panettone2020_main2(写真)恵比寿「レス」のパネットーネ。

近年日本でもクリスマスが近づくと見かけるようになったのが、イタリアを代表するクリスマス菓子パネットーネ。「菓子」というよりはどちらかというとパンに近いイメージがあるが、実はパネットーネとはイタリア語で「大きなパン」という意味。 イタリアでは11月になると食料品店や菓子店の店先はにわかに活気付き、いろとりどりのセロファンや専用ケースに包まれたパネットーネが一番目立つ場所に登場する。「クラッシコ」と呼ばれる伝統的なタイプはレーズンやオレンジピールが入ったものだが、チョコレートやベリー系、洋梨などさまざまなフルーツを使ったものや、パルミジャーノやサラミなどを使った塩味タイプまでさまざまだ。また、クリスマスプレゼントとしてパネットーネを贈りあう習慣もあるので、イタリアの家庭ではクリスマスツリーの足元にいくつものカラフルなパネットーネの包みが並んでいることもしばしば。それだけに違うタイプのパネットーネがあったほうが長くクリスマスを楽しめるのかもしれない。

パネットーネ作りは、その見た目のシンプルさとは裏腹に実に複雑で手間がかかる。そのためレストランで作ることは一般的には難しく、菓子店や専門店で熟練の職人のみが作ることができる菓子だ。職人の腕によって出来栄えが左右されるので、イタリアでは「あそこのパネットーネが一番美味しい」「いや、あっちの店の方が美味しい」というパネットーネ議論が活発に繰り返されているのだ。

panettone2020_piattosuzuki3(写真)麻布十番「ピアット・スズキ」のパネットーネ。
一時期日本でも「パネットーネ菌」なるものが存在するとまことしやかに囁かれていたが、イタリアに「パネットーネ菌」なるものは存在しない。通常生地の発酵に使用されるのはリエヴィト・マードレ Lievito madreまたはリエヴィト・ナトゥラーレ Lievito naturaleと呼ばれる自然発酵を重ねて、安定させた発酵種。店によっては師匠から受け継いだリエヴィト・マードレをかけ継いで大切に育て、パネットーネ作りに使用する店もあるほど大事な要素。小麦粉、卵黄、そして大量のバターにリエヴィト・マードレを加えて練り上げ、一次発酵、二次発酵、三次発酵と手間をかけて丁寧に生地を膨らませるからとても滑らかで伸びがよく、舌触りも口溶けも良く香りもよい上質なパネットーネが誕生する。そして最後にオーブンで焼いた後、ふくらんだ生地がしぼんでしまわないように、逆さにして吊るすのもパネットーネ作りならではの光景。こうした写真や映像がテレビや雑誌、新聞を賑わすようになると「ああ、もうクリスマスも近いな」とイタリア人は感じるようで、まさに歳時記的な意味もある。

そこで今回は東京で手に入る「東京パネットーネ・ベスト5」を選んでみた。イルミネーションがますます華やかになるこの時期。今年はコロナの影響で会えなかった友人たちへのプレゼントにするのも、自宅で家族とゆっくりと少しづつ味わうのもいいだろう。個性様々なパネットーネはきっと心も食卓も、豊かなものにしてくれるはずだ。

パネットーネに魅せられたシェフベーカー自慢の作品
マンダリン オリエンタル 東京



panettone2020_mandarin3 「マンダリン オリエンタル 東京」のシェフベーカー中村友彦さんは元々はフランス菓子出身だったが、「マンダリン オリエンタル 東京」に職場を移しイタリア人エグゼクティブ・シェフであるダニエレ・カーソン氏と出会ったことからパネットーネ作りに目覚めて、本格的に取り組むようになった。サポート役であるダニエレ・シェフも味のアドバイスをするだけでなく、中村さんを現地イタリアへパネットーネ視察に派遣するなど全面的にサポート。あちこちの工房を訪ねて食べ歩いたり、大会を視察した中村さんの作るパネットーネは、ダニエレ・シェフも認める本格派で、クリスマスだけでなく季節のフルーツで通年食べられるパネットーネ作りを目指し、日夜研鑽を重ねている。「クラシコ」は生地の伸びも香りもよくまさに王道。マロングラッセとチェリーを使ったタイプは冬らしい味わいで、洋梨とチョコレートは食後酒が欲しくなる、あと引く美味しさ。「クラシコ」「マロングラッセとチェリー」「洋梨とチョコレート」それぞれS1,000〜1,300円、L2,500〜3,000円。
panettone2020_mandarin2
■ザ マンダリン オリエンタル グルメショップ
https://www.mandarinoriental.co.jp/tokyo/nihonbashi/fine-dining/cake-shops/gourmet-shop
日本とイタリア、2人のパテシエによるコラボ
レス



