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1993年に翻訳初版が出た「母が教えてくれなかったゲーム」が、2009年に合わせた内容の復刻版として登場した。原書は1977年にアメリカで出版され、長く読み継がれてきたロングセラーだ。「ビジネスはゲームであるが、それを理解している女性はまずいない。

ゲームに参加したいなら、ルールを学ぶべきだ」という前提で書かれた本書は、仕事をしたい、そしてやるからには成功したいという女性に向けての啓蒙の書であると同時に、仕事を人生のどこに位置付けたらいいのかを「女性に」教えてくれる初の手引書だ。

1970年代後半から著者がいう「ゲーム(試合、といったほうがいいかもしれない)」に参加した私が本書の翻訳初版に出会ったのは、なんと試合がすでに後半に差しかかろうか言う90年代半ばだった。2人目の子どもを出産して復帰したものの、勤務していた会社でこれ以上出世するのがまず無理だと悟って転職を考えているときに読み、目からウロコが落ちた。 「なんだ。私はあきらかに負ける試合を、やみくもに走り回るだけという見当違いな戦術で悪戦苦闘しているだけじゃないか」 自分がやってきたこと(本書で、本気で成功したいと思っているのなら、やってはいけないと書いてあることをほぼ全部やっていた)を振り返り、これ以上会社組織で働いても得られるものはないと、企業への転職をその時点であきらめた。そしてビジネス・ゲームで選手として戦うことをやめて、ときおり代打で出る程度のフリーランスという働き方を選んだ。その選択がまちがっていた、とは思っていないつもりだが、もしこの本をもっと若いときに、できれば企業で働き始めた直後に読んでいれば、無駄なストレスを抱えこむことなく、もっと働くことが楽しめたはずなのに、とそこはとても悔やまれる。

ベティ・フリーガンさんははっきり言う。 「ビジネス・ゲームとは、最終的には男性 v.s. 女性という構図になります。男性たちは共同戦線を張って、女性を締め出そうとして、彼女たちを従来の「観客」の立場、つまり母親や妻、秘書の役目へ追いやろうとするのです」 追いやられないためにはどうしたらいいか? 会社という軍隊にそっくりの組織のなかで、自分がやるべきこと/やってはならないこと/やる必要がないことをはっきり自覚すること。自分が出世できる(管理職になる)コースに乗っかるためにはどうすればいいかをつねに強く意識して働くこと。補助的な役割(事務職など)やスタッフ職(広報、経理などの傍系)ではなく、会社組織の基幹となる「兵隊」という意識で働くこと。仕事に恋愛を持ち込むのは論外で、演じるとしたら「母親」のような役割を自分に課して男性社会に食い込んでいくこと。仕事の「やりがい幻想」を捨てること(仕事の基本は生活の糧を得ることであり、キャリアとは働き続けることでのみ得られる、と言い聞かせて、やりがいを求めて転職などしない)。

ビジネスゲーム

このほか、成功する服装術やセクハラの対処法などについてのアドバイスもあり、日米の文化のちがいから全面的に参考にすることはできなくても、今の自分に何かしらプラスになる忠告は必ず見つかるはずである。 今「時の人」の勝間和代氏もオビで言っている。 「私の人生を助けてくれた本」 30年以上働き続けてきた私も言いたい。 「働く娘にぜひ読ませたい本」……もう私自身には遅すぎる内容であるのがやや残念だ。

(text / motoko jitukawa)

『ビジネス・ゲーム─誰も教えてくれなかった女性の働き方』 ベティ・L・ハラガン著、福沢恵子・水野谷悦子共訳 光文社知恵の森文庫、¥680(税込)