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撮影:ホンマタカシ

FASHION-modeにて不定期連載中の「journal by林央子」。前回掲載の『水戸芸術館「拡張するファッション」展で行われたパスカル・ガテンのワークショップ報告』に引き続き、林央子の著作『拡張するファション』(スペースシャワーネットワーク)を元に企画された「拡張するファッション」展が巡回中 (会期:6月14日~9月23日)の四国・香川県「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館」で、展示や作家との交流から林央子が捉えた“新たな視点”を数回にわたって紹介していく。

PUGMENTが作る服「Magnetic Dress」は、普通に私たちがブティックで出会う服とはちょっと違うタイプの服だ。彼らの活動はいくつかの側面から、とても現代的な要素を孕んでいると思われるが、私はまず、彼ら自身の服を作るスタンスについて、話を聞いてみることにした。

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——PUGMENTの作る服はどういうプロセスで生まれるのでしょうか。
大谷 MAGNETC DRESSは既製品にほとんど手を加えず、視覚的な加工だけを施したものです。それは道ばたに落ちていた服をiPhoneで撮影し、その写真をパソコン上で加工したデータを服に転写できるシートに写し、実際に落ちていた服に近い既製品に転写したものです。道端に落ちている服の存在に気がついたとき、自分たちはその存在にすいよせられるような気がしました。そのため「磁力を帯びた服」という意味からMAGNETIC DRESSと名付けました。

——実際に落ちていた服を再現する、というコンセプトをあらわすために、展示会には一足だけの靴下や手袋、ネクタイなどもありましたね。
大谷 はい。落ちていた服は、発見して撮影した日付と場所を記録していきます。その服を拾って持ち帰るのではなく、そのときは写真に撮るだけで、後日それらを加工して再現した服を作ったら、その服とともに落ちていた場所まで行って写真を撮り、それをもとに作ったカタログとあわせて、展示会を行いました。

pugment2——写真、映像、出版物、そして服によって構成されている展示会でしたが、ファッションの展示会というよりアートの展示に近い印象を受けました。
大谷 僕たち二人は美大にいっていて、今福のほうは美大のあとに文化服装学院で学んだのですが、ファッション関係の知人の反応と、アート関係の知人の反応が随分異なったことがとても印象的でした。あと、ホンマさんもそうなのですが、写真を撮る方にも、多く見ていただきました。

——お店に卸したりはしていないのですか?
大谷 していません。そういった方に知り合いが居ませんでした(笑)。

——実際に通気性の問題などを考えると買う人が普通に生活のなかで着る服として流通するまでにはもう少し工夫が必要だと思います。でも、あの展示すべてがiPhoneで撮った写真や映像から構成されていたというのは興味深いですね。そもそも、なぜ、「道に落ちていた服」だったのでしょうか?
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大谷 90年代のファッションやカルチャーの動向は自分にとって強い憧れで、自分もいろいろなデザイナーやブランドの服を買って、着ようとしてきました。でもどれもすでに過去の事として記号となってしまっていることに違和感を覚え、憧れて買った服も自分らしい服とは思えず不安になったり。その繰り返しでした。自分を表現しなければと、試行錯誤を繰り返して、自分が着ている服とそのポケットの中身をコピー機にかけて毎日その日のZINE(※ジン:アートなどカルチャー要素の強い小出版物のこと)を作ってみたりとか。服をつかって何かしよう、というので色々としていました。ZINEを作るのはアイデアのドローイングみたいな行為かもしれません。

今福 私も自分の美大での専攻は絵画で、服に絵を描いたり色々試みていましたが、何か違うなと、悶々としていました。
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大谷 その頃、林さんの『拡張するファッション』を読んで、自分たちはこれまで、好きで買う着るファッションと、アートを分けていたことに気がつきました。たとえばBLESSのように、違うアプローチで服を作っている人たちの活動をそれまで知らなかったのです。

——二人のファッション体験の原点は? いつごろ自分で意識的に服を買いましたか?
大谷 小学校高学年のころ。多摩ニュータウンに住んでいて、学校でいじめられていたから、原宿に行って服を買うことで自分のアイデンティティーを保っていました。10歳年の離れた、建築の仕事をしている兄がいて、デザインは身近に感じていたのかもしれません。自分の買う服は裏原みたいなときもあればモードや古着だったりと、コロコロ変わっていました。

今福 私の家は、商店街で祖父の代から帽子屋を営んでいました。親戚に美術やデザインに関係ある人はあまり居ませんが、両親はとても服好きでした。そんな親への反発もあったのか、服を好きになったのはわりあい最近です。東京芸大の油画を卒業してから文化服装学院で一年間学びました。