panettone2020_less2019年9月に恵比寿に誕生した「レス」は、坂倉加奈子さんとガブリエレ・リーヴァさんという日伊2人のパティシエがOPENした菓子工房。6席限定のイートインコーナーで食べるスイーツも人気だが、一年を通じてパネットーネを販売しているのでパネットーネ・ファンにはすでにその名が知れ渡った存在。というのもガブリエレさんは実家がミラノの菓子店=パスティッチェリアで、12才から働いているという筋金入りの菓子職人。Less202010290015「レス」で使用しているリエヴィト・マードレは、今は閉店してしまった実家で働いていたパネットーネ専門の職人が残したもの。おそらく70年は生きているといわれており、ガブリエレさんはどこの国で働いた時も持っていったという、いわばパネットーネ職人の魂。これがパネットーネ特有の香りや生地の伸びを生み出す、決して真似のできない味の秘訣なのだ。壊れにくさを追求したという専用のボックスも、まるでフィレンツェの洗礼堂=バッティステロを思わせる幾何学的な美しさ。いただいたらいつまでも飾っておきたくなる、そんなパネットーネ。3,850円。

■Less Online Shop
https://lessonlineshop.com/
作り続けて20年、日本が誇るマエストロ
ピアット・スズキ



panettone2020_mainミシュラン東京にて14年連続1つ星を維持しているイタリアンの名店「ピアット・スズキ」。鈴木弥平シェフは長年パネットーネ研究に時間を注いでおり、自らもパネットーネを作り続けている数少ないシェフのひとり。鈴木シェフのパネットーネさんとの出会いはもう20年以上前、イタリア菓子界の巨匠イジニオ・マッサーリ来日をきっかけに本格的にパネットーネ作りに挑むようになった。以来独学で研究を重ね、毎年常連を中心に人気が高かったのだが、昨年はミラノで初めてミラノで5つのパネットーネ大会に出場。全大会で入賞するという快挙を達成し、パネットーネ界の巨匠に贈られる称号「マエストロ」を獲得した。レストランの厨房で作るパネットーネは1日8個が限界という、鈴木シェフ究極の手作り作品。リエヴィト・マードレを大事に育てて管理し、バターとさまざまなフルーツをたっぷり使ったリッチな生地は伸びもよく、その香りと味わいは思わず唸るほど。イタリアの味を知り尽くしたシェフが作るパネットーネ、はひと味もふた味も違う。3,960円。
panettone2020_piattsuzuki
■ピアットスズキ
東京都港区麻布十番1-7-7 はせべやビル4F
Tel:03-5414-2116
母種から作り始めるパネットーネの求道者
フィオッキ



panettone2020_fiocchi 世田谷区千歳船橋でイタリア料理店「フィオッキ」を営む堀川亮シェフも、やはりパネットーネ作りに魅せられたイタリア料理人。今年で3年目になるという堀川シェフのパネットーネ作りだが、研究を重ねながらも何度も失敗するうちに少しづつわかってきたそう。堀川さんのパネットーネの特徴は、なんといってもリエヴィト・マードレ作りの作業から始めること。ヨーグルトを使って一週間かけて仕上げたヨーグルト酵母をリエヴィト・マードレとして使用し、小麦粉もイタリアの小麦粉産。加水や油分、砂糖についても配合や比率を細かく研究するなど、職人というよりもむしろ研究者に近い徹底ぶり。焼きたてよりも3日目以降、特に一週間ぐらいが一番美味しくなるという、進化する生きたパネットーネを作る。また、国産の上質な柑橘類を使用しているのでその香りの高さもまた特筆もの。小3,200円、大4,000円。
panettone2020_fiocchi2
■フィオッキ
https://www.fiocchi-web.com/
ミラノの老舗菓子店とコラボしたイタリア直送パネットーネ
アマン東京



