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タイのチェンマイから、約1時間のフライトでラオスの「プラパバーン」という世界遺産の町を訪れることができる。この「世界遺産」という言葉が僕はイマイチ、ピンとこない。「この寺は世界遺産なので、1000円いただきます」と言われ、その時、精神的に弱っていたりしたら僕はすぐに振り込んでしまいそうである。

おれおれ詐欺ではなく、世界遺産詐欺。そうならないように調べてみた。様々な手続きを経て認定された世界遺産は現在、800強あるようだ。日本では法隆寺や姫路城、厳島神社などが認定され、京都市や宇治市などの場合は街全体が世界遺産となっている。

和ペリティーボな世界遺産

そして、このプラパバーンなのだが、正直、到着した日は世界遺産という実感が湧かなかった。確かに夕陽はきれいだし、メコン川もきれいで、ワット(寺院)も多くて美しいのはわかる。しかし、他の国でも探せばありそうな景色である。そんな思いをどこか持ちながら、ゆるゆるとこの町で過ごし始めた。ここで生活する人の空気や匂いを感じ、何気ない駄菓子屋でおこしを買って食べる。絵葉書にへたくそな筆文字を連ね、土で創られたポストに投函し、メコン川を観ながらラオスビールを飲む。次第に何とも懐かしくて心地よい感覚が湧いてくる。実はこの感覚を呼び起こす町というのが、世界遺産に認定される理由の一つだったりするのかもしれない。

和ペリティーボな世界遺産ただ、「世界遺産」と名前がついたことで、この街は確実に観光地化されつつあることが少し心配である。早朝、僧侶達への托鉢の光景が、この町の名物の一つになっているのだが、その托鉢に参加する観光客が急増している。中国人やドイツ人を乗せた観光バスが休日になると、どっと押し寄せ、現地の人達の横に並んで一緒に托鉢する。しかも現地の人のように座ってではなく立ったまま。

托鉢が多すぎて、鉢に食べ物が入りきらなくなり、途中でお寺に引き返してしまう僧侶が続出する。観ていると厳かな感じより、記念撮影の場所となっているように映る。街のメインストリートでは急激にインターネットカフェが増えたようだし、レストランのメニューの値段は、何回も値上げして書き直した後が見られる。時間よ、ここで止まってくれと思わずにはいられない。とはいえ、僕も観光客の一人なのだから、あまり偉そうなことは言えないのだが。
イシコ

イシコ

1968年生まれ。ホワイトマン代表
大学卒業後、女性ファッション誌編集長、Webマガジン編集長を経て、期間限定のホワイトマンプロジェクトでは白塗りで様々なコンテンツを生み出す。現在は「セカイサンポ」と称し、文字通り世界を散歩中。散歩の達人の連載コラムなどコラムニストやブロガーとしても活躍している。

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