towa tei,テイ トウワ,motivation
一昨日は軽井沢で一人、シグマー・ポルケを偲んで画集群を眺めつつ、ラリ・プナーの最新作のハマリがとても良かった。もちろん、クラフトワークも。心はドイツに放たれたまま、今日は初夏の東京は港区を抜け出し、別府温泉にいる。珍しく前乗りである。

たいがい、地方遠征でDJするときは当日の午後あたりに現地入りして、現地のごちそうを食べすぎ飲みすぎでDJしたくならないことに気をつけて、仮眠をとってDJ。朝まで飲んで、白々しい朝日をカーテンでシャットアウトして少しだけ寝て、軽井沢までウトウト乗り継いで帰る。そんなルーティーンである。

前回初めてだった大分での車窓の風景で、軽井沢の木々とは全く違う、その丸みを帯びたモコモコ具合がフラクタルな亜熱帯ジャングルさながらの山々に魅了され、よし、次は絶対前乗りして温泉へ行き、色々食べたりしようと決めていた。

少しノートブックで楽曲制作をして、温泉後(湯質は草津、万座の濁った強酸性硫黄臭ではなく無色透明、ほのかな柑橘系の印象)、今晩は仕事がないから、オススメの焼き肉“三五ホルモン”での絶品焼き肉やきびなご、りゅうきゅうという漁師飯でもてなされて、芋焼酎ロックでほろ酔い加減の僕は、だだっ広い和室でジャングル・ブラザースのセカンド・アルバム『DONE BY THE FORCES OF NATURE』を聞いている。

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1988年、鮮烈にデビューした直後の「ジャングル・ブラザース」のアフリカ・ベイビー・バンバータと、確かHOTEL AMAZONという、ニューヨークのローワー・イースト・サイドの大箱パーティで出会った。数々の歌心あるNYディスコ・クラシックスやレア・グルーヴを2枚使いでクイック・ミックスする彼のDJスタイルに痺れ、当時美大に在籍してた僕は、“JUNGLE DJ TOWA TOWA” と書いた名刺を「大ファンです」と全然年下の彼に差し出した。「こういうのは誰がデザインするの?」と聞かれたので、すかさず「ME! ME! ME!」と答えた。 すると、僕のデザインを気に入ってくれたのか、早速翌日、スタジオでニュー・アルバムのアートワークの打ち合せをしたいから「明日来てくれるかな?」、「いいとも!」と、のこのこミッドタウンのカリオペ・スタジオへ出かけることとなる。

ネイティブタンと名乗る、ヤング・ギフテッド・ブラックたちがたむろするスタジオでは、既にアルバムのアートワークに使うことが決まっていたイラストレーションを見せてもらうことと、彼らのアフリカ回帰主義を少しばかり理解することで問題なくあっという間にデザインが見えた。しかし、サンプラーに四苦八苦するエンジニアの鳴らすスピーカーからは、ぎこちないビートのループが延々と流れていて不快だったので、「もしかして、これってさっきからずっと、これとこれの気持ち良いループ・ポイントを探してる?」と聞くと、「YES」とのこと。1時間2〜3万もするスタジオで、この効率悪い作業は不毛だなと思った僕は、図々しくもたどたどしく、「そんなことだったら、うちでタダで出来るよ。ターンテーブルもサンプラーもパソコンもあるし、たくさんビートもあるから良かったらうちでやろうよ」とオファーした。

翌日、東洋人の家に来たのは初めてだと数枚のレコードとカセットテープを携えて6丁目の我が家に来たアフリカは、僕の秘蔵レコード・コレクションを見てFワードを連発。「P-FUNKもウルティメイト・ブレイクビーツも全部あるし、これもあるじゃん! レッドアラートん家でしか見たことないよ」とか、ちょっと興奮気味に数度となくハイタッチされた。音楽好きで良かったな。彼女がカレーライスを作って皆で食べた。

2010年の今日、別府温泉にて、忘れていた数々の思い出が鮮明に蘇った。 そのとき完成したアルバム『Done By The Forces of Nature』のタイトル曲では、僕がプレゼントしたヤン富田さんネタが無断で堂々と使われた挙げ句、お礼のつもりなのか?、テレビから流れていた韓国ホーム・ドラマ番組を指差し、「トウワの声も入れたいから、こんな感じでちょっと怒りめで、『自然の力が大地を駆ける』と言ってくれ」と命令され、ラッパーでない僕はとても嬉しかったけれど恥ずかしかった。

