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"移住"。毎日を物理的にも、精神的にも、社会と折り合いを付けながら暮らす私たちにとって、それはどんなに自由で、憧れを抱かせる言葉だろうか。 昨今は"ノマドワーカー"と呼ばれるように、ITの進歩によって働き手である若い世代がどこにいても仕事ができる環境が整いつつある。場合によっては、都心に暮らしていなくても生計が成り立つケースもあるほどだ。そう考えてみれば、"移住"というのは、今やリアルな選択肢のひとつだと考える人が増えてきてもおかしくはない。

今年1月に刊行された『いきたい場所で生きる 僕らの時代の移住地図』は、編集者・文筆家、そしてライフハッカー[日本版]の編集長として、様々な分野の取材や視察、執筆活動を行ってきた米田智彦氏が、国内外に移住した33人への取材をもとに、現代における移住のリアルについて描いた一冊だ。

登場するのは、男性、女性、シングル、子持ち、フリーランス、会社勤め、経営者、アーティストなど、じつに多種多様。(ちなみに、veritaの前編集長で現在ポーランドで暮らす堺玲子についても紹介されています。)東京から離れた土地での働き方や暮らし方のスタイルとストーリーには、移住した人がなぜ、そこで暮らすようになったのか、移住前~移住後に至るまでの心の動きを追いながら、移住に必要なマインドや知恵、方法などが紹介されている。時にデメリットやハードルとなるポイントなども交えて、決してきれいごとばかりではないリアルな体験がベースとなっている。文面から浮かび上がってくるのは、移住を経験した人々の生き生きとした実感であったり、力強い生きざまだったり。紆余曲折を経て、自ら選んだ生活や環境を引き受けて、自分たちの暮らしを愛する気持ちが芽生えていく様子が垣間見えるはずだ。

migi本書文中にも語られていることだが、つまるところ、生きる場所を選ぶということは生き様を決めることに等しい。そして33人の移住ストーリーには、いま私たちの社会が向かっている先の未来のライフスタイルのエッセンスが散りばめらている。その未来の意識を先んじて現実化させた人々のマインドを知ることができる点で、今すぐに移住を考えていない人にとっても、自分の今と未来を見つめるためにおすすめできる一冊だ。

『いきたい場所で生きる 僕らの時代の移住地図』
米田智彦著
価格:1,728円(紙の書籍)、1,280円(電子書籍)
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン (2017/1/26)