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英国で行われるファッションの祭典、ロンドンコレクション。ファッションウィーク期間中、様々なデザイナーたちが新作を発表する中で熱い注目を集めるのが、ロンドンのセントラルセントマーティンズ美術学校の生徒たちが行う卒業制作ショーだ。 その中でも、2008年、ひときわ光を放っていたのが日本人デザイナー、川崎祥央の9ルックだった。 2008-2009AWコレクションとして発表されたその卒業制作は、多くの海外モード誌に掲載され、2009年には、日本に戻り自らのブランド“サチオ カワサキ(SACHIO KAWASAKI)”を設立。新人としては異例なほどに順調で幸運なスタートを切った。

サチオカワサキ,SACHIO KAWASAKI 1982年、福岡に生まれた川崎は、図工の時間を楽しみにする少年だった。なぜか曲線が好きで、それが高じてグラフィックデザインに興味を持つように。暇さえあれば落書きをしていた彼は、高校生の頃から美術系の予備校に通い、美大を目指す。そのとき興味を持っていたのは工業デザイン。インテリアデザインや空間作りの道に進もうと考えていた2002年、あるメディアでロンドンのセントラルセントマーティンズ美術学校を卒業するジョナサン・サンダースらが参加した卒業制作に出会う。服を着るのが好きで、洋服には常に興味を持っていたものの、それまでは考えたこともなかった“服飾デザイナーになる”という選択肢がふいに生まれた瞬間だったという。 「この学校なら、作ったものをストレートに個性として受け入れてくれる。この学校でなら、生徒と一人ひとりの個性を尊重してくれると思ったんです」

そして2000年に渡英。セントラルセントマーティンズ美術学校の基礎コースを修了後、チェルシー美術学校の学士課程にてテキスタイルを学び、在学中にインターンとしてパリのバレンシアガでニットデザイナーのアシスタントを経験。その後、セントマーティンズに戻りファッションニットウェア学科の修士課程へ。その卒業制作となったのが前述のコレクションだった。 卒業制作では、三次元的な表現である構築的な服のフォルムと、二次元的なグラフィックを融合させ、絶賛された。「立体とプリントの関係を考えることを軸に、ロンドンという土地柄も考慮に入れて、大胆に、ダイナミックに、ということを意識しました」と川崎。

サチオカワサキ,SACHIO KAWASAKIその延長線上にあるプロデビューコレクション、2009-2010AWでは、立体とプリントとの関係というテーマをさらに追求。作曲家スティーブ・ライヒの「Music for 18 Musicians」にインスピレーションを受け、“Wave of Sound”をテーマに音のビジュアル化に挑戦。その上で、日本やアジアとの調和を意識し、それがイメージできる服作りへとシフトさせた。 「やはり日本人に着て欲しいですからね。日本の女性が着ているところを想像できないような服は作りたくない」とも話す。「自分がやりたいことの追求はもっと着る人がついてきてくれるようになってからでいいと思っています。ランウェイで注目されるデザインと、着る人がいるリアルクローズをバランスよく作れてこそ、ほんとうにクリエイティブだと思うんです。ショーがものすごく素晴らしくても、着てくれる人がいなければ意味がない。実際に着てくれる人がいて、着る人が生きるデザインでないと服の意味がないですからね」 プロデビューとなったこのコレクションでは、1回目でこれほどのクオリティを出せるものかと業界人を驚かせた。それを裏付けるかのように、現在は、日本、アメリカ(NY)、台湾と、扱いが増えている。

多くの人々の期待を背負う中、最新コレクションとなる2010SSでは、海や波の質感を、テキスタイル、生地の質感、グラフィック等でのびやかに表現した。実は、川崎が創作の栄養としているのが、水遊び。日本に帰ってきてから、昔から好きだった海に行く機会が増えたという。 「海釣りが好き。朝早くから海に出かけて、一日中海を見ていると、時間の変化、陽の傾きによって、水の色や水面の輝きが変わるんです。それが美しい。子供のときも川で一日中遊んで、遊びつかれた頃、ぼんやりと水を見ているのが好きでした。今考えてみると、曲線が好きなのはそのせいかもしれませんね」

サチオカワサキ,SACHIO KAWASAKI今後も、シーズンごとのテーマを軸に、柄ものを核としながらも、日常生活から発想されるできごと、思い出、記憶や感覚などから着想を得て、さまざまな試みを続けていきたいと話す。「目の前に花があったとして、それをそのままに描くのでは自分としては気分が盛り上がらない。一度、さまざまなことを取り込み、咀嚼してから、自分らしいスタイルで表現していく。そういうのって、難しいけれど面白いですからね」 そんな創作過程においては、バレンシアガでのインターン経験も大きな糧となる。「ひとつのコレクションにむけた準備をひと通り経験しました。その時のコレクションのテーマは、オートクチュール全盛期の復刻。立体の出し方など、もの凄いテクニックを見ることができました。ディテールが細かいので、袖の部分だけを担当する人がいたり。メゾンごとに、デザイナーを筆頭にして全てのスタッフが持つクリエイティビティと才能が集中してこそ実現する。モデルにしても、服作りにしても、すべてが一流。一流とは何かを実感しました」 豊かな感性と、それをデザインで表現する才能を得て、しなやかな活躍を見せる川崎祥央。経験と日常を糧にしながら、これからますます面白いものを見せてくれそうだ。

text / june makiguchi

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