——大谷さんはいつも印象的なシルエットの服を着ていらっしゃる一方で、今福さんはシンプルな服に見えるけれど、よく見ると気になる細部があります。今福さんが、今日着ている服は、自分で作ったものですか?
今福 はい。アンパンマンの布地を買ってきてそれを真っ黒に染めて、作ったワンピースです。私自身は、自分でこれを着る、こういう格好をする、ということへのこだわりはあまりない方かもしれない、と思います。服の着方は二人で随分違いますが、面白いと思うものが似ているんです。

pugment5大谷 ファッションに興味をもったのは、「自分って何だろう」というところからだったと思います。それで、色々な服を着てみました。でも、世の中にある服によって自分をつくるということに、僕はどうしても満足できなかったんです。自分のなかで、世の中にある服というものはすべてXX系、XX系と分類されて記号になってしまっていた。でも、街に落ちていた服というのはそんな記号に分類されない存在。正体不明で、定義づけできないものです。でも、いろいろな現実からその服が「街に落ちている」という状況が作り出されている。これを着てみたら、自分についての意識が変わるのかな? と思い、着てみよう、と思ったんです。

——でも、そのまま落ちた服を拾って着ようというのではないですね。あくまで表現の一つのプロセスというか。
大谷 やってみて、環境や街と新しく関わる方法と出会ったんです。もともとは記号的なものも、記号的な存在じゃなくなる瞬間が、街のなかにはある、と気がついたんです。何かがあってそこに「落ちている」わけです。捨てたのかもしれないし、偶然落ちてしまったのかもしれない。でも誰かが持っていたものという雰囲気はある。けれども正体は、わからない。たまたま落ちていた服と、街の状況とが集まってきて、「これは何?」という、定義できない状況が生まれているわけです。それは、不安定な状態でもあり、確かな認識が得られない。そうすると、記号に見えない、記号にならないんです。

——その存在に「吸い込まれるような引力」を感じる、という感性であったり、街という環境と自分との新しい関わりかたを、写真撮影という行為を通して発見したということに、ホンマさんも強く反応されたのかもしれないですね。
大谷 街で落ちていたような服って、原宿とかの店で会うことはまずない。ちょっと怖い、気持ち悪い、というところもあるけれど、魅力的だったんです。

今福 服に絵を描いていたときと違うことは、当時描いていた絵というのは自分の解釈を通して出てくることが多かったんです。MAGNETIC DRESSは、周りの環境に自分がコントロールされないと作れない、という違いがあります。そっちのほうが納得がいく、という感じで、面白いと思ったんです。

大谷 自分を表現したい、自分から何かを出力しなければいけないという強迫観念があった時期がありました。「自分って何?」という問いから始まると、自分のなかには「何にも無い」となって、すぐに不安になってしまった。でも、最近はもっと吸収したい、と思っていて、外から入ってくるものから、自分を探したいと思っています。今は発信よりもむしろ受信を求めていて、気づいたら自分なんてどうでもよくなってる瞬間があります。
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——環境との関わり、「外」の世界との関わりから生まれる新しい表現の可能性について、iPhoneのようにあくまで、今だからこそ身近である現代的なツールを介し、「服の体験」を通して考えて行く。PUGMENTの活動の核はそこにあるようですね。まだ始まったばかりの活動の、これからが楽しみです。PUGMENT のツイッターはWhat’s This? という問いかけと道で発見した衣服の画像、発見場所のみで構成されていますが、そのツイッターをフォローして、タイムラインで時々道ばたに落ちていた服の画像を見るだけでも私には新鮮な体験で、二人の興奮を共有できているのかなと思います。ありがとうございました。

(Interview ・ text / nakako hayashi

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拡張するファッション
期間:2014年6月14日(土)~2014年9月23日(火・祝)10時~18時(入館は17時30分まで)
会場:丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(香川県丸亀市浜町80-1)
URL:本展詳細はこちら

1988年、ICU卒業後資生堂に入社。宣伝部花椿編集室(後に企業文化部)に所属し、『花椿』誌の編集に13年間携わる。2001年よりフリーランスとして国内外の雑誌に寄稿、2002年にインディペンデント出版のプロジェクト『here and there』(AD・服部一成)を立ち上げ、2014年までに11冊を刊行。著書に『パリ・コレクション・インディヴィジュアルズ』『同2』、編著に『ベイビー・ジェネレーション』(すべてリトルモア)、共著に『わたしを変える”アートとファッション” クリエイティブの課外授業』(PARCO出版)。展覧会の原案となった著書『拡張するファッション』(スペースシャワーネットワーク)に続いて2014年には、展覧会の空気や作家と林央子の対話を伝える公式図録『拡張するファッション ドキュメント』(DU BOOKS)が発売された。

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水戸芸術館「拡張するファッション」展で行われたパスカル・ガテンのワークショップ報告 journal by林央子

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館「拡張するファッション」展 ホンマタカシとPUGMENT