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2010年秋、スーザン・チャンチオロは3歳の娘を連れて1カ月間京都を訪れ、2011-12AWシーズンのコレクション「When buildings meet the sky」の制作を行なった。

(上写真)スーザン・チャンチオロ2011-12AWコレクション発表の様子。演奏者の男性2名が着ているのは、HINAYAが柿渋染をする際に染料で濡れた布を干しておく場所の床にしかれていた布に、スーザンが大感激してポンチョにしたもの。

これは、西陣の伝統から発展していったHINAYAの手織や植物による染色から生まれた職人的なファブリックとNYの展示会場で出会い、入れ込んだスーザンと、HINAYAとの間で2000年代前半から徐々に重ねられてきたコミュニケーションにより、実現に至った共同制作だった。

そもそも、1995年のデビュー以来一貫して、他の人の目線とまったく異なるところから「美」を発見してきたスーザン・チャンチオロは、素材に対しても独特のセレクトがあった。オーガニック生地にこだわる姿勢を見せる一方では、「ファウンド・ファブリック」ともいうべき手法で、既に存在していながら市場に出回っていない生地を素材に、新たな服を再生産する行為を行なってきた。またNYのグラフィックデザイナーと組んで、限定ロットで手作りの柄のファブリックを制作するなど様々な制作実験を、過去に積み重ねている。

今回はもともと京都の伝統的文化に強く惹かれていたスーザンが、西陣の伝統の上に独特な実験と工夫を重ねているHINAYAのファブリック制作の場に2009年に立ち会ったことがきっかけ。コラボレーションの話が生まれ、実際に2010年秋に来日し制作滞在した際には、染めと織の工場に入り浸りって、糸選びや染め色からこだわって織り上げたショールを制作した。また過去のHINAYAの素材を自由にリメイクしたり、街中で発見した割烹着をドレスにしたりと、スーザンらしい自由な発想での制作が行なわれた。

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(写真左)スーザンの生徒であり、スーザンが若手有望視しているカレオグラフィーアーティストのアンドレア。 (写真右)メークは派手でありながら、微妙に、洋服の右袖長袖のむら染とマッチ。大胆に見えて繊細。

その成果発表としてのショーが2011年2月16日、NYのファッションウィーク後半に開催された。観客をあっと言わせたのは、その発表が普通のファッションショーではなく、即興的な実験音楽と、出演者たちによる詩の朗読とダンスが融合した、マルチ・メディア・パフォーマンスだったことだ。

スーザン本人とその他数名のモデルは、NY在住着物スタイリスト 浅井広海が手がけるKimono Hiroの着物を纏っていた。パフォーマーの帯風の結びは、Kimono HiroとHINAYAのファブリックや帯を使って浅井氏がスタイリングしたもの。またスーザンが娘とともに、生地に直接ドローイングした素材から作られたワンピースもあった。さらには日本人が見たら一目でわかる、割烹着ドレスもある。この、一見不思議な要素の混在が、一旦スーザンの手にかかって見せ場を与えられると、一つの世界観にまとまって見える不思議さ。動画にあるように、通常のファッションショーからは程遠い舞台に、観客からは拍手喝さいの場面もみられた。このときのルックはVOGUE ITALIAのサイト上でも見ることができる。

20110413susan_sub2 (右写真)舞台裏で着つけをするスーザン。なぜか着物のように見える不思議な着つけができる。

スーザン自身はこう語る。「振り付けをしてくれたアンドレアは、私が教えている美大パーソンズで出会った、とても才能ある生徒なんです。今回、彼女とのコラボレーションによるパフォーマンスを体験してみて、これから私のすすむべき道はまさに、これしかないという確信をもちました」。インスタレーションによる新作発表形式にこだわったRUNコレクション(1995~2001年)時期から間をおいて、服作りを再開してからしばらく、NYでキャットウォークのファッションショーを積み重ねてきたスーザン。その彼女に、新たなクリエーションに向かうパワーとインスピレーションが与えられたのが、京都での共同制作だったことは間違いない。新しい方向性を見つけたこれからの彼女の活動に、要注目だ。

text / nakako hayashi

INFORMATION
現在スーザン・チャンチオロの、RUNコレクション時代から最近までの1点もののアーカイブ作品が、2011年4月末まで渋谷のニュー・アクエリアスで展示販売されています。最近は不定休・時間を限っての営業ですが、スーザンのライフワークを知る良い機会。ご興味のある方は、電話でアポイントの上ご来場ください。なお、売上はスーザンの意思により、東日本大震災被災地へ寄付されます。
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