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幼い頃、大好きな服を毎日のように着続けていた。そんな経験はないだろうか。着られなくなるまで、ずっとお気に入りであり続けた服に囲まれていた日々。それがいつしか、移り変わる流行と、使い捨て文化に流されるように、ちょっとずつ少なくなっていく。

(上写真)2010年の春夏のテーマは、"Stand up for dressdown"。トラッドウエアを、自由な精神で着こなして。ブランド名のbeautiful peopleとは、美しい人々という意味のほかに、華やかな人々、セレブリティ、そしてファッションメーカーという意味も持つ。 ダンガリーboy'sトレンチコート ¥58,800、チルデンジレ ¥37,800

beautiful people,ビューティフルピープルそんな生活に慣れてしまった私たちの心に響くのが、beautiful peopleの服たちだ。デザイナーの熊切秀典が、子供の頃に大好きで毎日着ていたというクジラのタンクトップと、それを愛していた子供時代の自分に想いを寄せながら、いつまでも大事に着続けて欲しい服をデザインしている。 ブランドがスタートしたのは、2007年の春夏コレクションから。熊切と文化服装学院時代の仲間2人、パタンナーの戸田昌良、セールスプロモーション担当の若林祐介、前職で先輩だった企画生産担当の米タミオが中心となって立ち上げた。

当時、彼らは30代のはじめ。それぞれが、有名アパレルブランドでキャリアを積み、独立できるようになったとき、精神的にも金銭的にも、ゆとりをもって服作りをしていこうという気持ちでまとまったという。

beautiful people,ビューティフルピープルブランドのイメージを創り上げていく過程で、核として浮かんできたのが、服作りの醍醐味のひとつである"相反する要素の組み合わせ"。その中で浮かんできたのが、大人と子供、つまり親子というテーマだった。ちょうど、スタッフの中にも子供が生まれはじめた時期。子供を持ち育てるということの責任を実感しながら、次世代に伝えていきたいもの、そして生きる精神を、服作りを通して表現している。 「創作する様子はバンドのノリに近い」と熊切が称する4人組が目指しているのは、使い捨てでなく、流行もので終わらない普遍性。親が子供と一緒に着られて、子が成長したときに譲り渡していける服だ。それが人気ライン、"キッズシリーズ"の精神。ものを大切に愛でていくという日本らしい文化を次世代に継承したい。そして、ファッションセンスも育てたい。やがて子供が着る服を作ることは、子供の将来も見据えることでもあるとしっかり意識しているのだ。 「長く着続けられれば、それ自体がエコロジーだし、コストパフォーマンスも高くなりますからね」と熊切。親子で同じ服を共有したり、親からのお下がりを子供が着たりするというのは幸せな家族の風景だ。「"キッズシリーズ"のコンセプトは、Kid's wear for women(大人のための子供服)。実は子に譲るということだけではなくて、お母さんがお父さんに、"子供も将来着られるから"と言いながら買うことを納得させるということも想定しているんです」と笑う。

そんなことも大いに意識して生まれた2010年の春夏のテーマは、"Stand up for dressdown"。これまでに定着してきたイメージを覆す。 「トラッドのブランドという位置づけをされてきているけれど、もともと大人と子供が共有できる"キッズシリーズ"は、退屈になりがちなトラッドを着崩す、アンチ・トラッド、アンチ・ファッション的な視点で始めたんです。プレッピーの子供たちが、親から与えられる服を自分なりに着崩していたような、新鮮味や刺激を求めているんです」。

beautiful people,ビューティフルピープルそんな熊切が今回テーマに据えたのが、アメリカのドレスダウン。大好きだというジミ・ヘンドリックスのイメージを、トラッドでクラシックな服を着崩すための対極のエッセンスに据えた。そして、これまで同様、着こなし方だけでなく服作りの中でも、斬新な面白さを提示している。例えば、コットンを使うことが当たり前のモッズコートにシルクを75%用い、風合い、光沢、着心地の良さを追求したり、シックで大人向けの色・柄を用いた見たこともない迷彩を作ったり。定番のカラフルな9色展開のライダースにも着易さを追及しピボットスリーブでパターンに工夫を凝らしたり、ウエスタンブーツも7色展開でユニークな色を揃えたり。だが面白いのは、ひと目見ただけでは斬新さを感じさせないように、工夫を服作りにじっくりと馴染ませていくところ。新しいけれど、奇抜ではない。日常にしっくりと溶け込む普遍性への秘訣はそこにあるのだろう。

今は小説にはまっているという熊切。興味のあることはすべて服作りに繋がっていくというから、小説への興味が今後どのようにデザインに反映されていくのかが楽しみだ。 「今後は、ドレスも作りたいし、もっと服作りの範囲を広げていきたい。常にどこかに新しさがあるものを生み出していきたいですからね」 ブランドコンセプトは、「何か新しいもの」。beautiful peopleの服に袖を通してもらうことで、新しい刺激による思考の転換、新しい視点・新たな価値観を提案し、社会生活を向上させる手伝いをしたいとも話す。良いものを作ることで、社会に触れ合い、貢献したいという気持ちが強い4人組。彼らが行っていることこそが、忘れかけていたものづくりの原点なのだろう。

text / june makiguchi

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(右写真)デザイナーチーム