heiga01
二度目の訪問である。六本木の四辻を行き交う車の喧騒から離れ、その昔龍土町と呼ばれた界隈にある一軒の日本酒の店「長谷川栄雅 六本木」。 青山墓地(ハーディーバラック)からミッドタウン(旧防衛庁)に抜ける道の途中、国立新美術館(歩兵三聯隊)前の三叉路を右に一本入ったところの、キリリ真っ白な暖簾が目印だ。

兵庫姫路の造り酒屋ヤヱガキ酒造が昔ながらの醸造法を守り、作った純粋な高級日本酒「長谷川栄雅(5種類)」を直売する店舗である。勿論ここで試飲ができるのであるが、通常ありがちな店先で乾き物や漬物などをつまみに利(き)猪口(きじょく)で好みの酒を試すスタイルではない。五種類の高級純米酒を五種類の酒の肴と共に味を確かめる趣向がユニークなのだ。三月ごとに、今最も注目を集める気鋭の料理人が、「長谷川栄雅」の5種類の酒の風味ごとに五行に即した工夫を凝らし、五味充実な酒の肴をこしらえている。

この冬は年末から年始にかけて暖冬と言われているが、当然のように酒の仕込みは寒中に行われる。それは温暖湿潤な日本列島に昔から伝わる酵母の働きを抑え、品質の良い酒を造ろうとするためだ。試飲の出来る5種類の高級純米酒「長谷川栄雅」は、心白が大きい最上級の山田錦と林田川の伏流水(軟水)を均一に発酵させた麹を用い、一子相伝、醸された間違いなく旨口の酒であり、おしなべて淡麗な味わい。一滴残さず綴りたくなる。“Rice is beautiful”なお酒なのである。

年始1月から3月までの期間は、大阪のコンテンポラリーフレンチレストラン「La Cime(ラ・シーム)」のシェフ高田裕介氏が担当するというので、どんな春待ちの季節の酒と肴が待ち受けているかと期待し、足を向けた。

heiga02

まずシェフについてご紹介しよう。高田シェフの創る料理は、“宝石箱のような芸術的な料理”と評され、食材の組み合わせや香りの使い方など細部に至るまでの緻密な構成が特徴で、いまの時代に合った現代的なフランス料理と評判だ。「La Cime」は、2016年から連続でミシュラン2つ星を、「2019年アジアベストレストラン50」で14位を獲得し、国内外からの評価も高い。

今回の長谷川栄雅とのコラボレーションについて、高田シェフは「日本の食材をふんだんに使うラシームの料理は、日本酒との相性が良いと常々思っておりました。このような素晴らしい日本酒に料理を提供できることを嬉しく思います」と、今回の肴(アテ)創作へのこだわりについて述べている。

heiga04

酒:肴(アテ)
栄雅 純米大吟醸:蕗の薹/アンチョビ(濃厚なお米の香りと旨味に、蕗の薹の旨味と渋味が寄り添います。)
栄雅 特別純米:山葵/胡桃ケーキ(香ばしさとまろやかさに、クルミの香ばしさと、山葵の爽やかさを)
長谷川 純米大吟醸 三割五分:菜の花/ハマグリ(ミネラルを感じる硬質な香りに、ハマグリのミネラルと菜の花の苦味が絡みます。)
長谷川 純米大吟醸 五割:シャドークイーン/桜エビ(柔らかな甘みに、シャドークイーンのまろやかさと桜エビの甘みを)
長谷川 特別純米:晩白柚/海ぶどう/木の芽(柑橘を思わせる爽やかな香りと苦味 晩白柚と木の芽の香りが引き立てます。)
お品書き by 高田裕介(La Cime)

