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近頃メンズアイテムを愛用する女性たちが増えている。実用重視のコンセプトや、機能美に惹かれて、あえて男モノを手に取るという。パッケージのデザインは素っ気ないほどクールだったり、シャープだったりするけれど、使ってみればなるほど納得。キラキラで華やか、キュートなアイテムも大好きだけれど、本物の良さ、上質を知る大人の女性ならば、ジェンダーの枠を軽やかに飛び越えられるはず。

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vol03_pht012009年6月、映画『サガン 悲しみよ こんにちは』が日本公開となり、再び注目を集めそうなフランスの女流作家フランソワーズ・サガン。実は彼女、女性で最初にジーンズを履いた人物と言われているのをご存知だろうか。この伝記映画でメガフォンを執ったディアーヌ・キュリス監督は、こんな風に話している。

写真左)メンズライクなシャツ×パンツというシンプルな組み合わせなのにエレガント。そんなアンビバレントなファッションで知られたフランソワーズ・サガン。ウエストマークしたベルトや顔周りを華やかにするスカーフ使いで、フェミニンな雰囲気をプラス。 
©Solange Cazier-Charpentier/Sygma/Corbis/amanaimages 


そう、ほんの半世紀前まで、ジーンズは女性のものではなかったなど、今の定着ぶりを見れば信じられないほどだ。ジェンダー、ジェネレーションを越えた必須ファッションアイテムとなったジーンズ。だが、それを履くことが、カッコいいから、好きだからという以上に、意味と主張を持っていた時代があったのだ。

INFO:
映画『サガン 悲しみよ こんにちは』
©2008 ALEXANDRE FILMS / Etienne George




vol03_pht03「ブリジット・バルドー同様、女性の自由と独立の象徴だった。白馬の王子様を待たないで、2人とも運命を自分の手で切り開いていった。時代の最先端をいく女性のお手本ね」と監督が言うように、BBと並んで時代のアイコン、自立した女性の象徴だったサガン。美しく、魅力的で、才能溢れる時代のアイコンだからこそ、ファッションにも滲み出てきた自由な精神を人々は真似をしたいと思い、女性たちがデニムを求めるようになったのではないだろうか。

(写真右)ジェーン・バーキン
マニッシュスタイルのお手本にしたい人NO.1といえば、ジェーン・バーキン。トレンチコートだけでなく、やはり軍用だったPコートもお気に入りアイテムのひとつ。少し濃いめのしっかりアイメイクという選択もお見事。
©Jacques Haillot/Apis/Sygma/Corbis/amanaimages



彼女のように、男性的なアイテムを好んで身につけるアイコンが現代にも存在する。年を重ねても、少年のような初々しい魅力を湛え、それでいてエレガンスを体現しているような存在。ジェーン・バーキンだ。彼女の愛用品の中に、バーバリーのトレンチコートがある。かなりカッチリとした男性っぽいデザインだが、彼女がさっそうとセクシーに着こなしている姿に憧れ、トレンチコートを購入した人も多いだろう。トレンチコートは第一次世界大戦時にイギリス軍が開発した防水型の軍用が起源となっている。トレンチとは、塹壕のこと。厳しい塹壕での戦いでもへこたれることがなかったことから、その愛称がつけられたという。日常的なファッションとして注目を浴び始めたのは、1930年代以降のこと。フィルム・ノワールでハンフリー・ボガートらが着用したことから流行となり、その後、機能とデザインを兼ね備えたファッションアイテムとして女性にも愛されるようになった。

vol03_pht04この2例からもわかるように、かつては男性用のファッションアイテムだったものが一般女性に浸透するには、そのアイテムの優秀さ、普遍性はもちろんのこと、優れた“スポークスパーソン”が必要だった。そういえば、今では女性にとっても当たり前となったパンツスタイルだが、その先駆けとして男性用タキシードを参考にスモーキングを発表したのはイヴ・サンローランだった。

そんな時代から数十年―。女性を取り巻く環境は大きく変わり、もっと自由に女性たちが、楽しみや欲望に忠実に、世界を広げていけるようになった。ファッションのみならず、男だけの文化や遊び、例えば競馬や葉巻、立ち飲みといった愉しみも、女性にも人気だ。

昔なら、男性と女性の文化や服装は、はっきりと区別されて育まれた。だが、もはやそんな区別は無用の時代。今は、男性よりも女性の方が楽しめることは増えているのかもしれない。そんな時代にあなたがもし「これは男性のものだから…」と思って手を出すのをためらっているものがあるとすれば、ジェンダーの壁を作っているのはあなた自身ということになる。だから性別にこだわらず、既成概念という垣根を越えてきた先人たちを見習って、自分の欲望に正直になってみてはいかが?

(写真右)イヴ・サンローランのスモーキングスーツ 
©1975 by Helmut Newton (te Neues Publishing Company「YVES SAINT LAURENT AND FASHION
PHOTOGRAPHY」)