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1945年、最古のオートクチュール・メゾンのひとつとして誕生したバルマン。クリスチャン・ディオールと並び、エレガンスの源流ともいえるこのメゾンの創設者は、ピエール・バルマン。質の良い素材、柔らかな曲線にこだわり、極めて正統派な女性美を表現し続けたデザイナーだ。

シンプルでクラシカル、女性の美しさを最も上手く引き出すデザインを得意とし、エヴァ・ガードナー、ヴィヴィアン・リー、マレーネ・ディードリッヒ、ブリジッド・バルドーら、銀幕のアイコンたちに愛され、映画や舞台とも深く関わってきた。

バルマン,BALMAIN1914年、フランスのサヴォワに生まれたピエール・バルマンは、紳士服の卸業を行う父、ブティック経営に携わる母方の親族に影響を受けて育ち、子供の頃から商品見本や端切れを使って遊んでいたという。パリ国立美術学校で建築を学ぶものの、幼い頃からの夢であるデザイナーになることを諦められずモード界への転向を決める。イギリス人デザイナーのエドワード・モリヌーやルシアン・ルロンのメゾンを経て、1945年に独立し自らの名を冠した「ピエール・バルマン」を設立。作品点数45着からのスタートだった。 初展示では、なだらかな肩、きゅっと絞られたウエストが印象的なフルスカートのドレスや、ブロンドカラーのサテンに黒玉石を施したブラウスなどを発表。当初より、優雅な作風でケント公爵夫人や、ウィンザー公爵夫人ら貴婦人、上流階級のマダムたち、有名女優らを魅了。1950年代=パリ・オートクチュール黄金時代の中心的存在となり、バレンシアガ、ディオールと並び、“ビッグ・スリー”と呼ばれた。日本とも関係が深く、皇室にも愛された。1975年に昭和天皇が訪欧、訪米した際には皇后陛下のドレス一式を制作。日本でのコレクションツアー、ライセンス展開にも積極的だった。

(左写真)イヴニングドレスを仕上げる、ピエール・バルマン(右)とエリック・モルテンセン(左)1959年頃。(「ピエール・バルマン 創作の40年」より)

香水もモードを表現する大切な要素と考えていたバルマンは、メゾンを立ち上げてまもなく、クリエイションに着手。アトリエの電話番号に由来する初の香水「エリゼ 64-83.」や「ヴァンヴェール」、好評を博したプレタポルテラインから「ジョリ・マダム」、そして「ムッシュバルマン」「イヴォワール」「オードアマゾン」などのヒットを放ち、今も変わらぬ人気を誇っている。

バルマン,BALMAIN1982年、ピエール・バルマンが亡くなると、アシスタントを務めていたエリック・モルテンセンが後継者に。1993年から2001年まではオスカー・デ・ラ・レンタがデザイナーに就任し、生前のバルマンが表現していたクラシカルで正統派なエレガンスを継承した。2003年からはローラン・メルシエがオートクチュール部門のデザイナーに。その後、オートクチュールは廃止され、2004AWからはショーも一時休止という危機を迎えるが、2006-2007AWからは、少しのモデルからプレタポルテを再開。このとき、新生バルマンを誕生させたのが、クリストフ・デカルナン。パコ・ラバンヌでデザイナーを務めていたものの、ほぼ無名に近かった彼が大抜擢された。 現デザイナー、デカルナンが表現するのは、ピエール・バルマンが活躍した時代のエレガンスではなく、全く新しい今の時代のモダンなエレガンス。肩を強調したボディコンシャスなフォルムや、ブラックに刺し色として鮮やかな色を用い、デカダンでロックなテイストを加えるのが、デカルナン流。オートクチュール技術を駆使して、デニムやTシャツといったカジュアルなアイテムも、ディテールに凝ることでエレガントなイメージを表現している。

(右写真)2009SSコレクションより。クチュールテクニックを駆使したジャケットとダメージ加工したパッチワークデニムが好対比

女性そのもの、ファッションそのものの進化を提示するかのように、バルマンというブランド自体も生まれ変わったと言える。この変化に敏感に反応したのが、国内外のスタイリストやエディター、バイヤーをはじめ、ケイト・モスやグウィネス・パルトロウといった現代のファッションアイコンたち。デカルナンの服は、女性を素敵に見せながら、着る人よりは主張しない。そんな魅力をベースに人気を再燃させている。

バルマン,BALMAIN何かと話題のデカルナンだが、彼自身は作品ですべてを理解して欲しいと多くを語ることはない。メディアで言葉少なに語っているのが、デザイナーが変わっても、“カジュアルなイヴニング・ウエア”を作り出すというバルマンの基本方針はそのままだということ。ピエールと自身の共通点は、「適切な場面で適切な服を着て欲しい」という気持ち。50年代当時のバルマンは、当時のファッションに対し、着用シーンを考慮したコンテンポラリーなアプローチをとることで、現代もクラシックとして語り継がれる素晴らしい服を生み出した。これはデカルナンにとっても、クリエイションの上で一番の目的であり、課題だという。 デビューを飾った2006-07AWでは、白を基調にバルマンの歴史を意識したエレガンスを表現。やがて徐々に鮮やかな個性を発揮しはじめ、特に評価の高かった7シーズン目の2009-2010AWでは、スクエアショルダーのジャケットに、ビジューを散りばめたドレスやパンツを合わせたり、黒のしなやかなレザーを素材に用いたマイクロミニドレスやスキニーパンツでグラマラスなスタイルを表現したりと、しっかりと確立された世界観を見せた。

(左写真)現デザイナーのクリストフ・デカルナン

最近の70〜80年代を想起させるコレクションについては、「それらの時代が持っていた、独自の姿勢やスタイルそのものに刺激を受ける」と語るデカルナン。自らの服に反映されたロックスピリットを、“自由へとつながっているもの”と称する。 老舗ブランドを背負っているという気負いをつゆほども感じさせない軽やかさや、コレクションごとにイメージを変えてくる才能の多彩さと大胆さ。デカルナンのそんな資質と才能を武器に、バルマンの新たなる歴史は刻まれ始めたばかりだ。

text / june makiguchi

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