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「一度観たらやめられない」 多くの人が、たった一度きりの出会いで、すっかり虜になってしまう舞台芸術。だが、舞台に興味を持ち始めた人が、まだ少ない経験と知識の中で戸惑うのは、いったいどのように舞台を楽しんだらいいのか、どのような演目を選んだらいいのかということだ。 そこで、特集の第二弾は、世界の演劇の中心地であるロンドンのウエスト・エンドを日本で一番知る人物、ミュージカル・プロデューサーの又平享さんに、初心者でもよくわかる魅力的な舞台の世界を案内してもらった。

(写真):「オペラ座の怪人」©PLAYBILL JAPAN



2013-05-28_144227又平亨さんプロフィール

1949年生まれ。ミュージカル・プロデューサー。
日本人初にして唯一のロンドン・シアター・マネージメント協会認定会員。1986年、欧州で高い評価を受けていたイギリスの劇団リンゼイ・ケンプ・カンパニーを招聘し、日本で一大旋風を巻き起こす。1994年には、プロデューサーとして、ロンドンのウエスト・エンドに拠点を移す。1996年、ナット・キング・コールの生涯を描いたミュージカル『アンフォゲッタブル』を自らプロデュース。 ロンドン公演を成功させ、演劇界のアカデミー賞といわれるローレンス・オリヴィエ賞ノミネートを果たし話題となった。現在は、日本と海外を行き来しながら、ミュージカル、バレエ、芝居、コンサートなど幅広く舞台作品をプロデュースするかたわら、シアターマガジン「PLAYBILL」の日本版も手がけている。


舞台の迫力から生まれる感動を見逃すのはもったいない

2013-05-28_144919 映画館にはよく足を運んでも、劇場へはなかなか行かないという人は多い。その理由はさまざまだ。チケットの料金や、うっかりしているうちにチケットが売り切れていたり、必要以上に緊張すると敬遠してしまったり。だが、舞台を良く知る又平さんによれば、舞台芸術に触れるチャンスが日常的にあるのなら、それを逃すのは「かなりもったいないこと」なのだという。

「日本人には、旅行をしてもその土地の文化に触れようとせず、買い物ばかりしている人も多い。NYやロンドンに行ったら、素晴らしい作品が多数上演されていますから、これを観ない手はないですね。また、この舞台の本場である2都市に次いで、素晴らしい作品が上演されているのは東京。海外の作品も頻繁に来ています。この恩恵に預からないのは本当にもったいない話です」

何がそれほどもったいないのか。最大の理由は、舞台の迫力から生まれる感動は、他のメディアと違って圧倒的であるということ。当然ながら、手軽に観られるTVや映画と違い、舞台の世界では、観客の目の前で、毎回ひとつの物語が全編通しで上演される。それゆえの面白さや感動は格別なのだ。

作り手と観客が一緒に生み出す総合芸術

2013-05-28_145044音の迫力、美術、照明効果、そして役者の力量などを目の当たりにできる。それに、予定外の出来事=ハプニングが起きたときに、どう対処するのかそのアドリブ力を間近で見られる幸運も起こるかもしれません。かつては、劇場からファッションやカルチャーの流行が発信されることが多かった。映画やTVが流行を生む現代でも、その流れがないとは言えません。『レント』『プロデューサーズ』『ドリームガールズ』など、最近でも舞台から生まれた作品は多いですよね。でも、人間が生で演じ、歌い、踊り、それをスタッフ全員で支えるライブのパワーは、映画やTVではかなわない。よく、映画は監督のものといわれますが、舞台はチームワークのものと言う感じ。総合芸術といわれる所以です」

映画なら完成したものをコピーし、世界中で同時に流すことが可能。それは便利で凄いことだが、提供する側にしてみれば、観客の反応がダイレクトに伝わってこない物足りなさがあるのだと言う。1996年に、ナット・キング・コールの生涯を描いたミュージカル『アンフォゲッタブル』を自らプロデュースし、ロンドン公演を大成功に導き、演劇界のアカデミー賞といわれるローレンス・オリヴィエ賞ノミネートを果たした又平さん。その経験からも、作り手と観客が一緒に生み出す感動的なまでのパワーの凄まじさを知っているのだ。

「瞬間瞬間を観客の前で作り出している舞台では、作る側と見る側が双方で作用しあって、いわばコミュニケーションをしている状態。その分、瞬時に大きな感動を直接的に伝える力を持っています。だから、観終わった後に、椅子から立てなくなるということが起こり得るのです。また、その場で得る感動は、一緒の時間を共有する他の観客とだけではなく、それは俳優やスタッフとも分かち合うことができます。観客の反応や拍手によって乗せられるということもある。盛り上げるのが上手い観客と出会えれば、舞台の出来も良くなる。まさに生ものですね」 また、常に進化し続けるという性質も人を舞台が惹きつけてやまない理由だという。「わかりやすいのはカーテンコールの回数。同じ演目でも、毎回違います。上演日によってキャストが変わったり、年を経るごとに、演出やセットが変わり、その時々で評価も変わる。同じ演目を何回も見る人がいるのは、作品が好きということだけでなく、そのせいでもあります。20年以上のロングランを成功させているアンドリュー・ロイド=ウェバーの『オペラ座の怪人』は、リピーターが多いんですよ」

