Vol.1 交錯する文化から生まれた 奇跡の香港キュイジーヌ

大西洋の広大な海に浮かぶ孤高の楽園、ハワイ オアフ島。今から約1500年前、航海技術に長けた古代ポリネシア人が新天地を求めてこの島に移り住んできたときにオアフ島の歴史は始まる。 オアフの環境に馴染みながら彼ら独自の文化を築き上げた。その後、19世紀になると農業が経済の中心となり、はじめ砂糖やパイナップル農園ができ、その後大自然に恵まれたこの島ではさまざまな農作物が育まれていった。そんな歴史を持つオアフの食文化だが、ここ十数年さらに世界各地からの食文化が取り入れられ、オアフの伝統的な料理は、ハワイ・リージョナル・キュイジーヌとして新たな息吹を吹き込まれることになった。海外リゾート地としても根強い人気のハワイ オアフ島。いま、島を訪れたなら、世界でも類をみないほど、個性的で豊かな食材にあふれたグルメの数々に出合えるだろう。

ハワイ・リージョナル・キュイジーヌと聞くと、一般的にはハワイ独自の地のものを使ったフレンチスタイルの料理法により、東洋と西洋の料理を融合した創作料理のことだと思われがちだ。ところが実際には、このハワイ・リージョナル・キュイジーヌは、多くの移民が移住してきたハワイの歴史を背景にしたハワイ独自の食文化を受けたオリジナリティのある創作料理のことを指しているのだ。また今では、移民文化が融合しているだけではなく、旬の食材を使ったいわゆる地産地消の料理全般をも意味するようになり、オアフ島には大小様々なレストランがハワイ・リージョナル・キュイジーヌとして運営しているのだ。

少し前までのハワイの食事情は、アメリカ本土からの輸入に依存してきた食材が多かったことから、伝統的なハワイ料理の存在感は希薄になりがちだった部分がある。そこでハワイ独自の食文化を明確に打ち出した料理を確立し、ハワイならではのグルメのあり方が模索されはじめた。そこで1991年、12人の凄腕料理人によって、それまで評価の低かったハワイ料理に革新に挑むべく発足したのが、「ハワイ・リージョナル・キュイジーヌ」なのである。

これによりそれぞれのシェフは、地元の食材を使い、イタリアン、フレンチ、中華料理、日本料理、アメリカンコンテンポラリーなどの料理と自分の食文化を融合させる斬新な創作料理を誕生させた。シェフはより鮮度の良い良質な食材を求め自ら地元農家、水産業者、養殖業者、大学の研究室などに協力を呼びかけ、優れた食材の生産と開発に取り組んだ。これに刺激を受けた生産者も、新しい食材の生産を試みてはハワイの風土に合った品種改良を続けるなど、生産者と料理人が共に協力し合いながら地元産業を活性化していった。その努力が実り、今では島内で新鮮な食材が手に入るようになり、ハワイの食生活は急成長を遂げ、"土地の恵みを食べる"という古代ハワイの食の思想を取り戻したのだった。

昨今、映画界のアカデミー賞同様に、アメリカの料理界では最高峰の栄誉あるジェームス・ビアード賞を、ハワイ・リージョナル・キュイジーヌで最も活躍するシェフたちが受賞しているのをご存じだろうか。ロイズ・レストランのロイ・ヤマグチ氏、アラン・ウォング・レストランのアラン・ウォング氏、シェフ・マブロのジョージ・マブロサラシティス氏の3氏だ。

ウォング氏は、ハワイ・リージョナル・キュイジーヌの発足後の変化と、今後の発展をこう話している。「ハワイ・リージャナル・キュイジーヌを発足した20年前は、契約農家と生産品の資料をまとめるところか始まり、ハワイの農産業を活性化することが目標でした。今ではアスパラガス、アーティチョーク、にら、ハート・オブ・パーム(ヤシ)、ケール、スィス・チャド等の野菜や、ティラピア、カンパチ、モイ、チョウザメなどの養殖魚、レッド・ヴィール(子牛)、地元の草で育てた牛肉など、新しい食材を育てる生産者が増え、消費者が直接買い求めることができるようになってきました。一方で、世界では、魚の乱獲、持続可能性、食の安全、地域食材の供給が減少し輸入食品への依存が高まるといった、かつては存在しなかった課題に直面しています。ファーマーズ・マーケットの急増は、消費者が生産者から直接地域食材を購入することができるようになり、地産地消が生活に取り入れられるようになってきました。そしてハワイの家庭料理や調理により適した地域食材、ファーマーズ・マーケットや生産者、生産物の増大はハワイの地産地消を推進する上で最も重要になってきました。食糧供給が変わると料理も変わるように、消費者の期待や要求が変わると、シェフも変化していきます。世界における食の課題が変わりつつある今、自分達のためにも社会的責任として正しい行動をとることが持続可能な社会には必要不可欠なことだと思っています。」

世界を取り巻く食事情のなかで、それぞれの地域がどう自給自足の食経済と文化を守り、育てていくかについては、世界のどんな場所にとっても大きな課題のひとつだ。ハワイ オアフ島のハワイ・リージョナル・キュイジーヌはそんな世界の食事情にも通じながら、これからも独自の道を歩みながら、現在進行形で進化を続けていくに違いない。

現在、ハワイ・リージョナル・キュイジーヌのパイオニアシェフたちは次代のシェフの養成にも力を注いでいる。オアフ島のカピオラニ・コミュニティ・カレッジをはじめとする地元の高校などでは本格的なシェフ養成プログラムが提供され、シェフたちが大きな信頼を寄せる優れた農園家たちもまた次代の若手農園家たちを育てている。この20年で地元の人たちの食への意識レベルが高まり食通も増えた。今やエピキュリアンをも唸らせる話題のレストランが続々と登場している。料理のスタイルや型にはまった形式にとらわれることのないシェフ達が、おいしさと自分のスタイルを追求したハワイでしか味わえない一皿を生み出し続けているのである。