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それはまるで、人生を知り尽くした円熟味のある人物のような風格を漂わせて、静かに佇む。トランジスター・ラジオが台頭する以前、日本でも多く製造されていた真空管ラジオが、今、再び注目を浴びている。特に、製造から50年ほども経つともいえる、なんとも言えない懐かしさを漂わせるアンティーク・ラジオの人気が高い。 インテリア感覚で楽しめるのも嬉しいが、今もなお、耳を楽しませてくれるところが何とも心憎いのだ。“復活” のきっかけは、iPodの登場。実はiPodにFMトランスミッターを装着することで、取り込んでおいた曲をFMラジオを通して聞くことができる。歴史を見つめてきたアナログのアンティーク・ラジオと、時代の最先端を行くデジタル・オーディオ・プレイヤーが、互いに呼応しながら、新しい可能性を生み出していくというわけだ。

and upそもそも、真空管が醸し出す独特の柔らかな音質は、オーディオ・ファンにはお馴染みのもの。昔、子供の頃に聞いたような、優しく昔懐かしい音だ。だからこそこのラジオは、ボサノヴァやジャズ、ギターやピアノといった優しく、表情豊かで、心に染み入るような音色との相性がいい。アンティーク・ラジオのある生活を提案しているヴィンテージ・ラジオ&ギャラリー「and up」から、今一番のお勧めは、1960年代に大活躍したスウェーデンの歌姫モニカ・セッテルンドだ。「当時は、音楽もラジオに合うような音で録音されていたそうです。ですから、ラジオで聞くのにぴったり。でも、自分だけのお気に入りを見つけるのも楽しいですよ」と店長の赤羽根佳子さん。オーディオ・ファンといえば男性というイメージが強いが、その優しい音色やデザインに魅了され、“一目惚れ”して購入していく女性も多いという。メカに弱い女性でも、「あの懐かしい音質で好きな音楽をもう一度」という想いさえあれば、スタッフが楽しみ方を丁寧に教えてくれるので安心だ。

(写真右):and up 店内に並ぶ、ラジオ達。 50 年ほど前に作られたという年季の入ったアンティークが見つかる。それぞれが個性的な表情を持っていて、インテリアとしての存在感も抜群。and up(写真左):優しい音を響かせる元となる真空管。もう日本ではあまり作られることがなくなったが、and upではメンテナンスもしてくれる。 (写真中):真空管ラジオと相性の良い、スウェーデンの歌姫モニカ・セッテルンド。透明感のある歌声が魅力。and upでCDの購入も可能。 (写真右):ドイツ、デンマークのラジオを多く取り揃えるand up。こちらのレコード・プレイヤーつきラジオはドイツのブラウン社製。バング&オルフセン社のヴィンテージ・オーディオも見つかる。

年季が入っているだけに、長時間の使用を避けたり手入れをしたりと、何かと気遣いが必要でもある。だが、長い間活躍してきたその功績をいたわるようにして使っていくうち、使い捨て文化では芽生えにくくなってしまった、モノへの愛着というものが生まれていく。赤羽根さんは、長い年月を経てきたラジオとそれに惚れこむ人間との出会いには、ただならぬ縁を感じているとか。たかがラジオ、されどラジオ。あなたにもきっと、特別な出会いが待っている。

text / june makiguchi

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定休日 毎週月曜日