初心者にも楽しめる舞台とは

2013-05-28_145207 舞台愛好家ともなれば、好きな作品を見つけ、それに通いつめるという楽しみもあるが、初心者はどこから入門したらいいのだろうか。

「ダンスやミュージカルは言葉がわからなくても楽しめますから、海外でもおすすめです。特に、ヴィジュアル重視の作品で、ストーリーをあまり追わないものがいい。エンタテインメント性の高い、いわばカタログミュージカルと呼ばれているもの。良く知られている曲が多く使われている、例えば『マンマ・ミーア!』『サタデー・ナイト・フィーバー』『ウィー・ウィル・ロック・ユー』など。好きな楽曲が流れるからという理由で十分。まずは本物の迫力に触れてみてください」

次に、注目したいのは、現在の話題作。トニー賞やローレンス・オリヴィエ賞を獲得した作品だけでなく、ノミネートされた作品などをチェックすると良いという。「今、話題なのは昨年トニー賞を獲得した『ジャージー・ボーイズ』。個人的にも気になっています。現地ブロードウェイでも人気で、チケットがなかなかとれず観られませんが(笑)」

海外で本場の空気を楽しみたい

2013-05-28_145356海外に行く場合、どうしても気になる作品があれば、渡航前にネットや仲介業者を通じてチケットを取っておくのが安全だが、とにかく本場の空気を楽しみたいというのであれば、現地の劇場街に並ぶチケットショップで調達することもできる。気になるのはその価格。正規購入でだいたい1万円前後というのが相場だ。「いずれにしても、映画などと比べてしまうと、チケット代が高い気がしてしまうかもしれません。でも、そのキャストによるその日のその演目は、世界中どこを探しても、その1ヶ所でしか観られない。そこにしかないもの。一度でも劇場に足を運べば、生身の人間が作り出す臨場感、アドレナリン、刺激、その贅沢を考えれば決して高いものではないと気づいていただけるばず」

現在、又平さんが発信しているシアターマガジン「PLAYBILL JAPAN」の携帯サイトとウェブサイトでは、さまざまな世界の最新舞台情報が入手できる。ニューヨークの劇場文化を牽引している米国Broadway channel社と独占契約をして、日本国内初となるミュージカル総合モバイルサイト『ミュージカル PLAYBILL』を開設。6月18日から配信サービスを開始したばかりです。『ミュージカル PLAYBILL』は、ブロードウェイ・ミュージカルの作品ダイジェスト、インタビューの動画をはじめ、海外・国内のエンタテインメントニュース、作品紹介、アーティストインタビュー、公演情報といった情報コンテンツのほか名作ミュージカルの着うたなどで構成されています」

ミュージカルを様々な角度から楽しめるので、初心者にもおすすめだ。「日本でも良く知られた『ライオンキング』『美女と野獣』『シカゴ』『オペラ座の怪人』『マンマ・ミーア!』といった本場ブロードウェイ作品の本編ダイジェストやスター俳優のインタビューを日本語の字幕付きで鑑賞できるようにしました。この夏には2003年トニー賞で8部門受賞した話題の『ヘアスプレー』が初来日。観劇前には「ピックアップ」コーナーで作品にまつわるトリビアを学び、観劇後には動画で余韻を楽しむことも可能。このほか、トニー賞授賞式の模様なども動画で楽しんでいただけますよ」日本により成熟した劇場文化が根付くよう、さまざまな活動を行っている又平さん。後進の育成にも熱心な彼が、最後に、ミュージカル・プロデューサーという仕事に興味がある人へこんなアドバイスを。

「プロデュース作品が本場で成功をおさめたときは『やった!』のひとこと。感動しましたね。この作品を作るんだ、表現するんだ、この作品を通して感動を伝えたいんだという強い気持ちが基本。経験はあとからついてくる。最も大切なのは気持ちですね」


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2013-05-28_145557 ■ PLLAY BILL JAPAN

NYはブロードウェイの劇場文化を支える老舗シアターマガジンの日本版。
1884年に創刊され、現在は全米で月間600万部の発行部数を誇る。世界中にコレクターも多い。日本版では6月から、世界中の最新舞台ニュース、写真を中心に、特集記事や国内外の公演情報などを掲載しているモバイルサイトをオープンした。

「PLAYBILL JAPAN」http://www.playbilljapan.com
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