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2020年9月1日、東京大手町に新たなラグジュアリーホテル「フォーシーズンズホテル東京大手町」が誕生した。注目はホテル最上階である39階のダイニング空間。イタリア料理「ピニェート」、フランス料理「エスト」、バー「ヴェルテュ」はいずれも素晴らしい東京の眺望が味わえる、注目の新名所だ。

2020年9月1日のグランド・オープン直後に訪れた「フォーシーズンズホテル東京大手町」39階ダイニングフロアは、このご時世にも関わらず多くのゲストで賑わいを見せていた。それは長らく自粛が続いたがゆえにきちんとした服装で外出して食事することに誰もが飢えていた、ということもあるのだろう。「フォーシーズンズホテル東京大手町」オープンは、多くの人が待ち望んでいた久しぶりに明るいニュースなのだ。


オープンエアでアペリティフを楽しむ絶好の新スポットの誕生。

39階ダイニングフロアはイタリア料理「ピニェート」、フランス料理「エスト」、バー「ヴェルテュ」で構成され、「ピニェート」からは皇居が、「エスト」からは東京駅が、そして「ヴェルテュ」からはスカイツリーが見渡せる。また、レストランにはそれぞれテラスがあるので季節のいい時期には戸外でのアペリティフを楽しむことができる。
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イタリア料理「ピニェート」で皇居が見えるテーブル席に着くと、間もなく2つのレストランと1つのバーを統括するイタリア人エグゼクティブ・シェフ、マルコ・リーヴァが現れた。マルコ・リーヴァは北イタリアの景勝地コモ湖の出身で、元バスケットボール選手だったという経歴を持つ。大阪、バンコク、上海など主にアジア圏のホテルで重要なポジションを歴任し「フォーシーズンズホテル・ジャカルタ」でエグゼクティブ・シェフを務めた後、東京大手町のオープニングを任される。長身ゆえにその姿は非常に目立つのだが、なにより「ピニェート」のテーブル席をくまなく周り、サービスや料理の進行具合をくまなくチェックしている様子にプロフェッショナルな姿勢が伺えた。

イタリアンの伝統と奥深さへの原点回帰を目指した最上階レストラン。

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この日試したのは4品からなるコース「トレヴィ TREVI」7,000円。最初に登場した「ブッラータ BURRATA」はイタリア直輸入のフレッシュチーズ、ブッラータを使った冷たい前菜で、3種類のミニトマトとほろ苦いルーコラ、バジリコのソースで南イタリアの代表的な前菜カプレーゼ仕立てにしてある。冷たくきりっと冷えたブッラータの脂をトマトとヴィネガーの酸味がすっきりと洗い流してくれる。
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続くパスタは「ガルガネッリ GARGANELLI」で、これはエミリア・ロマーニャ地方の卵を使った手打ちパスタ。溝のついた独特の器具で整形する家庭料理の代表で、ラグーソースに合わせることが多いが、この日はガルガネッリにクラッシュアーモンド入りのシチリア風トマトソースを合わせてあった。さらに南イタリアの夏を思い出させるイチジクとブッラータ。これも優しいトマトの酸味にイチジクの甘み、そしてアーモンドの食感と、いくつもの要素を組み合わせた満足感あるパスタだった。テイスティングサイズではなく、パスタの量もしっかりと食べ応えあるのがいい。

ピッツァイオーロ(ピザ職人)が粉から手掛ける自慢のピッツァ。

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ここでメニュー外だが、マルコ・リーヴァが試食用にとピッツァ・マルゲリータを出してくれた。ラグジュアリーホテルにピッツァという組み合わせは実は意外ではない。特にランチタイムにはスパークリングワイン、あるいはビールとピッツァというスタイルはイタリア人にもうけているのだ。フレッシュなトマトソースに上質なモッツァレッラ、香り高いバジリコ、そして空気のように軽い生地。近年イタリアでもコースの中にピッツァが登場することや、逆にピッツァだけのコースもあるが、いずれも上質の小麦粉を使い、加水率を高めて長時間発酵させた生地を使う。すると焼き上がりは軽く、香ばしく、決して胃にもたれない。このピッツァはコースの合間に登場しても、しっかりと存在感を示しつつするりと食べられる、そんなヘルシー・ピッツァだった。

