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すぐ近くにあるのに、その魅力に触れていない。そんなものは意外に多い。国内旅行に出て、「こんなに素晴らしいものを知らなかったなんて」と驚いた経験を持つ人も多いだろう。日本の食もそのひとつ。自然に恵まれた日本列島には、まだまだあまり知られていない美味しいものがたくさんある。

(写真上)ジャニス・ウォンのプレート レモンチーズアヴァランチ

たとえば、瀬戸内の美食。瀬戸内海を中心としたエリアには、変化に富んだ潮流と穏やかな海で育まれた海の幸、温暖な気候の恵みである柑橘類や野菜など食資産が豊富で、個性溢れる豊かな食材に恵まれている。食をはじめ、今まで見過ごされてきた瀬戸内ならではの魅力や価値を今一度見直し再発見し、理解を深めていくために、“瀬戸内ブランド”推進のためのプロジェクトが動き出している。
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(写真)左:右から日高シェフ、ペクルシェフ、大森シェフ、ウォンシェフ、寺田シェフ、山口シェフ  右:瀬戸内の新鮮な作物は、そのまま食べても美味

そのひとつとして行われているのが、「瀬戸内の食材を使った料理の披露会」。11月26日には、広尾のアクアパッツァにて第二回目が開催され、秋冬の食材を使った試食が行われた。料理を担当したホスティングシェフは、趣旨に賛同したアクアパッツァの日高良実シェフをはじめ、シンガポール2am:dessertbarのパティスリーシェフのジャニス・ウォン氏、ル・コルドン・ブルー・ジャパンの料理講座シェフ講師ジュリアン・ペクル氏、ANAクラウンプラザホテル広島ル・プラティーヌ料理長の大森一憲氏、RISTRANTE Teradaシェフの寺田真紀夫氏、丸ノ内ホテル総料理長の山口仁八郎氏という6人。使われた食材は、瀬戸内広島レモン、安芸津まる赤馬鈴薯、広島県和牛・元就、鶏卵・旬の黄身自慢、おかやま有機無農薬栽培野菜、新庄村のカブ、ほうれん草、白菜、ひめもち、新見フレッシュキャビア、いのしし肉、天然きのこ・黄金茸、金時人参、金時芋、オリーブ食品、オリーブハマチ、オリーブ牛など。味が濃く、香りが強い瀬戸内食材の特徴を活かした料理が、会場内に所狭しと並び、来場者たちは舌鼓を打った。

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(写真)「RISTRANTE Terada」寺田シェフによる「新庄村“ひめのもち”を浮かべた おかやま有機無農薬野菜香るスープ」と、「おかやま有機無農薬米 哲西の天然イノシシと天然茸 リゾット仕立て」

岡山で、わずか3テーブルのみ完全予約制のRISTRANTE Teradaを経営する寺田シェフは、「新庄村“ひめのもち”を浮かべた おかやま有機無農薬野菜香るスープ」と、「おかやま有機無農薬米 哲西の天然イノシシと天然茸 リゾット仕立て」の二品を披露。リゾットは、全く臭みのない柔らかい肉とぷりりとした米との調和が絶妙だ。「このイノシシは有名な哲西の栗など天然の物を食べて育っているので、肉と脂のバランスがいいんです。猟師たちが自らさばき、獲る段階から肉をなるべく傷つけないようにしているのも美味しさの秘密。柔らかくクセがない、あっさり嫌みのない味なのもそのためなんですよ」と寺田氏。
イノシシ肉は低カロリーで高たんぱく、栄養価も高く、アレルギーが出にくいとか。あまり馴染みがないが、実はビタミン、コラーゲンも豊富で女性にも嬉しい食材なのだ。また、スープに使用した野菜は、完全無農薬の有機栽培。岡山では、独自の基準を10年前より設定し、認められた農薬ならば使用してよいとされる有機JASの基準を上まわる安全性を保証。その味が濃く染み出したスープは、香りも旨味もパワフルで口にした途端、思わず笑みがこぼれてしまうほどだ。

seto7デザート6品を披露したシンガポールのパティスリーシェフ、ウォン氏は、10月に行われた現地調査「シェフズ・ラボ」にも参加。「料理において一番大切なのは食材。今回瀬戸内で素晴らしい食材に出会えて嬉しい。出会った食材をクリエーションの中に取り入れました。特に、アロマの豊かなレモンを使ったレモンエクスプロージョンは今回のプロジェクトのシグネチャーデザートです」とウォン氏。口の中でレモン味がぷちぷちとはじける、苦みの効いたデザートは、フレッシュなフルーツの味をそのまま詰め込んだようだ。その他にも、岡山で出会ったキャビアを乗せたチョコレートボンボン、レモンの葉の香りを移したキャラメルレモンなど、インスピレーションに溢れた斬新なデザートで来場者を驚かせた。「豊かな瀬戸内の食に魅力感じています。まだまだここは入り口だと思っています」(ウォン氏)

(写真)ジャニス・ウォンのプレート 瀬戸内広島レモンシクル

国境を問わず、作る人、食べる人の違いも問わず、誰をも笑顔にする瀬戸内の美味しさ。わざわざ訪れてでも、探索する価値が大いにある美食に、あなたも出会ってみてはいかがだろうか。

(text by JUNE MAKIGUCHI)