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ページを繰るごとにヒックヒクとカラダをふるわせて涙をぬぐって笑っていたら、隣の人が気味悪がって席を変えた。高橋秀実さんのこの本は、電車の中で読んではいけない。あ、言っておくがお笑いの本ではない。内容はごくまじめなルポルタージュ。

だがめちゃめちゃ私のツボにはまった。

ノンフィクション作家の高橋さんは、今の日本でなんとなく「正しいこと」「いいこと」とされていることを、「ほんとに?」と疑って自分の目で確かめにいく。トラウマのグループセラピーに加わって、真剣に自分のトラウマを探す(でも、見つからない)。 ゆとり教育について現場の小学生に話を聞く(公園で一緒に「原爆ゲーム」をしながら)。社内で英語が必須になった日産社員に英語の学習法について取材する。田舎暮らしが本当にのんびりできるのかを確かめにいく。

取材のやり方は王道だし地道である。だが取材対象者から引き出される言葉と、それを受け止める高橋さんの話が微妙にずれていく。 真剣に「いいこと」をやっているはずなのに、どこかおかしいというところを、高橋さんは取材しながら鋭く探り出していくのだ。そのずれこそが、たぶん「ほんとに?」という疑問に対する答えなのだと思う。

『トラウマの国』

高橋さんはまちがっても「そこ、ちがうだろ!」などとツッコミを入れたりしない。取材している人たちに「それはまた、困っちゃいましたね」と頷きながら、心の中で「あれれ」とか「とほほ」とか言っている。いわばボケの姿勢だ。 ボケとは言っても、言っていることは明瞭簡潔で、とってもわかりやすい。だから読者は笑いながらも、これまで「なんか気色悪いな」と思っていたところを、ぽりぽりとかいてもらった爽快感がある。ま、そんな私の感想はさておき、この本で笑って日頃のトラウマ(?)なんか吹き飛ばしてください。

(text / motoko jitukawa)

『トラウマの国』  高橋秀実/著 新潮社 ¥1,470(税込)