イタリアの郷土料理、国民的味わいをを存分に堪能できる充実感。
FourSeasons_pigneto_04一方メインの肉料理「サルティンボッカ SALTINBOCCA」はローマを代表する郷土料理。本来はセージを挟んだ薄切りの仔牛肉をプロシュットで包み、粉をつけてフライパンでソテーして仕上げるのだがこれはかなりの厚切り。白ワインでなくマルサラを使った甘くて濃厚、リッチなソースで、ポルチーニ茸のソテー入り。イタリア料理はパスタが主役で肉料理は脇役、という考え方もあるがこの「サルティンボッカ」は堂々と主役を張れる存在感際立つ料理。

最後のデザート「ティラミス TIRAMISU」はもはやイタリアを代表する誰もが知る国民的デザートだが、作り手によって千変万化。マスカルポーネでなく生クリームを使う人、クリームチーズを使う人、卵黄を入れる人、ラム酒を入れう人などバリエーションは無数。この「ティラミス」は材料もテクスチャーもとてもオーソドックスで、教科書通り見本のようなティラミスだった。

都内屈指のホテルレストランとしての新たな展望に満ちた第一歩。

FourSeasons_pigneto_06食後にマルコ・リーヴァがバー「ヴェルテュ」を案内してくれたので、席に座りしばし話し込む。「コロナの影響で開業も2か月遅れたし、イタリアから届かなかったものもたくさんある。でもなんとかOPENすることができたので、その点は満足しています。本当はランチブッフェにしたかったのですが、コロナが収まるまでそれはできない。100%予定通りとはいえませんが、その分若い料理人もサービススタッフもこれからどんどん成長していく、そうした楽しみがあるといえるでしょう」と語ってくれた。

確かにまだ「ピニェート」は試運転状態で、本当の実力を発揮するのはこれからなのかもしれない。それでも開業直後に詰め掛けた人々の楽しそうに食事する姿を見ていると、多くの人が「フォーシーズンズホテル東京大手町」で過ごせる日を待ち望んでいたのだ、という事実を再認識する。マルコ・リーヴァが提唱する「ピニェート」のテーマは、アッボンダンツァ。それはイタリア語で「たっぷりの量」を意味するのだが、同時に自宅で友人たちをもてなす際の「遠慮せずに食べてください」という意味も含まれているように思う。ラグジュアリーなホテルでありながらアットホームで、イタリア料理の原点回帰を目指したレストラン。「ピニェート」はそんなスタイルがよく似合うと思うし、イタリア伝統料理の奥深さと重要性を日本にもっと伝えたい、そう話すマルコ・リーヴァの真摯な姿勢とメッセージが、スタッフにも、そしてゲストにも徐々に浸透してゆくのだろう。「ピニェート」がさらに成長してより高みを目指す、これからのプロセスを楽しみにしたいと思う。

Photo&Text Masakatsu Ikeda




bar information


FourSeasons_pigneto_infoフォーシーズンズホテル東京大手町

住所:東京都千代田区大手町1-2-1
ピニェート
朝食 6:30〜10:30(LO10:30)
ランチ 11:30〜14:00(LO14:00)
ティータイム 14:30〜17:00(LO16:30)
ディナー 17:30〜22:00(LO21:45)
年中無休
予約Tel:03-6810‐0630

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池田匡克 ジャーナリスト、イタリア料理愛好家

1967年東京生まれ。1998年よりイタリア、フィレンツェ在住。イタリア国立ジャーナリスト協会会員。イタリア料理文化に造詣が深く、イタリア語を駆使してシェフ・インタビュー、料理撮影、執筆活動を行う。著書に『伝説のイタリアン、ガルガのクチーナ・エスプレッサ』『シチリア美食の王国へ』『イタリアの老舗料理店』『世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ』など多数。2014年イタリアで行われた国際料理コンテスト「ジロトンノ」「クスクス・フェスタ」などに唯一の日本人審査員として参加。2017年イタリア料理文化の普及に貢献したジャーナリストに贈られる「レポーター・デル・グスト」受賞。WebマガジンSAPORITA主宰。
イタリアを味わうWebマガジン「サポリタ」
http://saporitaweb.com//
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