Vol.1Special Interview 梶原加奈子さん最新インタビュー

衣服になり、インテリアになり、ツールになる布という素材は、生活に欠かすことの出来ない必需品のひとつだ。 その布にデザイン性をもたらすことは、単なる必需品にファッション性という付加価値を与え、日用品を日々の生活に潤いや喜びをもたらすアイテムに変えることも意味する。それがテキスタイルデザインの力だ。

例えば、数々の世界的なトレンドを生み出してきたヨーロッパでは、服やバッグ、靴などは、フォルムを決めるファッションデザインよりも先に、まずテキスタイルデザインから決められていく。つまり、トレンドは生地から生まれるのだ。

そんな世界的トレンドの源流を生み出しているのが、日本を代表するテキスタイルデザイナーのひとり、梶原加奈子さんだ。昨年には、自身がディレクションするブランド『グリデカナ』をスタート。以来、テキスタイル発想のアイテムを多く発信してきた。

「社会的な背景をもとに、人々がこういうものを手に取るだろうという発想が生まれ、そこから、こんな素材感、こんなスタイルが好まれるようになるだろうという傾向が生まれるんです」。そして、そこから商品開発が始まるのだという。

実は、素晴らしい個性を持った生地の産地が多く存在し、高い技術と志を持った職人たちがいる日本では、最先端のファッショントレンドを支える素材作りが行われてきた。

「日本には素晴らしい技術があり、それを駆使して素材メーカーが素敵な生地を作るので、海外、特にヨーロッパで高い評価を受けています。皆さんがご存知の高級ブランドが主な取引先ですね。でも、そういった素材のトレンドが日本に戻ってくるまでには時間がかかってしまうんです。さらに、日本にある各産地がどんなに素晴らしい素材を生み出していても、生地というスタイルのままでは、消費者が手に取る機会はなかなか生まれないというのが現状。取引先は生地問屋かアパレルがほとんど。素晴らしい技術があって、素敵なものが多くあるのに、日本人に直接届かない。それをとても残念に思っていたんです」。

1年前、テキスタイル発想のオリジナルブランド『グリデカナ』を始めた動機について、こう語っていた梶原さん。今では、ブランドも順調に成長を続け、日本全国で10ヵ所にも及ぶ産地とコラボレーションを行っている。

「1年経った今も気持ちは変わっていません。日本でしかできないものづくりを続けていくということです。日本が持つ技術を使って、コピーされないものづくりをしていけば、ビジネスは必ずその産地に戻ってくる。例えば、オリジナルのカメレオンジャカード(1枚の布なのに裏表違う柄を持つリバーシブルジャカード)がそうです。スペシャルな技術なので、定番化していきたい。『グリデカナ』を立ち上げたのも、素晴らしい素材を安定して使い続けたいから。そうすれば、メーカーも産地も苦労が報われますから」

産地とともに――。これは、梶原さんがよく口にする言葉だ。産地の技術と、膨大な知識と経験を持つ職人たちがいなければ、自分の仕事は成り立たない。そんな敬意と親しみが込められた言葉だ。「長い時間をかけて産地の皆さんと開発してきた素材が、『グリデカナ』を通して商品になり、多くの方々に紹介する事が出来ました。そして、お客様から頂く声を産地に伝える事によって、一緒に開発を支えてくださっている方々の気持ちが明るくなる。共に未来に向かっていける事がとても嬉しいです。同じ技術を使っていても、毎回、発見があり、次回の修正点に気が付きます。そして、改善する事や挑戦する事で、新たな側面を少しずつ伸ばしていけます。このように、開発技術を磨いていく事は、日々、少しずつの進歩です。『グリデカナ』のスタッフと産地の皆さん、そしてお客様と会話する事によって、その積み重ねを一緒に挑戦していけるブランドとして成長していきたいです」

産地やメーカーの得意技を知り、その技を使ってこんなものを作りたいと相談し、一緒に開発していく。その繰り返しによって、カメレオンジャガードを始め、世界が驚く素材を世に送り出してきた梶原さん。「それが産地活性化にもなる。海外にもこんな素材があるとプレゼンをしていくことが"その後"に繋がる。生み出した素材がどうやったら売れるか考えるのも私の役割。私が素晴らしいと思い続けるだけでなく、人に伝えて、理解してもらい、ビジネスにしていく。実は継続にはこれが重要なんです」

もうひとつ、継続のために大切にしているのが、トレンドばかりを追わないという考え方だ。ファッションと流行は切り離せないものだが、それは使い捨てとイコールではない。良いものを長く愛用し続けたいという人々の気持ちに訴えかけるように、『グリデカナ』では素晴らしいものはシーズンの区切りを決めず何度でも提案し続けていきたいと梶原さん。
「ですから、一過性のものではなく、使い続けられるものという視点を持ってアイテムを生み出しています。そして、責任を持って、そんな活動を続けていきたいと思っています」

産地の今をより深く理解するために、来店者たちの声を伝えるために、そしてすべてを次に生かすために、梶原さんは全国に点在する産地を訪れる時間も大切にしている。

「任せっぱなしにするのではなく、現場や技術の特徴を理解するのも大事な仕事なんです。テキスタイルデザイナーは感性だけではなく、この生地を作るのに適しているのが、どこの産地の、どんな技を持つ職人さんなの知っていなければ、新しい素材を生み出せない。さらに、それぞれの生地を生む機械の仕組み、化学反応、コストのことなど、あらゆることを知り、何が可能かわかっていないと、職人さんに何をしたいのかが伝えられない。13年やっていますが、まだまだ。だから、知識のある産地の方々にパートナーとして側にいていただく。この仕事には、自分を表現する喜びもありますが、産地で働く人々や職人さんたちの努力を伝える喜びもある。そういったことを知ることが、皆さんにとって日本により深い愛情を抱くきっかけになってくれれば嬉しいです。これは、ものづくりの動機にも深く関わっていることなんです」

