ブーリン家の姉妹
自分がアドレナリン過剰なタイプだと知った瞬間、私は私自身の身の上に合点がいってしまった。チビかつ不眠の私は、安らぎのホルモンであり成長ホルモンであるセロトニン不足だったのだ、おそらく。いや、絶対。人間をあらゆる行動に駆り立てるのは、ホルモンである。

細かいこと書くとなんだかよくわかんなくなっちゃうので割愛するけれど、部長にムカついた時、チョコレート食べて心の平穏を取り戻すことも、うどん食べる時に七味唐辛子1ビン使っちゃうくらいの激カラがクセになっちゃってるのも、実はホルモンのせい。人間はみな、ホルモンの奴隷なのだ。

この呪縛からは、王様とて逃れられない。イギリス史上最も有名なヘンリー8世は、その最たるものだ。彼は女とセックスしたいがために、当時のカトリック世界の絶対的権威だったローマ教皇にケンカを売って縁を切り、「イギリス国教会」という独自の教会組織を作り上げてしまったアホ王様である。相手の女とはアン・ブーリン(『エリザベス』でケイト・ブランシェットが演じたエリザベス女王のお母さん)で、離婚を許さないカトリックの世界で、彼女は「王妃にしてくれないならヤらせなーい」と数年にわたりヘンリー8世を生殺しにし、ついには宗教まで捨てさせて妻の座を勝ち取った。『ブーリン家の姉妹』はその顛末を描いた映画で、富と権力を求めて陰謀と嫉妬が渦巻く物語は大奥みたいなフェロモン系にも思えるが、私に言わせればこれは断然ホルモン系である。

王様の状態は、言ってみれば“試合前にセックス断ちしたボクサー”だ。ボクサーがそういうことする理由は諸説あるのだが、そのひとつに挙げられるのが、禁欲による攻撃性の高まりがある。欲求不満やストレスは交感神経を刺激し、アドレナリンがばんばん出て攻撃力が猛烈にアップするのである。

ブーリン家の姉妹

要するにずっとお預け状態だったヘンリー8世は、教皇にケンカ売ってしまうほど交感神経びんびん状態だったんじゃなかろうか。王様はアホだったわけじゃなく、ホルモンに操られていたのだ。そうだそうだそうなんだ、人間の行動はすべて不可抗力なのだー!

ま、そういうわけで、交感神経びんびんの今日の私は、原稿の合間にアホみたいに甘いものを食べるのだ。アナタもたまには、心ゆくまでどうぞ。 (text / Shiho Atsumi)

ブーリン家の姉妹

『ブーリン家の姉妹』

監督:ジャスティン・チャドウィック
脚本:ピーター・ モーガン
出演:ナタリー・ポートマン、スカーレット・ヨハンソン、エリック・バナ
配給:ブロードメディア・スタジオ
劇場情報:2008年10月25日よりシャンテ シネほか全国TOHOシネマズ系にて公開
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