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翻訳を生業にしている私は、年がら年中「この外国語をどう日本語で表現するか?」または「この日本語を外国人に伝えるにはどう書いたらいいか?」ということで頭を悩ませている。ところ変われば感性も考え方はもちろん、皮膚感覚だってちがう。

たとえばアイルランドで降る小雨を、日本語で「しとしと」と表現してしまうと、かの国の身体の芯までカビが生えそうなほどの湿り気は伝わらないだろう。ナイーブな人は日本では純真でかわいいというホメ言葉だが、英語では純真でだまされやすいおバカさんというけなす意味になる。 言葉ってホントに奥深くておもしろい。

言葉のそんなちがいに踏み込んだのが本書「ダーリンの頭ン中」である。 国際結婚で体験する少しだけれど大きなギャップを描いた「ダーリンは外国人」の姉妹編。ダーリンのトニー・ラズロ氏はハンガリーとイタリアの血を受け、アメリカで教育を受け、中国語、スペイン語、ドイツ語を得意とする、まさにコスモポリタンな人。 自他ともに認める語学オタクのダーリンは、妻の左多里さんが何気なく発する日本語に鋭く突っ込む。

「テンションが上がるってどういうこと? テンションは増すものでしょ?」「日本語は文章が終わったと思ったら、最後に『と』をつけて正反対の意味にするのはずるい!」(「このケーキあげる……と思ったけどやめた」という風に)「日本語は受身が多いせいであいまいな表現になる。英語はもっと能動的表現になるよね」……等など。

『ダーリンの頭ン中』

その指摘のひとつ一つに私も「うんうん、そうだよね!」と頷く。異文化コミュニケーションって、左多里&トニー夫婦が「あれ?」と思うような、ささいだけれど実は深く大きなちがいをおもしろがるところから始まるんじゃないだろうか。お互い使っている言葉の背景がちがうからこそコミュニケーションがよけいに必要になるし楽しくなる。語学を学ぶ意義や楽しさの本質を教えてくれる好著である。(text / motoko jitukawa )

『ダーリンの頭ン中』 小栗左多里&トニー・ラズロ著 メディア・ファクトリー ¥998(税込)