「tibi（ティビ）の名前の由来？　実は香港で友達と会社を立ち上げるとき、彼女のおばあちゃんの名前がそれで、とても可愛いと思ったの」そんなブランド誕生の意外な秘話を耳打ちしてくれたのは、デザイナーであり経営者でもあるエイミー・スミロヴィック。 彼女自身も実にユニークな女性で、インタビュー当日もストライプのフェミニンブラウスにロールアップしたボーイフレンドデニム、そこにゴールドの“亀”のバックルがついた鮮やかなグリーンのベルトをアクセントにオン。そんな彼女の出で立ちからだけでも、人をハッピーにさせるカラーレンジとプリントがtibiのシグネチャーであると窺い知ることができる。 エイミーは、アメリカン・エキスプレスのマーケティング部門でキャリアを成功させた後、1997年に香港へ渡った。そこでブランドを創立するわけだが、「最初の4年間は香港とN.Y.を行ったり来たり。11回も行き来して約180時間を飛行機で過ごしたわ」と屈託のない笑顔で語る。その後活動のベースをN.Y.に戻し、「常にインスピレーションを受けている」というソーホーにオフィスを構え現在に至る。2006年にN.Y.コレクションに参加してからは、オリジナリティ溢れるプリントが常に話題の的となり、今春は日本でもショップオープンと相まって一大“tibi”旋風を巻き起こした。

（右写真）デザイナーのエイミー・スミロヴィック

コレクションを形作るうえでデザインアイデアの元となっているのは、映画や本、音楽、アート、スポーツとライフスタイル全般。また、旅からも多くの感動を得るという。「インドネシアやタイ、パリ、ロンドン、カプリ、そして夫の故郷でもあるプラハなど、旅を通して感じたその時の気分をデザインに投影することも多いです。2009-10年秋冬コレクションの舞台には実はまだ訪れていないのだけど（笑）」。

その最新コレクションのテーマは“ロシアン・フォークロア”。『ファイヤー・バード』というロシアのおとぎ話が今回のイメージソースで、ダイナミックな鳥の羽や飛び跳ねるウサギ、雪の結晶など、ファンタジーの世界から感じた印象をエイミー独特の美的感覚で“ダークでミステリアス、でもどこか明るくてハッピー”な雰囲気に仕上げている。ロシアや東欧のどこかセンシティブでアンニュイなムードを題材にしたブランドが複数見られた秋冬コレクションだったが、エイミーの手にかかるとペイズリー柄のドレスやペプラム調のジャケットも不思議とモダンでわくわくした空気に包まれるのは、彼女のポジティブマインドが作品に直結しているからと言えるだろう。

（左写真）2009年春夏コレクションは、アジアのリゾートにインスパイアされ「Island Living」をテーマに

そんなエイミーの世界観はセレブも魅了している。J.Loやニッキー・ヒルトン、スカーレット・ヨハンソン、ブリトニー･スピアーズなどが愛用しているほか、名物スタイリストのパトリシア・フィールドは『プラダを着た悪魔』や『セックス・アンド・ザ・シティ』でtibiを使用。最近はアメリカの人気TVドラマ『ゴシップガール』での露出が多く、次世代のファッションアイコンとして注目のブレイク・ライブリーやレイトン・メーステルの着こなしが話題に。さらにはMTVの青春リアリティ・ドラマ『The City』に出演するオリヴィア・パレルモやティンズリー・モティマーといったソーシャライトなど、自分のスタイルをもったファッションコンシャスな女性たちの心を鷲掴みにしているのが特長だ。

「Happy&Fun！　そんな哲学をもって、装うことを純粋に楽しむオリジナリティのある女性が好き。そんな人を見たら、私自身もとてもハッピーな気持ちになるもの」そう語るエイミーのクリエイションの泉はとどまることを知らないようで、最近では単独でスイムウェアコレクションを発表したり、彼女の故郷であるジョージア州シーアイランドの高級ホテルのインテリアデザインを手がけるなど、活動の分野をますます広げている。

（右写真）映画「プラダを着た悪魔」のこの場面はtibiの前スタジオで撮影された。モデルが着ているのもtibiの服

「毎朝6時には起床して16時半には会社を出るの。18時には大体コネチカットの自宅にいて子どもたちと過ごすわ。帰宅したら“tibi”という言葉は言わないことになっているの。仕事とプライベートのメリハリをきっちりつけるためにね」ひとりのクリエイターとして、そして母として、凛とした佇まいを見せるエイミーの表情はいつなんどきも穏やかだ。「今後は香水を作ったり、アクセサリーも強化していきたい」と目を輝かせながら語る。そんなエイミーの前向きな姿勢は、今という時代をサヴァイブする現代女性のアクティブなお手本となるだろう。

text / yoko kondo