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セレクトショップが点在する、渋谷から代官山に抜ける住宅街の一角。小さな灯と看板だけが目印の密やかな佇まいにも関わらず、2009年3月のオープン以来、遠方からでも足を運びたいと舌の肥えた大人たちの間で評判なのが日本料理店「TAKEMOTO」だ。

(上写真)100種類以上のダシのバリエーションがあるという、コースの締めに出される季節の小鍋料理は赤楽の土鍋でいただく。この日の「銀鮭の三平汁」には青森の大吟醸「蔵ノ灯」の酒粕を使い、まろやかで上品な甘さに仕上げた

takemoto弱冠39歳のでこの上質な料理店を背負って立つオーナーの武本賢太郎さんは、ひょんなきっかけで料理の世界に飛び込んだ後、老舗「金田中」をはじめとする名だたる料亭で修行に励んできたという経歴の持ち主。素材、味、メニュー構成のバランスの良さはもちろんのこと、肩肘張らない価格で料亭の味を提供する「TAKEMOTO」は、彼の感性が随所に生かされた名店といえる。

(写真右)この日の料理は、すべて¥5,500のコースより(写真左)先附けは、色鮮やかな箱のようなその姿から、「香箱」蟹という名前がついたずわい蟹のメスと下仁田葱、春菊の煮こごり。脚のある器はフォーマルな印象で、これから始まるコース料理を期待させるのに一役買う (写真右上)大分県のヒラマサと、冬が旬の平スズキのお刺身 (写真右下)タラの白子焼きに、姫サザエの煮付け、ふきのびんろう煮、白きクラゲとキュウリの南蛮漬けなどを添えた、絶妙の色合いも美しい焼き物の皿

takemoto武本さんの朝は、まず、築地に足を運ぶことから始まる。「値段を高くするのは簡単ですが、安くても美味しいものを提供するのが腕の見せ所」と、修業時代に培った食材選びの確かな目を武器に、市場の馴染みの店へ。彼が選ぶのは、誰もが知る名産地の高級食材ではなく、一般には馴染みが薄くてもプロの間では定評のある「隠れざる名産地」の「旬」の食材。丁寧な下ごしらえでそれらの食材の持ち味を徹底的に引き出し、武本さんの技術とセンスで加味することが、料亭さながらの季節感溢れる料理を驚くほど安くサービスできる秘密だ。

メニューはコース料理のみ。昼は先附、小鉢、雑炊、デザートからなる¥2,000のコースと雑炊が鯛茶漬けに代わった¥2,500のコース、さらに、¥2,000のメニューに八寸が加わった3種類から選べる。夜のコースは、先附、向附、刺身2種、焼物、鍋、御飯とみそ汁、デザート2品の計8品からなる¥5,500のコースと、刺身4種、さらに料理が2品追加された計10品の¥8,000のコースの2種。どの料理も、珍しい有田焼の高杯の焼絞や、優しい口当たりの薄手の漆など、斬新で洗練された器をキャンバスに、料理が美しく盛りつけられている様に思わずうっとり。たとえば焼き物ひとつとっても、「単純に焼いた魚を供するのでは能がない」と、付け合わせに煮付けや和え物を添えて皿の上を彩るひと手間を惜しまないなど、些細な点にも武本さんの料理に対するこだわりが垣間見える。

takemoto コース料理のクライマックスは、日本人なら誰もが愛する「土鍋」料理で締めくくられる。赤楽の土鍋で供される小鍋は季節によって内容が変わり、どれもほっこりと優しい味わいで、身体だけでなく心まで温めてくれる「TAKEMOTO」らしい一品。まさに武本さんの信条を体現する料理ともいえる。 最高の料理を引き立てる酒類もお見逃しなく。酒蔵と直接交渉し、幻の酒といわれる黒龍「三十八号」を年に2回仕入れるチャンスを得たり、お酒に弱い女性でも楽しめるみかん酒、ゆず酒などの珍しいお酒を発掘したりと、より美味しく食べてもらうためのきめ細やかな配慮を怠ることはない。そんな彼の料理に対する真面目な姿勢に感銘を受けた青森の酒蔵からは、料理に重宝する大吟醸「蔵ノ灯」の麹を譲ってもらえることになったのだとか。

(写真左)「2年目は、毎日満席が目標です!」と、自らハードルを上げることでよりよい店を目指すという、オーナーの武本賢太郎さん。店内は武本さんが好きな土鍋の赤茶色をベースにした落ち着いた空間で、カウンターのほかに仕切られたテーブル席もある (写真左)デザートには、評判の定番わらびもちと、もう一品、洋菓子が付く。この日は、ふんわり軽いレモンムースが供された

見事な手さばきで作られた料理が、絶妙なタイミングで次々出される幸せ。そしてそれらがすべて美味しく、店主のおしゃべりが健やかで楽しい。そんな当たり前のことがないがしろにされつつある今日この頃の外食事情に一石を投じるかのような、「TAKEMOTO」のサービス。過ごした美味しい時間を誰かに自慢したくなる魅力的な日本料理店だ。

photo/chikahito nagai text/kiri ishizawa

restaurant information


takemoto日本料理 TAKEMOTO

住所:東京都渋谷区鶯谷町8-10 代官山トゥエルブII 1-A 
Tel:03-3780-6272
営業時間:ランチ11:30〜13:30(L.O.)、ディナー18:00〜翌
2:00(L.O.24:00) 
定休日:不定休