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ここ数年、若い人の間でも日本の伝統の美しさや素晴らしさを見直す動きが高まっている。それは、日本が古くから培い、大切に育ててきた個性への誇りと敬意を再認識する動き。着物や和小物などの人気再燃がその代表例だ。 48年ぶりにミス・ユニバース世界大会で優勝を果たした森理世さんが、今年5月にメキシコで行われた世界大会でナショナル・コスチュームとしてまとった斬新な着物も、そんな個性への誇りを堂々と象徴していた。

世界を魅了したコスチュームを、和服再興をテーマにしたブランド「義志」と共に制作したのは「HIROCOLEDGE」。東京芸大で伝統工芸の技法を学び、現在も大学院博士課程に通うデザイナー高橋理子が着物、浴衣、帯、下駄などを発表している新進ブランドだ。

(写真上)円を重ね、連ねた躍動感のあるデザイン。YUKATAはHIROCOLEDGEのWebサイトからの購入も可能。

HIROCOLEDGE特に、注染(ちゅうせん)という伝統的な手染めの業を使ったHIROCOLEDGEのYUKATAはこの夏の注目アイテムとなりそうだ。注染とは、浴衣や手ぬぐいを染める技法として日本で古くから親しまれてきた型染めの一技法。「着物本来の形、仕立て、着方、伝統の染色技法を守りながら、どこまでオリジナリティのある現代的なものを作れるかが挑戦」と高橋さん。昔ながらの伝統、技法など残すべきものは残し、生かすべきものは生かしつつ、現代的な要素を加えていく。そのバランスをとる鍵となっているのが、お気に入りのモチーフである正円。「シンプルな形ですが、連なったり、重なったりさせることで表現できる世界を追求したい」と話す。

丸を使ったデザインには、静と動、新しさと古さが絶妙に同居。浴衣という古来の“型”の中に、新鮮さをもたらしている。そこには、伝統をその まま受け継ぐのではなく、時代の流れの中で生まれた新しい要素を加えていきながら、またその伝統を次世代へ引継ぐという重要な意味も宿っていく。

“伝統”には数々の制約も存在するが、伝統という制約の中で、個性や新しさを出せるかがデザイナーの腕の見せどころなのだという。「素材、行程、技法、職人たちがどんなに素晴らしくても、出来上がったものが良いものでなければ受け入れられない。ヴィジュアルの魅力を担うのが私の役目」。

時代の流れに逆らい、変化を止めていることも多いという伝統工芸。だが、新風を吹き込み進化させることで、多くの人に興味を持ってもらうことこそ、伝統を守る近道なのだ。「伝統も和も、古いものという認識がある、確かに、時代に合っていないものも多い。洗練されていなかったり、現代の街並、建築にそぐわなかったり。でも、デザインが時代と合っていれば、浴衣だって、自由に着てもらいやすくなるはず」 洋服と同じ感覚で手にとって欲しいと、基本的には呉服ではなくアパレル(既製服)として展開している。

「もちろんTPOはあるものの、洋服を着るようにもっと気軽に着て欲しい。とはいえ、このYUKATAは、去年のデザインはもう古いというファッションの流れとは違うところに置きたい。いわゆるコレクションのように次々に新作を発表して、以前発表されたものを時代遅れにするようなことはしたくない。物を大切に、無駄を出さない。こんな日本古来のライフスタイルをお手本に、いつまでも着続けてもらえるものづくりをしていきたいですね」

HIROCOLEDGEのYUKATAは、技法や機能だけでなく、デザインやそこに息づく精神も、伝統の良い部分を踏襲しているのだ。有名ブランドからコラボレーションの引き合いが後を絶たない今、「幅広い世代に届いて欲しい」というデザイナーの思いは、さまざまな舞台の上で実現されていくことだろう。

伝統と現代の幸せな融合を感じさせてくれるHIROCOLEDGEのYUKATA。あなたも袖を通してみることで、伝統の担い手になってみてはいかがだろうか。

text/ june makiguchi, photo/shiori kawamoto

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