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“ダメ男好き”の女は、男が思っているよりも多い。その種類は様々に細分化されているのだが、一番ありがちなのは、暴力男のような極めて犯罪者に近いダメ男を「ホントの彼を分かってるのは私だけ」みたいに思っちゃうタイプや、実現する気もない夢を追うダメ男を「アナタの夢がワタシの夢」みたいに支えちゃうタイプである。

何かの拍子にふと憑き物が落ちて「こいつダメ男じゃん!」と気づけば、女は泥沼から脱却できる。一方、ある種のダメ男を、ダメ男とじゅうじゅう承知しながらついつい選んでしまうタイプもいる。そういう女はたいていが自分にも相手にも厳しく、仕事は人並み以上で、「あんたって何でそうなの?」と叱られそうでそこらの男では腰が引けてしまう。『マルチェロ・マストロヤンニ 甘い追憶』を見ると、イタリアの名優マルチェロ・マストロヤンニは、この手の女をひきつけるダメ男だったようだ。カトリーヌ・ドヌーブにソフィア・ローレンにフェイ・ダナウェイ。彼がモノにした女たちは、誰も彼も強烈に強そうだ。

映画は、当時の映像と関係者の証言で、マストロヤンニの人物像に迫ってゆく。まず監督たちが口を揃えるのは、台本をぜんぜん覚えてこないこと。自他共に認める怠け者なのだ。映画が完成したパーティーの場面では、オドオドした目で女王のようなソフィア・ローレンの後ろに隠れているのが印象的だ。内気で気弱なのである。

cinema070627そのくせ寂しがり屋で、現場に電話ボックスを作らせるほどの電話魔でもある。そしてその時々の恋人に、すぐにバレるしょーもないウソをつく。こうして女王のように強気で言わずにはいられない女は、ほとんどSMのようなコミュニケーションに引き込まれてしまう。この絡め獲り方は、ある意味すごいテクである。

映画は、なんでこんなムーミンみたいなオッサンが “ラテンラバー” と呼ばれた稀代のモテ男なのか、その理由を教えてくれる。100万人の怒りをごまかすことが出来そうな、愛嬌のある笑顔と性格。自分にもめっぽう甘いが、人にも優しい性格。男らしさを発揮できない気弱な繊細さ。フラれてもフラれても好きにならずにいられない惚れっぽさ。そのダメぶりは、裏を返せばなんだか魅力的で……と思ってしまった瞬間に、アナタもワタシもマストロヤンニの思う壺、なのである。

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『マルチェロ・マストロヤンニ 甘い追憶』

監督:マリオ・カナーレ、アンナローザ・モッリ
ナレーション:セルジョ・カステリット
バルバラ・マストロヤンニ/キアラ・マストロヤンニ/アルマンド・トロヴァヨーリ/
エットレ・スコーラ/フィリップ・ノワレほか
配給:クレストインターナショナル
劇場情報:2007年6月30日(土)Bunkamuraル・シネマにてロードショー