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青春時代を振り返って「あのころは最高だった!」という中高年が嫌いだ。「昔は私(俺)も若かった。バカなことをやっていたもんだ」なんて言いながら、武勇伝を自慢げに語って頬を紅潮させているアラサーやアラフォーなんか見ると、恥ずかしくて目をそむけてしまう。みなさんに聞きたい。

本当にあのころに帰りたいですか? 半径50メートルしか視界がなく、メールの返事がないと友情も恋も壊れたとあせり、自意識過剰なあまりカッコ悪いことができず、傷つくのがいやですべてに「たるい」とか言って逃げていたティーンエイジャーのころに。私は自分の青春を極力思い出したくもないし、戻れと言われたら全力で抵抗するだろう。この小説を読むまで、青春なんてロクなもんじゃない、というのが私の持論だった。

そんな私の青春論(?)を変えてしまったのが、「船に乗れ」の三部作だ。「若い」ことは悪くないかもしれない。もし戻れるのなら、十代をやり直してもいいかもしれない。青春回顧を嫌悪していた私を、ここまで変節させたのだから、藤谷治氏はすごい。 「船に乗れ」の主人公は津島サトル。音楽一家に生まれ、祖父が理事をしている音楽高校(ただし二流)に入学するころからストーリーは始まる。サトルが専攻する楽器はチェロだ。入学したその日、ひと目でヴァイオリンの南枝里子に恋をする。学校の定期演奏会のためにオーケストラをともに練習し、オペラに誘って一緒にモーツァルトの『魔笛』を見て、二人でメンデルスゾーンを合奏する。十代の恋はしかし、ある日突然、とても残酷な形で終わる。

恋の話を中心に展開されるが、本書の主テーマは「人が成長していく」ことにある。成長というと何か前向きでいいことのように思えるかもしれない。だが、描かれている人たちの成長は、その先に約束された明るい未来の方向をめざして進んでいくようには見えない。青春小説につきものの恋や友情も、甘くせつないものというよりは、人間のなまなましさがむきだしになる形で描かれている。

それでも私はここに描かれている青春の形がとても好きだ。どうしても許せないもの。本当に心がふるえるもの。たまらなく好きなもの。そんなものがあるのが青春だ。ちょっとムカついても「ま、いいか」と目をそらし、退屈をまぎらわすことと「感動」を取り違え、好きなものを無理やりつくるような、そんな大人にはけっしてわからない青春なのだ。

船に乗れ,藤谷治,下北沢

音楽についてあまり知識がなかったけれど、読みながら頭のなかに知っている旋律が、登場人物の感情と一緒になって鳴り響いた。「うれしい」とも「悲しい」とも「感動した」とも書かれていないのに、バッハやモーツァルトやメンデルスゾーンの音楽の記述によって、登場人物と一緒に胸が締めつけられたり、自然に涙がこぼれたりした。 青春をなつかしむ人に、青春に気恥ずかしさを覚える人に、そして今が青春と思える人にもこの本と、そして「船に乗れ!」という言葉を贈りたい。

(text / motoko jitukawa)

船に乗れ!』 藤谷 治著 ジャイブ ?〜?各¥1680(税込)