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いま、農業がブームだ。食料自給率40%以下という自国の農業をなんとかしたいという考えから農業へ就農・起業する人もいれば、家庭菜園や市民農園で野菜づくりを楽しむ人も増えており、渋谷ギャルが米作りに取り組むという動きまである。 一方、農業で自立していく道は生易しいものではなく、子どもに農家を継がせることをためらう農業者が多いのも事実だ。そんな農業の現実の間で、私たちはどんな道を選べばいいのか。そんな思いに応えてくれる店、いや、農園が六本木にある。

(写真上)季節の旬の食材で作ったお惣菜も一工夫。ラタトゥユは隠し味にバルサミコを使用。ピンクのノーザンルビー、紫のシャドークィーンと見た目もきれいな三色ジャガイモ。枝豆の台湾風は舘野シェフの定番おつまみ。『お惣菜3種盛り合わせ』¥1,300

六本木農園『六本木農園』は六本木駅より徒歩30秒、都会の隠れ家と呼ぶのにふさわしい一軒家レストランだが、普通の飲食店とは違うユニークさがある。それは“農家のこせがれネットワーク”を中心とした「実家は農家だけど、いまは東京で働いている」という娘や息子たちが、生産者である農家を応援しつつ、農業の大切さや魅力を客に伝えるという農業実験レストランなのだ。 シェフも農家の娘で、バーテンダーも農家の息子。日々届けられる食材は、“こせがれ”たちの実家の畑の生産物だったり、自給自足生活をするNPO法人フリーキッズ・ヴィレッジで作られた安心野菜だったり、農業に燃える若き生産者の自信作だったり。スタッフの農家の人脈をフルに活かした、文字通り、農家の顔が見える貴重な“場”が生まれている。

(写真上から)野菜のすりおろしからの旨みがにじみ出ている『自家製スープカレー〜野菜の素揚げとご一緒に〜』¥1,200、右:土からこだわって作る有田焼の土鍋で炊きあげた白米を益子焼の茶碗でいただく『本日の土鍋白米ご飯』1合〜3合/¥800〜¥1,700、左上:農家から送られてきた野菜も自家製の漬物に。下:小さなりんごは、群馬の染谷真さんのりんご園からのもの

「生産者の方が一生懸命作ってくださったものなので、あまり手を加えず素材の味を活かすよう心がけています」とは料理をプロデュースするグランシェフ・舘野真知子さんの弁。 そして、舘野シェフは獲れたての野菜に、ちょっとしたアイデアで美味しい魔法をかける。ショウガ鍋にプチトマトを入れたり、大きく育ちすぎたキュウリの種を取ってみそ汁に入れたり、枝豆をさや付きのままニンニクとショウガで炒めたり。独創性溢れるメニューは、作り方を聞けば、自分でも試したくなるものばかりだ。

六本木農園この日、舘野シェフの実家より、普通のバジルより葉の小さいブッシュバジルが届いたのでバジルペーストを作った。「『うちの畑でつくってみたのだけど、レストランで使えるかしら』と、自分たちでは食べないパプリカやズッキーニなども作って送ってくれるのです。実家は父の代で終わる農家なのですが、私がその野菜を使ってお客様に料理を出すことでやりがいを感じてくれたようで、前にも増して農業に対して意欲的になってくれているのです」

こうした好循環が自然に生まれるのは生産者と料理人の間だけではない。お客として訪れる人々も参加できる仕掛けが『六本木農園』には溢れている。

その一つが「壁主」制度。実は取材に訪れた日はグランドオープン前で、店内は改装中。むき出しのRC駆体に土を塗り込む“左官ワークショップ”の参加者たちが株主ならぬ壁主になり、人気左官職人 久住有生のもと、農園の壁を“耕し”ている最中だった。まるで農園は皆のものだよ、と確かめ合うかのように。

六本木農園 田舎育ちであっても都会育ちであっても、郷愁を誘う何かがある、懐かしくも新しい場所。それが『六本木農園』だ。農家の友だちを作る気持ちで、この夏は都会の農園に遊びに出かけてみてはいかだろうか。

(写真上)壁主によって塗られた土壁。土いじりに魅了された会社勤めの大人たちがコテを片手に参加。無機質なRCがあたたかな土壁に変貌する日が待ち遠しい。写真右は、店内完成のイメージ。

text/yuko kotani、photo/shu remy kawakami

restaurant information


六本木農園六本木農園

住所:東京都港区六本木6−6−15
Tel:03-3405-0684
営業時間:18:30〜23:30(LO22:00)
定休日:日・祝日
席数:1F:28席、2F:8席(個室)