イースタン・プロミス
久々に対面したニューヨークで暮らすゲイの息子と、息子がゲイであることを認められない頑固な母。案の定の大喧嘩になり、ついに息子は母に言う。「私は独りでなんだってできる。だから人に求めるのは愛と敬意だけ。私はママを愛してるけど、ママが私を認められないなら、ここにいてもらう理由はないわ」。

私が大好きな映画『トーチソング・トリロジー』のこのセリフは、人間関係を見直すときに大きなウェイトで胸に迫ってくる。愛はさておき、人間関係の基本は敬意だ。“お前は俺の言うこと聞いてりゃいいんだよ”っていう態度の人とかいるでしょう。あれはよくない。「あ? なんだと?」と、売られた喧嘩を買ってやりたくなる。小心者の貧乏人なので買わないけど。

映画製作の現場にはあんまり縁がないが、作られた作品を見ると監督とそれ以外の人たちの関係がなんとなく見えたりする。例えば『2001年宇宙の旅』のスタンリー・キューブリックは「神」と呼ばれることもある独裁者タイプ。『グリーンマイル』の監督フランク・ダラボンは、一字一句でも脚本と違うセリフは許してくれないと、あのトム・ハンクスがボヤいていた。こういう監督の下ではスタッフは、監督のビジョンを具現化するための道具になってしまう。

そんなことを思うにつけ、最新作『イースタン・プロミス』のデヴィッド・クローネンバーグに、私は感心しちゃうのだ。ロンドンの移民社会を舞台に、ロシア系マフィアのある秘密を知ってしまった助産婦と、彼女を密かに守る組織の男の関係を描いたこの作品は、女の脇の下にできたヘンな突起物が次々と人を襲う『ラビット』とか、ゴキブリ型タイプライターとかネバネバした謎の怪物がいる幻覚ワールドを描く『裸のランチ』とか、偶然起こした自動車事故で欲情しちゃった男女が性的興奮を得るために車ぶつけまくる『クラッシュ』のような、これまでのクローネンバーグ作品とちょっと違う。

イースタン・プロミス

それは実のところ、前作『堕天使のパスポート』でロンドンの移民社会の裏側を描いた脚本家スティーブン・ナイトの世界観で、寡黙な男の愛情に「いやーん、すてきーっ!」となってしまうような作品なのだ。

なのになのに、すごいのは、やっぱりクローネンバーグの作品だと思えること。ラストには変態印のド肝抜くアクションシーンが待っているのだ。自分を失うことなく、脚本家へのリスペクトも忘れない。こういう人とこそ仕事がしたい。まあ、変態なんだろうけど。 (text / Shiho Atsumi )

イースタン・プロミス

『イースタン・プロミス』

監督:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:ヴィゴ・モーテンセン、ナオミ・ワッツ、ヴァンサン・カッセル、アーミン・ミューラー・スタール
配給:日活 宣伝:ファントム・フィルム
劇場情報:6月14日よりシャンテシネ、シネ・リーブル池袋ほか全国にて公開
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