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下北沢『般°若』(パンニャ)のカレーは、サラリとしているのに思いのほかパンチがある。口に含むと、コクと旨み、そして幾重にも重なりあうスパイスの香りが広がる。後からじんわりと追いかけてくる辛さも強い。ライスの上には、キャベツのマリネとトマト風味のピクルスがトッピングされているが、これがまたカレーと絶妙な取り合わせ。 滋味深い味覚の奏でるハーモニーに洗練された“技”を感じさせる大人カレーなのだ。

下北沢「般°若」「中学生の頃に、西宮駅(兵庫県)の北口によく通っていたカレー屋さんがあって、その味が忘れられなくて。今はもうそのお店はなくなってしまったのですが、それが自分の理想の味のベースになっています」そう語るのは、“キッチュ(kitsch)”という愛称でおなじみのタレント・松尾貴史さんだ。元来のカレー好きが高じて、この3月8日下北沢に念願のカレー店をオープンした。店の名は「般°若」。「パンニャ」と読む。古代インドで用いられたパーリ語で、般若心経に出て来る「智慧」や「真理」を意味する言葉だ。カレーは、松尾さんと恵比寿の『barまはから』の店長が約2年がかりで共同開発したもので、松尾さんの考える理想的なカレーを楽しむ“スタイル”と“調理法”を具現化した一軒である。

店は、下北沢の賑やかな界隈から1、2分足を伸ばしたところにある。東北沢方面へ向かう道すがら突如、香ばしいカレーの匂いが漂ってくる。食欲を心地よく刺激する香りに誘われて店に入ると、白壁の明るいカウンターで女性ひとりでも気軽に立ち寄れる雰囲気。店内は、香りを効果的に味わってもらいたいという想いから禁煙。これもカレーを楽しむためのスタイルのひとつ。

下北沢「般°若」一口にカレーと言ってもいろいろある。インド(エスニック)風、東南アジア風、欧風、日本風と、インドで誕生したカレーは世界各地に伝播して味やスタイルを変えながら、世界中の人々に親しまれてきた食べ物だ。『般°若』のカレーは、主にインドカレーをベースにしながらも、普通インドでは用いない日本人になじみの深い出汁やしょうゆ、バターを使うなどしてコクや旨みを引き出している。また口当たりがサラサラとして胃にもたれにくいのも大きな特徴だ。これは、日本のカレーと違いカレールーに小麦粉を使っていないためである。癖になる味とはまさにこのこと。食べれば食べるほど、カレー中毒にでも陥るかのようなミステリアスな魅力を秘めている。食べ終わる頃には、体の芯が熱くなってきてうっすら汗ばんでくる。しかし胃袋が満たされる満足感とは裏腹に、まったく胃にもたれないので、お酒を飲んだ後でもサラリといただけそうだ。

メニューには、『チキンカレー』、『ほうれん草とカッテージチーズのカレー』、『チキンとキーマのハーフカレー』のほか、午後2時からの一日限定5食(変動あり)の『カツカレー』がある。いずれも一見さっぱりしているように感じるが、どれも個性的な味わいを醸し出している。

下北沢「般°若」 そしてこの辛さ。「暑い国でわざわざ辛い物を食べるのは何故かというと、人間は辛いものを食べるとその刺激が脳に伝わり、体中の細胞が活性化されて新陳代謝が盛んになったり、汗をかいて体内の熱を外部に発散できたりするのです。それは“暑気払いをする”というインドの人々の知恵なのです。それにカレーは、具以外はスパイスのかたまりみたいなものなので、本来薬膳的な意味合いを持った健康食なのです」と松尾さん。言われてみると確かに、クミン、ターメリック、レットペッパー、シナモン、コリアンダー、ナツメグ・・・カレーのスパイスに使われるこれらはすべて漢方薬の原料になる生薬だ。そう、カレーは古来、インドの人々の生活の知恵が生み出した“医食同源”の思想にも通じる体に美味しいヘルシー料理なのだ。

夏に向けてこれからの季節、インド人の「智慧」と松尾さんの「想い」が詰まったこの大人カレーのパワーをあやかりに、足を運びたい一軒である。

photo/shiori kawamoto

restaurant information


下北沢「般°若」『般°若』
住所:東京都世田谷区北沢 3-23-23 下北沢シティハウス2 1F
Tel:03-3485-4548
営業時間:11:30〜 20:00 月曜定休
※当面、売り切れ次第終了

下北沢には、「本多劇場」をはじめ「ザ・スズナリ」「OFFOFFシアター」などの劇場のほか、「下北沢屋根裏」「下北沢SHELTER 」といったライヴハウスも多く、芝居やライヴを見に行く前の腹ごなしにもおすすめ。芝居やライブの後は、お隣のカフェ「スロー・コメディ・ファクトリー」で「般°若の夜カレー」バージョンが食べられる