stayhomegekijyo
彼らの登場は、1980年代のファッション界において、最も刺激的な事件のひとつだったと言えるだろう。彼らとは、ベルギーにあるアントワープ王立芸術学院出身の優れたデザイナーたち、“アントワープ6”だ。小さな都市、アントワープをモードの発信地として一躍有名にした立役者。 その中の一人が、DRIES VAN NOTEN(ドリス・ヴァン・ノッテン)だった。

DRIES VAN NOTEN, ドリス・ヴァン・ノッテン, アントワープ紳士服の職人だった祖父、父の影響を受けて服飾の道に進んだ彼は、1986年にロンドンのメンズコレクションで6人の仲間とショーを開催。これが注目されるきっかけとなった。1991年にはパリのメンズコレクションに参加。1993年にはパリコレクションで初のレディースを発表。以来、ファッションの中心地であるパリで、独自の世界観を表現し続け、高い評価を得ている。

(写真右)デザイナーのドリス・ヴァン・ノッテン ©Mikael Jansson

ドリス・ヴァン・ノッテンの服が持つ魅力の根源は、彼自身のルーツであるヨーロッパ文化をベースに、世界中の素晴らしい文化への興味と敬意を自分なりの感性で表現する個性だろう。奇抜ではないのに、斬新。気取りすぎないのに、どこか知性を感じさせ、遊び心にも溢れている。まさに、袖を通すだけで着る者の心を沸き立たせるような不思議な力に満ちている。

DRIES VAN NOTEN, ドリス・ヴァン・ノッテン, アントワープ独自のカラーパレットを持ち、マテリアルをこよなく愛するドリス・ヴァン・ノッテンの服作りは、自分だけの生地作りを行うところから始まる。プリント、色、刺繍など生地を生かす技術を吟味した上で、素材とフォルムとの無数の組み合わせの中から絶対的なひとつの組み合わせを見つけ出す。ここから、誰にも表現し得ない唯一無二の服が生まれる。

デザインへのこだわりはもちろんのこと、ファッションへの愛情は、こんなところにも表れている。現在のファッションブランドには珍しく、100%が自らの出資。“クリエイションの自由が失われてしまうから”と、自分のブランドにこだわり続ける。トレンドに流されることなく、自らの服作りを全うしようとする精神は、世界的に活躍する今も、故郷アントワープを拠点にしていることからも明らか。堅実さと謙虚さ、そして何より揺るぎ無い自信が垣間見える。

(写真左)2004年に開催された2005年春夏コレクションのショー

こだわりといえば、ショーについても同じ。ロケーション、空間、演出のすべてを、演出家エチエンヌ・ルッソとともに吟味し尽くし、20分間という短い時間に自分の表現したいものを100%凝縮させる。2004年に開催された記念すべき50回目のショーでは、150mの長いテーブルを用意。500名の招待客がディナーを共にした後、2005年春夏のコレクションをそのテーブル上で展開するという斬新さで、今も語り継がれるほどだ。DRIES VAN NOTEN, ドリス・ヴァン・ノッテン, アントワープデビューから約25年。デザイン、立体裁断、手の込んだ構築的なフォルム、生地などに反映された感性は、ますます研ぎ澄まされ、洗練を極めている。だが、“人のためにあり、人がいて活きるのがファッションだ”という哲学のもと、実用性と夢を同居させた人に優しい服作りの根幹は、デビュー以来少しも変わっていない。2009年の春夏コレクションでは、クリエイションの軌跡を象徴するかのような、全55ルックを発表。モノクロに始まり、絶妙な色味を楽しめる服を経て、シルバーやゴールドなど最高峰の刺繍を施した服に至るまで、デザイナーとしての変遷が一目で分かる意義深いコレクションでもあった。

(写真右)2009年春夏コレクションは、パリのパレ・ロワイヤル公園で噴水オブジェを囲んで行われた

知性、感性、人間性の絶妙なるバランスで、理想的な服作りを続けているドリス・ヴァン・ノッテン。“申し分のないもの、完璧な美には興味がない。人が目を向けないものに、自分が手を加えることによって美しいと思えるようになる。そんなものに魅力を感じる”と話す。個性が奏でる美をあらゆる角度から大切にし続けられるこのブランドこそ、ファッション界の理想郷。そこから生まれるものが、魅力的でないはずはない。

外見だけでなく心にも良い影響を与え、結果的に人生も輝かせることができる。そんな風に、ファッションの力を信じているドリス・ヴァン・ノッテンだからこそ、私たちの中にある“おしゃれする喜び”を呼び覚ましてくれるのだろう。

text / june makiguchi

information


DRIES VAN NOTEN, ドリス・ヴァン・ノッテン, アントワープDRIES VAN NOTEN/ドリス・ヴァン・ノッテン

ドリス ヴァン ノッテン 青山店
東京都港区南青山5-5-4
Tel:03-5766-8608(1Fレディース)、03-5766-8607(2Fメンズ)
2009年3月オープンにオープンした、アートとファッションの融合空間。


お問い合わせ先
TFC Tel:03-5770-4511