osteria
料理が好きという人なら、北イタリアのモデナにあるレストラン「オステリア・フランチェスカーナ」とシェフのマッシモ・ボットゥーラの名前は知っているだろう。ミシュランの3ツ星、ガンベロロッソの3本スプーン、そしてイタリア料理界のありとあらゆるタイトルを持つこのレストランが、 残していた最後のタイトル「世界ベストレストラン50」の第1位に輝いたのは2016年のこと。 本書は、「オステリア・フランチェスカーナ」がなぜ世界的に評価されるのか、また世界最高の料理人マッシモ・ボットゥーラはいかにして生まれたか。その思考と創造の秘密に迫る世界初のドキュメントだ。

osteria2世界一のタイトルを手にした料理人、マッシモ・ボットゥーラは、アートにも造詣が深いことで知られている。本書の第1章「10キロの彼方に」では、彼の料理哲学とアートの結びつきを象徴するエピソードが紹介されている。ある美術コレクターがイタリアを代表する現代アーティストのジーノ・デ・ドミニティスに肖像画を依頼する。制作のためにアトリエに招かれ、喜んで訪れた美術商はさんざん待たされたあげく、ようやく彼が描いたのはキャンバスの中央の点。「さあ、あなたの肖像画ができました」と言われて不思議がっている美術商に、彼は続けてこういった「これが10キロ先から見たあなたの姿です」と。この話を親しい画商から聞いたボットゥーラは、「伝統料理であるトルテッリーニもコテキーノもウナギもイワシも、ありとあらゆる食材や料理が依然と同じようには見えなくなってしまった(中略)たとえ料理一つとっても見方によって、全く異なることを知った」と本書より。(「」内、本書より引用)

世界一のレストラン、世界最高の料理人という山の頂きに導かれたボットゥーラの人生には、いくつかの転機があった。本書を読み進めていくと、個々の出来事が、彼の想いや思考を抱き合わせにしながら、リアルに目の前に立ち昇ってくる。「5種類の異なる温度、熟成、テクスチャーのパルミジャーノ・レッジャーノ」や「モルタデッラのパニーノの思い出」など、現在「オステリア・フランチェスカーナ」のスペシャリテとして、世界中の美食家を唸らせる料理の数々も、ボットゥーラが生きる上で創造されていった必然の産物であることが、手に取るように理解できるはずだ。

osteria5著者である池田匡克氏は、日本で出版社勤務の後、渡伊し、現在はフィレンツェに在住。『伝説のイタリアン、ガルガのクチーナ・エスプレッサ』『シチリア美食の王国へ』『イタリアの老舗料理店』など著者も多数あり、2017年にはイタリア料理文化の普及貢献の功績で「レポーター・デル・グスト」を受賞するなど、国際的に活躍するジャーナリストのひとりだ。本書刊行にあたっては、シェフとの深い交流を通じての丹念なインタビュー、料理の撮影、執筆のすべてに携わっている。その語り口からは、イタリアの文化や歴史、料理に対する造詣の深さと、ボットゥーラの料理とレストランに向けられた親密であたたかな眼差しが感じられる。

本書では、美しい写真とともに「ポー川をさかのぼるウナギ」(写真左)をはじめ、代表的な料理「偉大なる12皿」の貴重なレシピも初公開されている。また「世界ベストレストラン50」日本評議委員長の中村孝則氏との談話など、世界のガストロノミーのトレンドに精通している池田氏ならではのコンテンツも魅力だ。だが敢えて、本書は美食家、料理好きの方だけでなく、料理やレストランに興味がないという方におすすめしたい一冊でもある。ボットゥーラと彼を取り巻く人々の、仕事に、そして人生に、飽くなき情熱を傾ける姿に心が揺さぶられる。そんな清々しい読後感を、ぜひあなたも味わってみてほしい。

ikeda<書籍概要>
『世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ』
著者 池田 匡克
河出書房新社 定価2700円(本体2500円)

≪著者プロフィール≫
1967年東京生まれ。1998年よりイタリア、フィレンツェ在住。イタリア国立ジャーナリスト協会会員。イタリア料理文化に造詣が深く、イタリア語を駆使してシェフ・インタビュー、料理撮影、執筆活動を行う。著書に『伝説のイタリアン、ガルガのクチーナ・エスプレッサ』『シチリア美食の王国へ』『イタリアの老舗料理店』など多数。2014年イタリアで行われた国際料理コンテスト「ジロトンノ」「クスクス・フェスタ」などに唯一の日本人審査員として参加。2017年イタリア料理文化の普及に貢献したジャーナリストに贈られる「レポーター・デル・グスト」受賞WebマガジンSAPORITA主宰。
イタリアを味わうWebマガジン「サポリタ」
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