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記憶がどんどん押し寄せる。 ある日自宅でアルバム7曲目の「BELLY DANCIN' DINA」を創っていた時のこと。 デトロイト・エメラルダスだっけ?の定番ビートの上に、ファンキー・ウォームのキャッチーなムーグシンセ・リフから最高のループ・ポイントを延々と探し続けた。その執拗にドス黒いグルーヴの上で試しラップするカッコよさに興奮し、鳥肌が立ったことをハッキリ思い出せた。大ヒットの予感すらしていた。しかし、てっきりその"ネタ・ループ一本勝負"で楽曲はキャッチーに進行していくものだと思っていたのが、いざスタジオでのミックス仕上げになったらそのリフはほぼ終始ミュートされたままで、、、アレ?

結局そのキャッチーなネタ・ループはわずか数回エッセンス的にしか使われなかったこと。大ヒットどころかシングル候補にも上がることすらなく、比較的アルバム中で地味な位置に終わったこと。アフリカは全く想定外、予測不能な天才だなと思ったこと。彼よりさらに天才かもと思える、今でも付き合いのあるQ-TIP を紹介されたこと。なんでもアリなんだな、アルバム創りってホント、プロセスが面白いなあと思ったことなどを思い出した。

そういえば、「BLACK WOMAN」って曲をリミックスしたのだが、それはプロモ・オンリーという形で、非売品のプロモーション・アイテムにしかならなかったというほろ苦い思い出もすっかり忘れていた。 あまり楽しくないことは先に忘れるように出来ているのか、老人力を体得し始めたのか。いずれにしても、久しぶりにそれもフロアでかけたいなと思った。

明日、僕の後に回す浅野忠信くんとブライアンは、22時過ぎの大分入りだそうだ。残念ながら雨らしいが、クラブオーナーの中村くんらは、「全然大丈夫です、もう入場制限手前まで売れてます、明日は女子祭りです!」と言う。それは良かった。ホントかなあ。 深夜1時過ぎ、浴衣を脱いで、薄っぺらい布団に潜り込んだ。

(text/TOWA TEI)

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1990年、世界中のダンスフロアーを熱狂させたDeee-Liteのデビューから20年。ソロアーティストとしてもDJとしても絶大な人気を誇るテイ・トウワワールドを堪能できる一枚が登場。これまでの『MOTIVATION』シリーズと異なるのは、セルフリミックスを含む自身の楽曲リミックスを収録している点。MEG、チボマットのハトリミホなど多彩なゲストを迎えて話題となった最新アルバム『BIG FUN』からの楽曲を中心に、大沢伸一、砂原良徳らによるリミックスを収録し、過去の名曲に新たな彩りを加えている。ジャケットには今年9月に上海で個展を開催するなど、世界的に注目を集めている新進気鋭のグラフティアーティスト、LADY AIKOを起用。7月9日(金)に青山FAI AOYAMA、8月13日には代官山AIRでリリースパーティの開催が決定!

TOWA TEI『MOTIVATION H compiled by DJ TOWA TEI』 ¥2,520(税込) 発売元:hug inc.

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TOWA TEI/テイ・トウワ

90年、「ディー・ライト」のメンバーとして米エレクトラ・レコードよりデビュー。94年、『Future Listening!』でソロ・デビュー。楽曲プロデュース、映画音楽制作、CM楽曲制作などのほか、コラボレーション・アイテムのブランディングなど活動は多岐に渡る。DJとしても、東京、京都での「MOTIVATION」、選曲重視の新パーティ「HOTEL H」など人気レギュラー・パーティや、国内外のクラブ、企業イベント、ビッグ・フェスへ出演している。09年2月リリースの5thアルバム『BIG FUN』、その制作日記を含む初の単行本『BOOK FUN』が絶賛発売中。7月7日には、最新コンピ『MOTIVATION H compiled by DJ TOWA TEI』をリリース。今年アーティスト・デビュー20周年を迎える。