1品目:牛蒡のような円柱に細工したものはなんだろうと口に運ぶ。どうやら蕗の薹とアンチョビのエキスの詰まったものとのこと。パリッとした歯触り、瞬間蕗の香が広がる。
2品目:旨口の特別純米酒で喉を潤わせ、半割りした胡桃が点に盛られた一口サイズのケーキをシャクッと食べる。一瞬の山葵と香ばしさ。
3品目:米を三割五分に削った大吟醸に、菜の花にハマグリのエキスが巻かれたひと品。琥珀酸の旨味とほど良い苦味が閉じ込められている。
4品目:五割削った大吟醸に(紫じゃがいも)シャドークイーンを葉っぱの形に薄くしたパリパリのチップス。一枚はグラスの上、中にもう一枚、桜海老のピュレと共に味わう。芋と小さな海老の濃厚なエッセンスは新食感の美味さ。
5品目:晩日柚(ザボン)と海ブドウのほんのチョッピリを匙でジュースと一緒に味わう。早摘みの木の芽の香りが鼻に抜ける。

肴の5種類全てと酒の喉越しは言うことなし。日本酒と肴(アテ)に主従関係があるとすれば、言わずもがな酒が主で肴が従といえるだろう。だからよく、会席など日本料理が酒の肴ばかりだと言われるのは料理人が日本酒に合わせて料理を一皿、一鉢拵えるからだ。素材と淹(だ)汁(し)が混然一体となった「La Cime」5種の肴は品質のよい日本酒を十分に際立たせていた。
店を訪れたのが夕方ちょっと前の時刻。店内の一室に通されると障子の明かり取りには薄陽が差し込み、生け花の紅を照らす。いかにもこの静謐な空間で、年始をスタートさせるにふさわしい日本酒体験となった。

取材・文/山根泰典

shop information


hasegawainfo長谷川栄雅 六本木

住所:東京都港区六本木7-6-20 1F
Tel:03-6804-1528
営業時間:12:00~20:00
定休日:火曜
長谷川栄雅 公式Webサイト




heiga03La Cime(ラ・シーム)

住所:大阪市中央区瓦町 3-2-15 瓦町ウサミビル1F
Tel:06-6222-2010
営業時間:ランチ 12:00~13:00(L.O 15:30)、ディナー 18:30~20:00(L.O 23:00)

高田裕介氏(La Cime オーナーシェフ)
1977年、奄美大島に生まれる。辻調理師専門学校卒業後、大阪市内のフレンチ、イタリアン数軒で9年間働く。07年、渡仏。「タイユヴァン」、「ミーティング」、「ホテルムーリス」などフランスの3つ星レストランで修行を積み、09年に帰国。数店を経て、2010年、現店をオープン。2012年にミシュラン1つ星獲得、2016年2つ星に昇格。2017年も2つ星を獲得し、国内外から様々なオファーを受け業界内から注目を集めている。食材を起点に、フランス料理の枠にとらわれない柔軟な発想力によって料理を生み出し独自の世界観を持つ。アートや写真、音楽にも興味があり、常に感性を磨きながら表現の幅を広げている。
http://www.la-cime.com/






profile


山根泰典(やまねたいすけ)/ 作家・食ジャーナリスト

1964年、東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、放送局に勤務。退職後、実家が営む老舗料亭に戻り、日本料理業界においては東京日本料理組合理事、日本料理文化振興協会理事、東京ふぐ連盟理事を歴任。その後、自身の体験に基づく老舗料亭における人間模様を描いた小説の執筆を機に、作家に転向し創作活動をスタート。日本の地方食文化や食材食味、流通、料理にまつわる取材・執筆を行う。また、昭和の時代の社会現象や戦争と平和をテーマにした創作活動をライフワークとしている。著書に『広島のみじかい夏やすみ』がある。
<関連記事>
【FOOD COLUMN】日本酒の肴(アテ)”五味五調”の西洋のつまみ by 山根泰典|長谷川栄雅 六本木

このエントリーを含むはてなブックマークはてなブックマーク - 【FOOD COLUMN】春待ちの季節の酒と肴 by 山根泰典|長谷川栄雅 六本木 Vol.2 Check