日本のものづくり技術と梶原さんの発想が幸せに融合したアイテムの数々を手に取り、その背景を知れば、それがもはや単なる物ではないことがわかるはず。「身につけることでも満足感を覚えられるものを」。『グリデカナ』に込められた様々な想いを知れば、梶原さんがそう話す意味が、きっと理解できるはずだ。

そして今、梶原さんはこんなことも考えている。
「先日、被災地に行く機会があり、多くの方々の生活を再度作り上げていく事が大変厳しい状況である事を感じました。その中で、衣食住は、暮らしの中でとても大切な事だと再認識しました。緊急の際、学校のカーテンが人々の体を温めたそうです。テキスタイルは、身を包み、体を守る機能性があります。また、明るい色で絵を描いた生地を近くに掛けるだけで、環境が綺麗になり、華やかになる。というお話もあり、心に残りました。私たちの生活の中で役に立つテキスタイルの機能性を提案する事、そして心を豊かにする生地の使い方は、まだまだ可能性があると思いました。『グリデカナ』では、この1年間、スカーフやバックの提案が多かったのですが、今後は身を包み暖かさや涼しさを感じる気持ちが和らぐ服や、家具、何でも包めるカバー、そして2way、3wayで必要な用途の選択が出来る企画を今後考えていきたいと思いました」

『グリデカナ』誕生から1年経った今、店頭には2011年秋冬の新作、"SEED"をテーマにしたアイテムが多く並んでいる。
「有田焼の柿右衛門の窯元に行く機会があり、伝統工芸を作り続ける真摯な現場と職人さん達を見た時、その静寂さに心が動き、感動しました。長い歴史と多くの人の努力による引き継ぐモノについての大切さを考え、その意思から感じる温もりを表現したいと思ったため、SEED、種の継承からイメージしてテーマを考えました」

ワークショップのレポートはこちらから。

そして来年、2012年春夏のテーマは"NATUREROID"。
「人間に限りなく近づこうとするアンドロイドのように、自然に限りなく近づこうとする『ネイチャロイド』という言葉を作りました。自然をナチュラルなまま表現するのではなく、アフリカの部族たちがお祭りの時に変装するように、鮮やかな色彩や自然の表皮をモチーフにしたテクスチャーを使い、自然に同化するイメージを表現しました。日頃から、北海道の大地を見ていて、人は自然と共に生かされていると思う事が多いのですが、3.11の大震災があった後、さらに強く自然の脅威と無情とその一部である私たちの存在を感じました。私たちの原点は自然との同化であり、そこから生まれる人々の文明や生活があると思います。明るく強く未来を祈る祭りのイメージや、花や草木が何度も生まれる事に希望を感じます。自然に溶け込む事で強さの中にあるリラックス感を表現したいと思いました」

最新シーズンを代表するアイテムとなるのはこんな生地だ。 「今回、被災された宮城県気仙沼にある紙を作る工場で糸を作りました。その紙には、今回のネイチャロイドをイメージしたイラストをプリントし、それをカットして糸を作り、タテ編みのラッセルという技法で生地にしました。生地になった後は、色がミックスして、まるで木の皮と花が混じり合ったような、不思議な色の混ざり合いと新しい質感のテキスタイルが生まれました。バックやポーチとして商品を展開します。また、今シーズンを象徴するアイテムとしては、スタイリングや気分によって使い方を選べるような2wayのスカーフ提案を増やしています。ニューアイテムとしては、帽子やワンピースなどに、『グリデカナ』の世界を表現しています」

クリエーションを行うときにはいつも、自然をベースにしたテーマ作りや生きていく事への明るいメッセージが、気持ちの中にあると話す梶原さん。

「前回、人々の繋がりやDNAの継承を意識したテーマは、今回、自然との繋がりに広がっていきました。繋がりというものに、関心を持ち続けています。『グリデカナ』では、毎回様々なデザインを提案していきますが、ベースには同じ生地のテクニックを使って展開している素材も多いです。同じ技術から生まれるデザインのバリエーションも、是非楽しみにして頂きたいです。また、積極的に様々なコラボレーションに取り組み、新しい出会いから生まれるデザインを探求していきたいです。」

梶原さんと産地にとっての新しい1年、『グリデカナ』第二章はすでに始まっている。
(text/jun makiguchi, photo/shiori kawamoto)

梶原加奈子 Kanako kajihara
1998年に多摩美術大学デザイン学部染織科を卒業した後、(株)イッセイミヤケに入社。me ISSEY MIYAKEのプリントデザインなどを担当し、2001年にはテキスタイルデザインをより深く探求するため渡英。Royal College of Artでテキスタイルに関わるデザイン、プロデュース、ビジネス展開についてのすべてを学び、テキスタイルのプロになるスキルを学ぶ。2010年秋ライフスタイルブランド『グリデカナ』のディレクション。
gredecana AOYAMA SHOP
住所:東京都港区北青山3-13-12
Tel:03-5464-6310
営業時間:11:00~20:00
定休日:毎週水曜日 (祝日の場合は営業)
グリデカナに関するお問い合わせ:
フリーダイアル0120-029-251
受付時間 10:00~18:00(ただし、土日祝祭日を除く)
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