー&シガレッツ

それはウトウトしちゃうこと。 そもそも 1 シーン 1 シーンの奇妙な可笑しさを楽しむタイプの映画だから、ストーリーなんて追わなくたっていいし、“あ、寝ちゃった”と目覚めたところから再び見始めても、画面には必ずカッコいいシーンが写ってる。

夢の中で続きがモワモワと展開するのも楽しい。見るたびにウトウトしちゃってもいいのだ。 いや、むしろそのほうが良い。繰り返し見る理由ができるし、その作品さえかければ眠れない夜でもイライラする日でも確実にリラックスできる。ダウナーがくれる心地よいウトウトは、アッパーの興奮と同じくらいに、そりゃもう幸せなのである。 (text / Shiho Atsumi)

コーヒー&シガレッツ

『コーヒー&シガレッツ』

監督:ジム・ジャームッシュ
出演:ロベルト・ベニ―ニ、ビル・マーレイ、ケイト・ブランシェットほか
配給:アスミック・エース
劇場情報:4月2日よりシネセゾン渋谷ほか全国にて順次ロードショー