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未曾有の大不況と言われ、ファストファッションが取り沙汰されるこのごろ。“豊かさ”とは何なのか? 価値観が揺らぐ瞬間に私たちは立ち会っている。10月31日から東京都現代美術館で開催される企画展「ラグジュアリー:ファッションの欲望」は、社会の動きや私たちの欲望を敏感に映し出すファッションを、「ラグジュアリー」という視点で切り取りながら、時代や社会の価値観の変遷を辿るもの。 KCIのコレクションから、100点あまりのミュージアム・ピースが一堂に会し、4つのテーマに分かれて構成されている。

(上写真)メゾン・マルタン・マルジェラ ウエストコート 1989年秋冬 MMM所蔵 本多 誠 撮影

bv2華美に装うことが限られた階級の特権だった時代から、ファッションとラグジュアリーとは深く結びついてきた。一つめのテーマ、【着飾ることは自分の力を示すこと--Ostentation】では、17世紀、エリザベス1世に贈られたという金刺繍のボディス(胴着)にはじまる、視覚的に豪華な衣装や宝飾品が並ぶ。展示品15点は「プレイステーション3」で開発中の高画質画像拡大技術により、生地の細部まで見ることができる。 近代になると、ファッションが特権階級のためだけのものではなくなったこともあり、行き過ぎた装飾を避け、シンプルで日常的なスタイルが求められるように。二つめのテーマ【そぎ落とすことは飾ること--Less is more】では、女性をコルセットから開放したポール・ポワレの流麗なドレスから、シャネルの機能的なアンサンブル、現デザイナー アルベール・エルバスによるランバンに至るオートクチュール作品がずらり。装飾などでごまかしのきかない分、素材の良さ、造形性、職人的技術の高さが必要とされた高度な服づくりを目の当たりにできる。

(左写真)ドレス (ローブ・ア・ラ・フランセーズ 部分) 18世紀前半 イタリア 京都服飾文化研究財団所蔵、広川泰士撮影

三つめのセクションは、ねじれや歪みなどの大胆な手法で美しさの概念を変えたコム・デ・ギャルソンの創造性を提示する【冒険する精神 --Clothes are free-spirited】。このラグジュアリー展は京都で春に行われたのだが、このMOT(東京都現代美術館)バージョンでは建築家・妹島和世(SANAA)の空間造形とコム・デ・ギャルソンの服のコラボレーションが見られる。コム・デ・ギャルソンの斬新な創造性を強調した畠山直哉の写真も見どころだ。

bv2最後は、大量消費社会を揶揄するように割れた食器皿や王冠まで再利用したメゾン・マルタン・マルジェラの【ひとつだけの服--Uniqueness】で締めくくられる。服に表現されたより個人的で知的な遊びにも近い精神的な喜びを満足させる要素も、現代に生きる私たちに豊かな充足感をもたらしている。

ファッションとは常に新しい価値を求めるアンチテーゼの繰り返し。オバマ大統領夫人の装いなどを見ていると、規則や慣例にしばられず、自由なスタイルで心地よく装うことこそが、現代のラグジュアリーと言える。外見的なラグジュアリーから精神的なラグジュアリーへとその価値観は進化している。ファッションを通して、そんな価値観の移り変わりをじっくり感じてみては。

(右写真)コム・デ・ギャルソン(川久保玲) ドレス 1992年秋冬 京都服飾文化研究財団所蔵、広川泰士撮影


shop information


ラグジュアリー,ファッションラグジュアリー:ファッションの欲望

会期:2009年10月31日(土)〜2010年1月17日(日)
休館日:月曜日(ただし11月23日、1月11日は開館・翌日休館)、12月28日〜1月1日
開館時間:10:00〜18:00(入場は閉館の30分前まで)
会場:東京都現代美術館企画展示室B2階 東京都江東区三好4-1-1 Tel:03-5245-4111
料金:一般 ¥1,200
※レクチャー、ワークショップやパフォーマンスなど多彩な関連イベント、さらに詳しい情報はこちらから
(右写真)ヒール フランス 1925年頃 京都服飾文化研究財団所蔵、広川泰士撮影