4ヶ月、3週と2日
アメリカ大統領選のアツさを目にするたびに、やっぱ肉食ってるヤツらは違うなあと一歩引いて見ていた私だが、今回の民主党予備選には注目している。なにしろオドロキの女性 vs 黒人だ。私は密かにヒラリーを応援している。

アメリカはズーッと男が大統領で戦争しまくり嫌われまくりなわけだし、出産経験のある女性なら男とは違う視点があるに違いないと思うからだ。彼女を逃したら、今後20年はあんなタフで頭のいい女性は出てこない。オバマさんは若いんだからこれからいくらでもチャンスはあるんだし……と思っていたのだが、ここにきてヒラリーもやけに劣勢だ。男に人気がないのは分かるけど、意外と女に好かれていないのだ。女の敵はなぜか女で、女は敵とは連帯しない。

だがそうじゃない時代、そうじゃない国もある。1980年代のルーマニアを舞台にした『4ヶ月、3週と2日』は、妊娠した友達ガビツァを中絶させるため奔走する女性、オティリアの1日を描いた物語。当時のルーマニアは人口増加政策をとっており、中絶は当然ながら禁止。ふたりはもぐりの医者に頼んで、違法に堕胎しようとしているのだ。だが当のガビツァ、頼りない顔して実はしたたかという相当なタマである。オティリアは彼女のために手術費用を捻出し、医者を迎えにいき、ガビツァのしょーもない落ち度のために医者にキレられ、信じられない要求を呑まされる。結局、ガビツァは自分を守るために、最初から最後までオティリアに押し付ける。映画を見た日本人女性は100人中100人、ガビツァに頭にくると思う――が、ちょっと冷静に考えてみると、ガビツァもまた被害者だ。彼女も、彼女を妊娠させた男にすべてを押し付けられたのである。

当時を知るルーマニア人女性によれば、オティリアの行動は当然で、境遇が逆ならガビツァも同じことをするに違いないという。国や男に徹底的にイジメられれば、相手がヒラリーのようないけすかない女でも、女同士の連帯ができるのかもしれない。

4ヶ月、3週と2日

かつて「オフィスのお茶汲み廃止」を巡る攻防なんかでは、男ウケの独占を狙って「お茶は女の子が入れるほうが美味しいし」とかなんとか言いながら必ず裏切る女がいて、戦いはオヤジ vs 女から女 vs 女の構図にすりかえられてしまった。これが「オフィス全床の毎日雑巾がけ廃止」を巡る攻防だったりすると、男ウケを狙う女などいなくなるのだが――まあ、幸か不幸か、日本では、女が“あからさまに”いじめられてはいないのだ。 (text / Shiho Atsumi )

4ヶ月、3週と2日

『4ヶ月、3週と2日』

監督・脚本:クリスティアン・ムンジウ
出演:アナマリア・マリンカ、ローラ・ヴァシリウ、ヴラド・イヴァノフ
配給:コムストック・グループ
劇場情報:3月1日より、銀座テアトルシネマほか全国にて順次公開
2007年カンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)受賞
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