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写真左:久留米絣の甚平ワンピース。素朴な月桂樹模様と文人が着る着物として使われた文人絣と藍染めリネンとの組み合わせ。 右:苧麻でできた大きな筒袖のカシュクールと巻きスカート。

水戸の会期を経て、6月14日から始まった四国・丸亀市の猪熊弦一郎現代美術館では、会場空間に合わせて前田が一人で設営を行った。水戸の展示とパフォーマンスを経て、2度目の展示にあたっては、改めて細部が再考された。 水戸のパフォーマンスの日に集められたオブジェ、ガラスの壷や水晶などの鉱石、パフォーマンスの日に前田が着ていた着物などが新たに加わっていた。つまり「大きくは水戸の展示と一緒だけれど、細かく見ていくと、COSMIC WONDERの今により近づいた」かたちでMIMOCAの展示空間は完成されている。

remoc円形の敷物はよく見ると幾何学模様の刺し子が施されている。中には、前田自身が指したものもある。「親指が痛くなりました(笑)」と笑う前田だが、ちょうど一年前の夏、ある時期は、「もう服作りをやめます」と彼が発言していた時期もあったのだから、その笑顔は長年COSMIC WONDERの活動を見続けてきた私にとっても、とてもうれしい笑顔だった。

秋冬の新作にたいする、COSMIC WONDERの世界観を一番よく現しているのが、「拡張するファッション」展における展示だという。その部屋をよく注意して見れば、たしかに数着の衣服がある。しかしその空間で「服」をまず見つける人は少数に違いない。円形の敷物、木の枝や水晶、古い食器などそこに置かれたいくつかのオブジェ、農作業の用具、白木の台などとともに、ひっそりと、服がある。それは、都市中心の、一方的な消費に傾いた生活の在り方全般に対してまた別の、日々の生活との向き合い方、すなわち食物なり衣服の素材なりを、暮らしのなかで自分たちの手を加えながら生産することを、シンボリックに示していた展示であった。

写真左:撮影:ホンマタカシ
MIMOCAでの展示風景(部分)


「これから作る服は、今までも取り入れていたのですがさらに徹底して、天然の草木染めや、手織り手つむぎなどより伝統的な制作方法に基づいた素材を中心に、展開していきたいんです。そのためには会社ごと京都の田舎のほうに引っ越す計画があって、今もそのために、組織ごとゆるやかに変えていっています」。より少数の、家族的な運営によるデザインチームとして、拠点を商業や通商の中心地からずらしていく。MIMOCAでのオープニングの夜も、BLESSのデジレと前田征紀はそのような「変革」の可能性について、真剣に語り合っていた。
BLESSはすでにそれを実践しているデザイナーとして、一時期はメキシコに拠点を移し、現在はLAベースになった、自分たちと同郷のドイツ人デザイナー、ベルンハルト・ウィルヘルムの名をあげた。都市から距離をおき、地方に拠点を移す動きはファッション界にも起こり始めているが、しかしそれはことに日本ではファッション界に限らず、さまざまな分野で東日本大震災以降顕著になってきた新しい流れでもある。

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左:仕事着の裏地を剥いで作った刺し子の藍染めワンピース 右:日本の絹の八角ブラウス。

13COSMIC WONDERの新しさは、そのような、毎日の自分たちの暮らし全体の在り方にかかわる変革を、新たな組織編成や仕事の仕方によって、自分たちなりの服作りを継続しながら、並行して実践していこうという姿勢にある。この難しい時代にあって、ビジネス的には軌道に乗っていた時期に、あえて、なぜそこまで大胆に「変えたい」のか? という、TVのアナウンサーが聞きそうな問いを彼らにむけて発しても、具体的なエピソードや明快な回答は帰ってこない。日々私たちが生活のなかの一つ一つの行為を無自覚に行っているように、彼らのチョイスは往々にして、言葉で整頓しようとしてもはみ出るような、いろいろな感情や感覚から実践されているからだ。

右:円形のダンスウェアーは軽いオーガニックリネンとオーガンジー古布絹の切り替え。

私が何より重要だと思うことは、たとえ背後にある彼ら思想や、生産スタイルの変遷期にあるという事情を知らなかったとしても、彼らの新作である服を目にしたら、その服に袖を通したら、新たな感覚の着衣体験が待っているということ、その服自体の完成度の高さそのものである。彼らのつくる服が、素材の色や質感に癒されながらも高い質のデザインを維持しており、センスと感覚のエッジィなバランスの鋭い極みで、ファッションとして成立しているということ。つまり、美しい素材でつくられた美しい服であり、また、新しいデザイン感覚を備えているということ。これだけ服が溢れている時代でありながら、そのこと自体は他に類をみないことなのだ。 (text / nakako hayashi

前回掲載の「『日々の生活が、アートになる』スーザン・チャンチオロ:MIMOCA「拡張するファッション」展より 」はこちらから。



拡張するファッション
期間:2014年6月14日(土)~2014年9月23日(火・祝)10時~18時(入館は17時30分まで)
会場:丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(香川県丸亀市浜町80-1)
URL:本展詳細はこちら

1988年、ICU卒業後資生堂に入社。宣伝部花椿編集室(後に企業文化部)に所属し、『花椿』誌の編集に13年間携わる。2001年よりフリーランスとして国内外の雑誌に寄稿、2002年にインディペンデント出版のプロジェクト『here and there』(AD・服部一成)を立ち上げ、2014年までに11冊を刊行。著書に『パリ・コレクション・インディヴィジュアルズ』『同2』、編著に『ベイビー・ジェネレーション』(すべてリトルモア)、共著に『わたしを変える”アートとファッション” クリエイティブの課外授業』(PARCO出版)。展覧会の原案となった著書『拡張するファッション』(スペースシャワーネットワーク)に続いて2014年には、展覧会の空気や作家と林央子の対話を伝える公式図録『拡張するファッション ドキュメント』(DU BOOKS)が発売された。

contents

水戸芸術館「拡張するファッション」展で行われたパスカル・ガテンのワークショップ報告 journal by林央子

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館「拡張するファッション」展 ホンマタカシとPUGMENT

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