根来秀行,アンチエイジング,ハーバード
アンチエイジング目的の食事で気をつけることは?特に、体内に直接栄養を取り込む食事というものは、身体の基礎を作る意味でも、とても大切になってくる。「人の体は60兆個の細胞でできていて、それは生まれ変わっているわけです。

その際、原材料となっているのは外から取り入れた物質ですから、いかに理にかなったものを取り入れるかで、大きく構成要素が変わってくるんです。身体に必要なものをバランスよく取り入れていないと、バランスが崩れ、臓器別の疾病が出てきてしまいます」

そう考えると、バランスの悪い食事も、エイジングを加速させる原因のひとつになり得るというわけだ。 「食事は、質だけでなく、バランスも大事です。良いものでもたくさん摂れば、栄養過多になってしまうんです。すると吸収しきれず脂肪になってしまったり、うまく排泄されず毒素がたまってしまったりする。トータルバランスを考えて摂らなくてはならないんです。良いものが血となり肉となるには、ホルモンのバランスも大きく関わってきます。栄養は必要な部分に届けられて、そこの細胞と栄養交換がなされ、初めて新しい細胞となります。食べても胃の段階で排泄されたり、体中の血液に乗って細胞に運びこまれる段階で血管が詰まっていたため上手く栄養素が全身に行き渡らなかったり、細胞に届いても上手く栄養交換が行われなかったりすることもあります。そうなると、どんなに良いものを食べても、無駄になってしまう。つまり、食事というのは必要な栄養素を摂るということだけでなく、その先でどう運ばれ、どう吸収され、どう細胞に行き渡るか、その後、ホルモンなどの作用でどう細胞の中で生かされるのか、そのすべてを意味しているんです。毎日何気なく食べ物を口にしていますが、なかなか深いんですよ」

では、アンチエイジングを意識する際、私たちができることとは。 「最も注目されている食事法は、私の著書、『身体革命』に詳しく書いてありますが、カロリーリストリクションと呼ばれる方法です。単に和訳すると“カロリー制限”となりますが、最先端のアンチエイジング現場でのカロリーリストリクションは、何か特定のものを抑えるという従来型のダイエットとは一線を画する概念を示します。それは、蛋白質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルなど必要な栄養素をバランスよく保った上で、すべてのカロリーを7割ほどに抑えるというものです。実は、それによって若返るということが科学的にわかっているんです。実際に、寿命をはかりやすい虫や動物で実証されていて、人間にも同様のメカニズムが働くことが分かっています。また、カロリーリストリクションによって、具体的にどのようなメカニズムが働き、アンチエイジング効果が現れるのかということもわかってきているため、総合的に考えて、人間にもカロリーリストリクションが有用だと期待されているんです」

根来秀行,アンチエイジング,ハーバード

カロリーを減らすと長寿遺伝子が目覚める!?

そのメカニズムには、サーチュインと呼ばれる長寿遺伝子が深く関わっているという。 「この遺伝子は、数年前、私の所属する研究室と関係しているところで発見されたのですが、カロリーリストリクションを行うとそのサーチュインが目覚め、それにより寿命が延びるためのいろいろなスイッチが押されるということがわかりました。今までは、老化遺伝子、つまりどうして老化するのか、何が老化を促進するのかというものについての研究が盛んだったんです。サーチュインの研究は、こうすると寿命が延びるよという非常にポジティブな研究なんです。これで、寿命に対する考え方は大きく変わりました。そして、実際にどうすればいいのかというところで出てきた方法の一つがカロリーリストリクションというわけです。ただし、漫然と寿命が延びてもだめですよね。その間の、生活の質も重要です。カローリストリクションを実践したアカゲザルでは、毛並みも良くなっているんです。見た目の若さを保てるのではないかという部分については、これからの研究課題でもあります」

ついつい忙しさにかまけて、おろそかにしてしまうこともある食事。だが、これほどまでに、食は大切なのだ。とはいえ、わかってはいても、食事制限がなかなかできないという人も多い。 「その場合は、運動で補えることもわかっています。トータル・カロリーの帳尻を合わせることで、同じような作用が見られることもわかってきています。ですから、食事制限が苦手な方は運動と上手く組み合わせてはいかがでしょう。ただし、これもバランスです。運動もやりすぎはいけません」

verita読者は、30代、40代の女性が中心で、多くの方が忙しく、運動もあまりできず、食生活も乱れがち。いきなりカロリーリストリクションはできないという方が、準備としてできることは? 「重要なのは、運動と食事、睡眠のバランスであり、身体自体が持っている1日のサイクルのバランスも保つことですね。身体自体にもサイクルがあり、それが司るのがホルモンです。身体にはホルモンの分泌を上手く促せるサイクルがあり、身体自体のバランス修復機能があるので、食事や運動のアンバランス、つまりマイナス点を補うことができます。ホルモン分泌は、サーカディアンリズムという24時間周期で変動する流れがあり、時間によって上がり下がりが決まっているので、まずはそれを損なわない生活を心がけ、ホルモンをバランスよく生み出すことですね。12時までには寝て、7時間睡眠をとるなどです。それができるようになったら睡眠の質も高める。そのためには、やはり適度な運動も関わってきます。ただ、『身体革命』に詳しく書きましたが、睡眠、運動、食事が大事だというと、すべて守らなければならないのかと思われがちなんですが、それぞれが密接に関わっていますから、全部を守るというよりは、身体の仕組みを理解した上で、自分にできることから改善していくことが大切です。それだけでも徐々に理解が深まり、身体の中からのアンチエイジングがかなってくると思いますね」 →vol.3 現代日本の食生活の+と−

根来秀行,アンチエイジング,ハーバード

食からのアンチエイジングについてより理解を深めるには

世界最先端のアンチエイジングと健康の法則をわかりやすく解説した“読むアンチエイジング・サプリメント”。食から、睡眠、運動など今すぐにでも実践できる、若さを保つための充実した内容が懇切丁寧に紹介されている。
数多の健康情報が巷にあふれているけれど、ハーバード大学での研究に裏打ちされた本書の方法なら信頼性も高い。意識、そして身体が変わっていくのを楽しんで。

『身体革命』(角川SSコミュニケーションズ)
根来秀行(著)