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著者のウィリアム・ブラック氏はイギリス人。職業は、世界各地の食材を仕入れて、イギリスの一流レストランに卸すという食材買付師(そんな職業があるのを私は初めて知った)。その彼が、イタリアの各地を旅してまわった。目的は3つ。 (1)イタリアの地方色豊かな食材を探し、イタリア料理の源流を究めること。(2)自分のルーツを探すこと。著者の母方の先祖がイタリア人で、反ファシズム運動を繰り広げたロッセッリ兄弟の血を引いているらしいので、それを確かめにいく。(3)統一イタリア国家の成立をうながした立役者、ジュゼッペ・マッツィーニの足跡をたどること。食べものとルーツ探しと歴史、と3つも欲張って詰め込まれた内容で、最初はとっつきにくい。ところがさすがイギリス人、さすが食材の目利き。ちゃんと3つともを見事に調理して、極上の料理に仕上げてみせた。

読み通してみて思うのは、イタリアという国は地方が寄り集まって成り立っているということ。統一国家とはいえ、人々は自分がイタリア人であるという意識よりも、たとえばロンバルディア地方の出身、もしくはトリノで生まれ育ったということを優先する。だからイタリア人にとってイタリア料理というものは存在していなくて、自分が育った家庭で長年作られてきた料理こそがすべてなのである。料理と同様に、その地方独特の気質や風習や考え方があり、それもまた頑固なまでに大事に守られている。

そんなところに「統一イタリア」なんていう、ある意味危険思想を叫んだマッツィーニはいかなる人物であったか?そして著者の先祖であるロッセッリ兄弟とはいかなる人たちだったのか? 著者は地方の個性的な料理に舌鼓を打ちながら、自分の中のイタリア的なるものを探し求める。読者もきっと、イタリアとイタリア料理の新しい一面を著者とともに見つけるだろう。

地方色豊かな料理のレシピもついていて、お買い得感のある一冊。イタリア料理ってだから、やっぱり、おいしいよね、と納得するにちがいない。

極上のイタリア食材を求めて (text / motoko jitukawa)

『極上のイタリア食材を求めて』  ウィリアム・ブラック著 北代美和子訳 白水社