ペルセポリス
その昔、この人がいなきゃ絶対に死んじゃう〜! と思っていた相手は誰にでもいるものだ。もちろんその相手との恋が終わっても世界がひっくり返るようなことはない。どっちかといえば無病息災で、お腹が減ればおいしいものを食べて、むしろあの頃より食べちゃうくらいの勢いだったりする。

そういう日々を経て、偶然にもその相手と街で再会したりする。そんな時、誰もがしみじみと思うのだ。なんでまたこの男が、そんなに好きだったのかなぁと。ま、向こうもそう思ってるかもしれんが。

映画『ペルセポリス』には、そのメカニズムが明確に描かれていて面白い。70年代のイランに生まれた主人公のマルジは、イラン革命以降、日に日になくなる自由を案じた両親の考えで、13歳で単身ウィーンへと向かう。やがて思春期を向かえたマルジは「一目見て、運命の人とわかった」相手と恋に落ちるが、男はゲイだった。傷心のマルジの前に、再び別の男が現れる。「これこそ真実の愛!」と感じた彼女は“運命の恋”に突っ走り始めるがあるとき、男のベッドに見知らぬ裸の女を見つけてしまうのだ。そして我に帰る。よく考えたらこの男はママの言いなりで、車のガス代は割り勘、マリファナも私ばかりが買いにいかされて……。そんな男と恋に落ちた理由は、別に神様が彼女の行く先々にダメ男を配置したわけでもなんでもない。自らの思い込み&突っ走りである。

ペルセポリス

失恋の大ショックをきっかけに、彼女はホームレスにまで落ちる。激しい。だがこの人のスゴさは、そこからの立ち直りだ。なにかのきっかけで「つまらん恋で人生を台無しにするところだった!」と針が逆方向に振れるやいなや、その行動も逆方向へと走り出す。時に男運を悪くする思い込み&突っ走りは、方向さえ間違わなければ何かを成し遂げるパワーに転換する。マルジは4年をかけてこの映画の原作となる自伝を書き上げ、全世界でベストセラーにしちゃったのである。

男運が悪いと感じているなら、好きで好きでたまらなかった男に会ってみるといい。なんでこんな男…と思ったら、それはあなたに思い込み&突っ走りの才能がある証拠。嘆くこたあない。何かを成し遂げるとてつもない可能性が、そのハートには備わっているのだ。 (text / Shiho Atsumi )

ペルセポリス

『ペルセポリス』


原作:マルジャン・サトラピ(『イランの少女マルジ』『マルジ、故郷に帰る』)
監督:マルジャン・サトラピ、ヴァンサン・パロノー
声の出演:キアラ・マストロヤンニ、カトリーヌ・ドヌーヴ、ダニエル・ダリュー
配給:ロングライド
劇場情報:2007年12月22日よりシネマライズほか全国にて順次公開中!
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