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HINAYA KYOTO 清水五条坂店で、スーザン・チャンチオロ展が開催中です(2011年9月30日まで)。著書『拡張するファッション』の表紙に彼女の作品を掲載し、本文中でも約15年前に出会ったスーザン・チャンチオロという 稀有な作家に一章を割いて紹介した私は、9月4日、トークを行ってきました。(トークの模様のユーストリームのリンクはこちら。)

写真上 ©平野隆章

米国ロードアイランド生まれ。ロードアイランド・スクール・オブ・デザインとパーソンズ(NY)を卒業後、キム・ゴードンの「X-girl」のアシスタントを経て、95年自らの「RUNコレクション」をスタート。ハンドメイド、パッチワーク、刺繍、購入者自らがつくるデニムスカートなど、斬新なアイデアに満ち溢れ注目される。96年、NYのチャイナタウンにRUN STUDIOをオープン、同年、映像作品「プロ・アボーション・アンチ・ピンク」、98年には「ダイアダル」(リタ・アッカーマン出演)、2001年に「ラブ・ライフ」を発表。スロー・ファッションを象徴するアーティスト。

スーザン本人がいない場所で、スーザンについてトークをする。とても個性的な作家だけに、本人の世界をきちんと伝えられるかどうか、正直少し、不安なところもありました。でも会場に着いてみたら、2010年秋にHINAYAの招待で実現したスーザンの京都滞在制作の体験が、あちらこちらから漂ってくるような展示の細部一つひとつに、見入ってしまうほどの存在感が。あっという間に私もスーザンの世界に包まれたような気持ちに入っていました。
そして、しばらく店内にいて気がついたことは、その場にいてスーザンの存在感を強く伝えてくるものが、背後に流れる音楽(音声?)なのではないか、ということでした。この場で流れている音楽について、HINAYA代表取締役の伊豆藏直人さんに伺ったところ、2011年2月にNYコレクションにおいて、スーザンが京都で制作したHINAYAとのコラボレーション作品を発表したときの音(スーザンは、通常のファッションショーのようにではなく、音楽と振付のあるパフォーマンスの舞台としてこれらの服を発表。)だということでした。

たくさんのドローイングや、そこに置かれたものたち、どの冊子をとっても1頁ずつ内容の違うZINEなど、あらゆるものがスーザンの息遣いを伝えてくるようなものばかりです。

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まず店の入り口のショーケースには、スーザンと娘のライラックが一緒になって、生地に直接ペイントしていた黄色いワンピースが。昨年京都で制作中、取材に来た私はこの服のペイント風景を見ていましたが、木片に、布用の絵の具をつけてポンポンスタンプを押していくような感じでした。店内にはこの同じ生地をつかった、小さな女の子のための服がありました。二つの黄色いドレスは、スーザンが昨年秋に母子二人ですごした京都での濃密な時間が凝縮されているといえます。

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写真中・右 ©平野隆章

スライドショーの写真は、スーザンが京都の滞在中に撮ったスナップがたくさん。私が写真家Arikoさんとスーザン親子とともにすごした、取材時間中にスーザンが撮っていたスナップも発見できました。店内にはいたるところに、スーザンがHINAYAの倉庫に眠っていた生地をよみがえらせた服や、滞在中にHINAYAの工房で染めや織りのコラボレーションから作り出した作品、京都の地において生まれた新たな出会いから派生したコラボレーションによる品々(たとえばミナ ペルホネンのファブリックを使ったボウタイなど)等々があり、静かに、それぞれの由来の物語を語りかけてくるようです。
ファウンド・オブジェクトを自分の作品に再利用する表現手法も、スーザンの得意とするところですが、なかには京都で見つけたものに自分の手を加えた作品なのかな? と想像させる、草履や和装小物も見つけました。そんな出会いの、ひとつひとつがエキサイティング!

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写真 ©平野隆章

さて、スーザン展の会場となったこのショップは、京都西陣から生まれたテキスタイルメーカーのHINAYAが、今年オープンした路面店です。店内には、西陣織の帯地で知られるHINAYAが独自に開発したスペシャルな織り機が置かれており、来店した人が自由に織っていけるコーナーや、染物、織り物に関する貴重な文献を閲覧できるコーナーもあります。周辺は、清水焼のお店がならぶ地域で、京都ではおすすめのスポットとされている河井寛治朗記念館も近い。是非、チャンスのある方は、足を運んでみてください。(text / nakako hayashi


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「スーザン・チャンチオロ展」
期間:2011年9月1日(木)~9月30日(金) 10:00~19:00
会場:HINAYA KYOTO清水五条坂
   京都市東山区五条橋東4丁目452
ラティエール五条坂1F・2F
Blog:http://hinayagojo.seesaa.net/

1988年、ICU卒業後資生堂に入社。宣伝部花椿編集室(後に企業文化部)に所属し、『花椿』誌の編集に13年間携わる。2001年よりフリーランスとして国内外の雑誌に寄稿、2002年にインディペンデント出版のプロジェクト『here and there』(AD・服部一成)を立ち上げ、2010年までに10冊を刊行。著書に『パリ・コレクション・インディヴィジュアルズ』『同2』、編著に『ベイビー・ジェネレーション』(すべてリトルモア)。最新刊は『拡張するファッション』(2011年6月 ブルース・インターアクションズ)。