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この本は彼女の書いてきた著述、さらに新たなテキストが加えられた上で4つの大きなチャプターに整理され、蓄積されている。第一章「Action Speaks Louder Than Words」ではいわゆるガーリーの端をつか んだような時代のキム・ゴードン、ソフィア・コッポラ、ミランダ・ジュライ、HIROMIX、長島有里枝が登場し、'90年代半ばの微熱を帯びたような若きクリエイションを切り取る。第二章「クリエイティヴファッション」では既存のシステムにははまりたくないという意識の上にコレクションを発表して来たBLESSとCOSMIC WONDERに焦点が当てられる。第三章は「スーザン・チャンチオロ」に一章が割かれその生き方さえも追い、さらに第四章では「『Purple』が何を変えたのか?」と題してZINEやインディペンデント出版に触れながら、『Purple』的な視点をしなやかに保ち続けるエレン・フライスへの愛に溢れた回顧が行われる。

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「結局、『Purple』にしても現在は『Purple Fashion』が残っているものの、初期の『Purple』が持っていた“いろいろなカルチャーの交差点”といった良さとはずいぶん変わってしまっていて。Googleで検索しても2000年以前のことについてはあまりデータベース化されていないのでヒットしないし、これからの人がそういうものにしか出会えないと思うと、ここはちゃんと意識的に資料を取っておこうという意味で、『Purple』を振り返るチャプターを作りました」。

先に名前を挙げたように、この一冊に登場するのは、確かに同一の時代にある空気感を作り上げ、それを自らの方向に押し進めてきたような頑なな意識を持ったクリエイターばかりである。トレンドからすこしはなれた場所で、「アート」か「ファッション」の区別さえも彼らには曖昧で無意味。そんな創造性を時にはジャーナリストという視点で客観的ながらも、時にはよき理解者、友人として現場のすぐ近くで見守り、伝え続けてきた著者の愛情に満ちたファッションの遍歴が浮かび上がってくる。それはもっとインディヴィジュアルなものかも知れない。

現在、林央子さんが編集長をつとめる『here and there』でも、アートディレクションを担当する服部一成さんのまるで教科書のような装丁、ホンマタカシさんの撮ったスーザン・チャンチオロの洋服。 ある視点から「ファッション」を考え、楽しんでいくための何かが見えてくるような一冊のような気がする。

写真と文:梶野彰一(PHOTO & TEXT: SHOICHI KAJINO

>>>『拡張するファッション』林央子インタビュー by梶野彰一 (1)へ

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INFO:
『拡張するファッション』
林央子
ブルース・インターアクションズ刊 1,890円(税込)
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