syokusanpo
好物の魚に焦点をあて、隔年で「いわしが目立とうする」をテーマに、生徒やアマチュアを対象にした料理コンペを開催している、ソニア・エズグリアン。料理家でありながら、達筆で滑らかな文章で出版も手掛ける日々を過ごす。ソニアが得意とする日記のように綴られたユニークな一冊「FOOOD」は、9月に刊行されたばかりだ。

vol02_ttl


2013-05-28_173030ソーヌとローヌ川(ソニアは、リヨンに在住)沿いの露店で、路地野菜を販売する八百屋、肉屋、魚屋をめぐりながら、おきまりの買い物からはじまる週末の朝。アイディアをめぐらしながら、途中、一杯のコーヒーで冷え込む体を温める。そして、肉屋に足を踏み入れた途端、走馬灯のように「ポトフ」が浮かんでくる。「雨が降る、少しさみしい日曜日を和ましてくれるのは、これだ!」

買い物のお供で、両手を荷物でふさがれたエマニュエル(ソニアのご主人で、カメラマン)を気の毒にも感じるが、友人を招いた日曜日のディナーを構成する食材は、翌週の一週間の献立も保障してくれそうだ。きっと、毎日の食事につきあってくれるエマニュエルも飽きがこないだろう。

こうして、ソニアは、日曜日のディナーメニューを、にんじんの千切りサラダ、ポトフ(フランス煮込み料理)、田舎パンにライスプディングに決定する。早速、下準備に取りかかる。

ポトフの決め手となるのは、ゼラチン質を含んだ部位、味を引き出せるという脂肪分で包まれた骨部、骨髄、牛のアキレス腱に近い部位、尾っぽの部分、繊維質を含む各部位の肉を上手に生かしてあげること。これが、美味しいブイヨンもつくりだしてくれる。

愛情を注ぎながら、ブーケ・ガルニを丹念につくることもポイント。10センチほどに切った長ネギを十字に交差させて、その上に平らな葉をしたパセリ、セロリ、タイム、ローリエをのせて折りたたみ、料理用の糸でしっかりと小包の箱のように結ぶ。ソニアは、「クッション」と呼ぶ。肉と「クッション」の形をしたブーケ・ガルニを一緒に1時間ほど煮込み、ネギと骨髄、粒コショウ、たまねぎを入れて1時間。そして、にんじん、根用セロリ、かぶも加わり、さらなる1時間が経過。キャベツとじゃがいもを入れてもう1時間……弱火でくつくつと煮ていくのである。
cooking



こうして読んでいるだけで、よだれがしたたり落ちてきそうだ。ポトフの残飯を、月曜日から金曜日までのランチ、ディナー、おやつのために上手に利用する。この本には、アイディアに満ちた残飯整理レシピが掲載されている。

いざ、台所へ! と、活動的な動作を連想させる一冊は、見開き手のひらほどの単行本サイズで、100ページにテキストとカラー写真が満載されている。

多忙なスケジュールをこなしているのに、どんな状況でも、周囲を包み込む美しい笑顔を絶やさない沈着冷静なソニアが、verita読者のためにインタビューに応じてくれた。

INTERVIEW: ソニア・エズグリアンに5つの質問

Q1:食いしん坊で好奇心旺盛、アイディアに満ち溢れ、料理と執筆をこなされているソニアさん、ご自身の職業をどのようにみつめていらっしゃいますか?

A:興味が持てることには、何でも触れていたい料理人ですね。私の人生哲学は、自由でいること。料理人だから、厨房に居座るのではなく、異業種の人々にも出会うために、執筆やコンサルティングもしています。

アルメニアの血を引き継ぐ家庭に生まれたので、感覚から養われた味覚を自然に身につけました。祖母は、畑から採取した色とりどりの野菜で、ご馳走をつくりました。かくれんぼうをしたインゲン畑。大好きなローズジャムができるバラ園で過ごした幼少期と美しい思い出たちが、今を形成しています。祖母は、生地をつくるときも「耳たぶ」のような柔らかさ、というように、正確な分量ではなく、技術よりも感覚や感動が導く料理の仕方を教えてくれたといえます。

10数年間、パリでジャーナリズムをしていた時代に、主人のエマニュエルと出会いました。仏大衆紙のガストロノミーのページに執筆していました。三十路にさしかかる頃、突然、幼少期を過ごした台所での時間にノスタルジーを感じました。普通であれば、無謀であると思うでしょうが、「リヨンで料理人になるんだ」という思いを実現するために、星付シェフの下で修行をしました。

そして、念願のレストラン「Oxalis(オグサリス)」を開いたのです。厨房で過ごした7年間は、大変貴重な時間でした。今日では、料理を別の角度から手掛けることに専念する日々を過ごしています。内輪のディナーを催したり、料理講習会を開いたり、出版のために新しいレシピを考えたり、料理コンサルティングもしています。

Q2:プロフェッショナルとして、また、現代女性として、どのような1週間を過ごされていますか?

A:普段でも、市場を散歩することが日課です。アポイント先に出向くときも、なるべく歩いて出かけます。途中、市場や食材を見ながらアイディアを練ることも大切ですから。果物など、ランチのための買いものを同時にします。パリに行くときも同じような時間の過ごし方をしていますね。朝は、6時くらいから活動を開始して、午前中は、執筆業に専念します。その後、コンサルティングのアポイントがない日は、主人と次の出版物のための撮影を準備しています。

Q3:今回の出版のきっかけは何でしたか?

A:パリで料理講習会をしていたときに、アイディアが沸きました。しかし、ポトフがテーマでありながら、それをどのようにリサイクルできるかというある一部の側面しか紹介することができずに、少しジレンマを感じていました。そこに、料理を独創的な角度から試行錯誤する友人のマルティン・カミリエリが後押ししてくれたのです。そうしてスタートしたレシピ本「FOOOD」は、私の世界観を紹介しながら、広がっていきました。

Q4:この一冊に紹介されている、リサイクルアイディアは、料理に時間をかけることができない現代人をも魅了します。料理をつくる快楽を持つために良いアドバイスはありますか? また、ソニアさんが日常実践されている料理のコツを教えていただけますか?

A:料理の基本は、紛れもなく質の高い食材を購入することです。当たり前のことですが、完璧な食材が良い結果を導き出してくれます。さらに、大切なことは食材をきちんと保管・保冷することです。下準備のために時間を費やすわけですが、音楽を聴きながら、また、子供たちと一緒に日曜日は、ブーケ・ガルニをつくるのもいいですよね。ブイヨンなどの料理の基本を構成する段階は、結果につながるわけですから、最も大切であると思います。

Q5:将来のプロジェクトは?

A:人々に、バランスのとれた美味しい料理感を持ってもらえるための本の出版や料理講習会を手掛けたいです。

「FOOOD」が日本語に訳されていないことは大変に惜しいことであるが、ポトフの残りを、その晩のうちに整理し、部位ごとに肉をタッパーウェアにしまい、ブイヨン汁は、製氷用のビニール袋に流して冷凍庫へ。翌日からの一週間の料理が、すごろくのように、遊び心いっぱいに展開していく。

Report by Kaoru URATA ⁄ photo ©Emmanuel Auger