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Photo: Kenji Takahashi

私たちが普段頻繁に目にしている対象として、人の顔をとりあげて、表現の題材にするのは古今東西よくある事例だ。浮世絵の大首絵からドイツ人現代アート作家のトーマス・ルフによる巨大なポートレート写真まで、多くの例が挙げられるだろう。いま日本で活動している若手ユニット Nerhol が IMA CONCEPT STORE で開催中の ATLAS展は、ポートレート写真を素材に取り上げながら、また新たな立体作品としての世界を築き出し、注目されている。

Nerhol はアートブックを中心にデザインするグラフィックデザイナー田中義久(東京在住)と、 文字を彫刻作品にするアーティスト飯田竜太(青森在住)の2人組。結成は7年ほど前にさかのぼる。普段はそれぞれの仕事を抱えながら、コラボレーションを続ける。「毎回 Nerhol として何かに取り組むたびに、発見があるし、問題も出てくる。一つやったら出てきた問題を解決するために、その次の問題に取り組む、という感じです」。問題はコンセプトに関わることであったり、表現手法や技術に関わることであったりさまざまだ。

恵比寿の limArt 、原宿 VACANT の2階、恵比寿の Gallery KOKO 、そして今回の展示(六本木 IMA CONCEPT STORE [~11月30日]と原宿 GYRE [~11月20日])と、話題のスペースでの展示が続いている彼らだが、どういう思いを背景にして作品を作り出しているのだろうか。二人に話を聞いてみた。


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——結成のきっかけは?

nh_zuhan飯田 僕は文字を彫刻にする作品を作っているのですが、誰かが書いた本や誰かに使われていた本を素材にすることに違和感を覚えたことがあって、その時に僕が彫る素材としての本を田中に作ってもらおうと思って依頼したんです。そうしたら、彼が当時僕の住んでいた静岡県まで訪ねて来て、たくさん質問された。びっくりしました。その対話がきっかけになって、今も Nerhol の活動が続いていると思います。

右:結成きっかけとなった作品。 Oratorical type「H」, 2008 ©Nerhol

——一人は東京在住、もうお一人は青森在住。お二人の共同制作はどのように行われますか?

田中 すごく話をします。メールや宅急便のやりとりも頻繁ですが、メールだけでは伝わらないこともあるので、よく電話をしています。結果、双方の妻が怒る(笑)。ですが通常自分の仕事としてデザインをする上でも、相手と話をするプロセスはとても重要です。

——なぜ「顔」をテーマにとりあげられたのでしょう?

nh11田中 人は常に変化していて、最終的には死んでしまいます。そのように、有機物として人をとらえているのですが、人それ自体に焦点をあてるのではなく、人も環境の一部としてとらえたい、人を白地図のような感覚でとらえ直したい、と考えたのが ATLAS展の出発点です。

飯田 人の動きを彫刻にとらえたい、と考えました。動きを表すには、色々なイメージを素材にする可能性があったのですが、動くものは何だろう? 動物だろう、いや人だろう、ということになりました。そのなかでなぜ顔なのかというと、伝えやすいというか、顔が一番興味をもってもらえる対象であることが前提でした。また制作のために調べて行くうちに、統計学上「3分」という時間がでてきました。ある統計学の先生にリサーチのため話を伺ったのですが、人間の動きを調べていくと、その人の3分間の動きのなかにその人の人生が集約される、その人の寿命もわかってしまうという話を聞き、とても興味深いと思いました。

田中 映像で一人の人が3分間写っているのを見ても、ある一人の人だという認識しか生まれない可能性があります。一方で、人に座ってもらって3分間、フラッシュをたきながら200カット写真を撮ると決めてみると、どうなるか。「なるべく動かないで下さい」と最初に話しておいても、必ずずれてしまうし、その動き方やずれ方も、人によってものすごく違うんです。右側に倒れがちな人、左側に倒れがちな人、前後する人、すごくたくさん動く人、逆にあまり動きがない人、というように。最初に「動かないで下さい」と頼んでいるので、動いた身体をもとに戻そうとするのですが、また同じ方に傾く、といったように、動きのニュアンスが画像として現れるところが面白いと思いました。
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Photo: Kenji Takahashi

飯田 現象や考えを文字に置き換えるのが文学だと思います。でも文学によってあるイメージをそのまま伝達しきれるかというと、しきれない部分が残ると思う。それが弱さでもあるけれど、弱さゆえの美しさでもある。それを彫刻に置き換えることに、もともと僕は興味をもっていました。

——実際に写真を束ねて彫ったり、あるいは撮影するときなど、今回のシリーズ制作中にどんなことを考えていましたか。

飯田 Nerhol の今回の作品を彫っているときは、ドローイングの感覚に近かったです。目が長く見えるように切ったりとか、切り方によって見え方も随分変わるけれど、そこは偶然に委ねるというか、ドローイングを制作するときのような気持ちで彫っていました。

田中 すべての被写体は違う人ですし、国籍もなるべく異なる人を集めようと思いました。どの人も違うということ、そのことを本の形にすることで、保存していこうとしているのです。白地図を編集していくように、一人一人を撮影した画像を本として保存する。そして、飯田がそれを彫る。普段から Nerhol は紙の束を彫刻にしているのですが、一人一人の写真が本の形をとったのは、今回が初めてです。二人共写真は撮れないので、自分たちでライトのあて方やシャッタースピードを決めて、プロの写真家に撮ってもらいました。
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Photo: Kenji Takahashi

——その方たちの普段の撮影方法から離れて Nerhol のコンセプトのために写真家も協力されたということですね。被写体の方がたや写真の技術を提供した人のなど、おおくの人が参加しているプロジェクトですね。

田中 被写体の方のなかには、名前も知らない方もいます。でも展示のたびに呼んで展示を見てもらいます。自分の顔がずいぶん変わっているので、面白がって見てくれます。一人の人の写真が200枚あると、同じように見えても一枚一枚全部違う。いつも飲む飲料水が、同じ水だと思っていても、環境や気候によって味が変わっていたり、あるいは放射能によって飲めない水になっている可能性もあったり、結局全部違う水であるように、同じように見えて有限であるということを知ることは興味深いことではないかと思います。

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nh_zuhan一人一人の写真は、それぞれ一冊ずつ本になっている。表紙に ATLAS というタイトルが入り、小さく番号が振ってある。ギャラリーには、壁一面にたくさんの人の顔のイメージが並べて設置されていたり、2冊の本のページを前後貼付けて立体作品のように置かれていたり、見応えのある展示になっている。

青森在住の飯田は普段、子供に美術を教える教員資格取得のために勉強中の若い学生に教えたり、学生と一緒になって子どもの美術ワークショップを企画したりと、ゆったりした時間が流れるなかで、制作に向き合っている。東京でグラフィックデザイナーとして多忙な日々を送る田中と、二人の日常のスピード感やテンションのメリハリにずれがありそうなところもまた、二人が共同制作をする原動力になっているのかもしれない、と取材の後に想像した。

■Nerhol (http://nerhol.com)
田中義久と飯田竜太によって 2007年に結成。 国内外の美術館やギャラリーの展覧会への参加し、 現代の経済活動が生み出し続ける消費と生成、忘却という巨大なサイクルの急所を突くような作品を一貫して制作している。2014年には、Foam Talent Call 2014に選出され、L'Atelier NÈerlandais(Paris)やUnseen Photo Fair 2014(Amsterdam)、FESTIVAL IMAGES 2014(Switzerland)などのグループ展に参加。
http://www.foam.org/press/2014/talent-paris

(text / nakako hayashi
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