panettone2020_aman 今年から販売を始めた「アマン東京」のパネットーネは、ミラノの老舗菓子店「マルケージ」とコラボした、Wネームのコラボ・パネットーネ。重量1キロと大きめサイズだが、これは大きくなればなるほど焼いた後の生地の窯伸びがよく、美味しくなるというパネットーネの特性を最大限生かしたもの。イタリアでは時折見かけるが、熟練の技が要求される貴重なパネットーネだ。
panettone2020_aman3
「アマン東京」のメインダイニング「アルヴァ」エグゼクティヴ・シェフの平木正和さんは「パネットーネは専門店が作るものなので、お菓子屋さんが作るようなものはなかなかうまくいきません。『アルヴァ』でも今年はクリスマス・メニューの最後に『マルケージ』のパネットーネをお出しする予定です。イタリア式にザバイオーネとあわせて合わせてシンプルに。イタリアの香りがするとても良いパネットーネなので、その風味を損ねないように食べたいものです」。ソムリエの藤原龍さんは「レーズンがチョコレートのような味わいなので、赤ワインやデザートワインのヴィンサントは間違いない組み合わせだと思います。フランチャコルタもあうと思います。特にシャルドネ主体のトースティなタイプはクリスマスにもおすすめです」。パネットーネにあわせるワイン選びのご参考に。20,000円。
panettone2020_aman2
■アマン東京
https://www.aman.com/ja-jp/resorts/aman-tokyo

Photo&Text Masakatsu Ikeda

※価格表記はすべて税別。
profile


prof_masakatsuikeda
池田匡克 ジャーナリスト、イタリア料理愛好家

1967年東京生まれ。1998年よりイタリア、フィレンツェ在住。イタリア国立ジャーナリスト協会会員。イタリア料理文化に造詣が深く、イタリア語を駆使してシェフ・インタビュー、料理撮影、執筆活動を行う。著書に『伝説のイタリアン、ガルガのクチーナ・エスプレッサ』『シチリア美食の王国へ』『イタリアの老舗料理店』『世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ』など多数。2014年イタリアで行われた国際料理コンテスト「ジロトンノ」「クスクス・フェスタ」などに唯一の日本人審査員として参加。2017年イタリア料理文化の普及に貢献したジャーナリストに贈られる「レポーター・デル・グスト」受賞。WebマガジンSAPORITA主宰。
イタリアを味わうWebマガジン「サポリタ」
http://saporitaweb.com//
<関連記事>
ヘルシーかつライト!コース仕立てで楽しめるガストロノミー・ピッツァトレンド 日本橋「マンダリン オリエンタル東京 ピッツァバー on 38th」 by 池田匡克
大手町「アマン東京 アルヴァ」再開に見る平木正和シェフの新たなる挑戦 by 池田匡克
フランチャコルタと楽しむイノベーティブなガストロノミー・ヴィーガン 銀座「ファロ」 by 池田匡克
変化するファッションブランドとファインダイニングの関係 銀座「アルマーニ/リストランテ東京」by 池田匡克
スカイラインを望む最上階レストラン フォーシーズンズホテル東京大手町「ピニェート」
国境も、既成概念をも超えるー 新次元のフードエクスペリエンス 渋谷「The SG Club」
世界中のカクテルラバーが扉をたたく看板のないバー 新宿「ベンフィディック」
心とからだの力を内から高める 星のや東京の「Nipponキュイジーヌ〜発酵〜」
限りなき望郷の思いに満ちた、イタリア伝統料理を巡る旅へ 四ツ谷「オステリア・デッロ・スクード」
神宮の杜を見下ろす百年レストラン 原宿「資生堂パーラー ザ・ハラジュク」
【スペシャルインタビュー】アジア最高位のイタリア人シェフ、ルカ・ファンティン
世界最高の料理人マッシモ・ボットゥーラ、初のドキュメント 『世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ』