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暑い夏はビアガーデン。先日神宮外苑にあるビアガーデンに、友人の某バンドのベーシストと行った。僕らはこのビアガーデンがいたく気に入っている。まわりには木がたくさんあって芝生でサッカーができるくらい広い。何がいいかって、いつ行っても音楽がレゲエなのである。 それもトロピカルな夏向きレゲエじゃなくてルーツ・レゲエだ。グレゴリーやバーニングスピア、なんとパブロまで!これは僕の想像だが、ビアガーデンとしては夏=レゲエのつもりで流しているのだろうけど、完全に有線のチャンネルを間違えている気がする。もっと本来この場にあったトロピカルな夏向きレゲエのチャンネルがあるはずだ。しかし僕らにとってはその間違いが最高なのである。野外で広くて緑があってジンギスカンにビールを飲みながら、重いルーツ・レゲエを聴けるなんて、そんな幸せなことはない。

ここで一枚、ルーツ・レゲエの名盤を紹介しておこう。 Hugh Mundell『 Africa Must Be Free 』、この作品は21歳の若さでこの世を去った天才シンガー、ヒュー・マンデルのデビュー作。まだ少年っぽさの残る(デビュー当時15歳くらいだと思う)独特の歌声と師匠であるオーガスタス・パブロのプロデュースが奇跡的な名盤を生んだ。最新のレゲエしか聴かない人にはハードルが高過ぎるかもしれないが、機会があれば是非聴いて欲しい。

で、その日はさらにスペシャルな事が起きた。何か騒々しいと思いその方向見ると、なんと派遣バドガールが5人くらい各テーブルを回り始めたのだ。生でバドガールを見られるなんてそうそうある事ではない。ビールにルーツにバドガールで僕らはもう訳がわからない状態に…。しかし驚いたのが、そのバドガール目当てに望遠レンズを装備したカメラを持ち、ひとつのテーブルを陣取っているカメラ小僧ならぬカメラおやじ軍団。そんな人たちがこんな所にもいるのかと驚いた。しかも、この人たちのはしゃぎぶりは物凄かった。彼女達が動くたびにカメラを抱え、慌ただしく周囲をウロつく。 おかげでせっかくの雰囲気もジンギスカンもルーツ・レゲエもバドガールも台無しだ。

ヒュー・マンデルしばらくして店も終盤を迎えるころ、バドガール達の仕事も終了し、それと同時にカメラおやじ達のテンションもダウン。やっと落ち着いて飲み直そうとした時、入口近くに60代くらいの初老の男性が二人で入って来るのが見えた。まわりをキョロキョロしながら、落ち着かない表情で僕達の隣のテーブルへ座った。オーダーを取りにきたウエイターとなにやら話している。すると「もう終わったんですか!」という声が。ふと見るといつの間にかその初老の男性の手にはしっかりと望遠レンズを装備したカメラが握られていた。

スピーカーからオーガスタス・パブロのピアニカが寂しく響いていた。

Hugh Mundell 『 Africa Must Be Free 』

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LIFESTYLE_column20041110下田法晴/ Michiharu Shimoda

1967 年生まれ。 SILENT POETS /サイレント・ポエツ、グラフィック・デザイナー
1991 年に美大で出会ったメンバーと SILENT POETS を結成。 今までに通算 6 枚のオリジナル・アルバムと 7 枚のリミックス・アルバムなどをリリースし、海外からも高い評価を受ける。現在は DJ Yellow を共同プロデューサーに迎えた次回作を制作中。その他、 ISSEY MIYAKE のパリ・コレクションの音楽やUA のプロデュースや平井堅のリミックス、またグラフィック・デザイナーとしても活躍している。
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