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去る3月24日、時節柄全員マスク着用の下クローズド・サーキットで行われたアジア50ベストのヴァーチャル・イベントでひときわ目を引いたのが「ブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン」エグゼクティブ・シェフ、ルカ・ファンティン(写真上)の存在だった。 世界でいちはやくロックダウンが発令されが母国イタリアへの連帯を示す「#andratuttobene すべてうまくいくさ」というイタリア国旗がデザインされたパネルを手に撮影や取材に応じるその姿はつめかけたジャーナストやシェフの胸を打つものがあった。また、2020年度のランキングでは昨年よりも順位をあげて自身最高位となる第17位にランクイン。これはアジアにおけるイタリア人シェフ、そしてイタリア・レストランとしても最高位に位置する。

来日以来10年、名実と共に日本のみならずアジアを代表するイタリア人シェフとなったルカ・ファンティンにランキング発表をうけての心境、母国イタリアへの思いなどを単独インタビューした。また、インタビューしたのは東京にも緊急事態宣言が出されて「ブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン」も5月6日まで臨時休業を決めた直後という困難な時期でもあり、今後のファイン・ダイニングの方向性についても今思うところを聞いた。



イタリア・レストランとしてアジア最高位を獲得した今の気持ち

Q: まずはアジア50ベスト自己最高位となる第17位おめでとうございます。また、この結果は日本のレストランでは第5位、イタリア人シェフおよびイタリア・レストランとしてはアジア最高位となるものでした。それまでアジアでは香港、上海、マカオなどで展開する「オット・エ・メッツォ・ボンバーナ」がイタリア人シェフとして長いことアジア最高位でしたが、その歴史を変えるエポックメイキングなランキングともなりました。来日10年が過ぎ、近年ではガンベロ・ロッソ「世界最優秀レストラン」、イデンティタ・ゴローゼ「世界最優秀シェフ賞」など重要な受賞が続いています。そのあたり、自分ではどのように分析していますか?

A: アジアNo.1イタリア人シェフ、言われてみればそうですね、それは気がつきませんでした!これも一緒に仕事を共に続けてきたチームのおかげだと思っています。日本に来たときは正直こんなに長く暮らすことになるとは思っていませんでした。その間結婚もしましたし、父親にもなりました。10年の間でやめていったスタッフもいますけど、ずっと一緒に働いているスタッフもいます。これはチーム全員の仕事が認められたと思っています。ファイン・ダイニングの世界はとても難しい。つねに新しい料理を提供しないといけないし、人 気があるからといって同じ料理ばかり作るわけにもいかない。そこが難しくもあり、楽しいところですがとにかく仕事仕事、の10年間でした。

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(写真)春のメニューから「鰆のカルパッチョ 春タマネギとホワイトビネガーのソース添え」。

Q: ルカ・シェフはこれまで日本で働いたどのイタリア人シェフもなしとげられなかったことをして来たと思います。それは日本から世界レベルのイタリア料理を発信するということ。過去にイタリアのグラン・メゾンが日本店を開いたこともありましたが、そのレベルまでは行かなかった。ガンベロ・ロッソやイデンティタ・ゴローゼがイタリアではなく日本で働くルカ・シェフを表彰したということは日本全体のイタリア料理のレベルアップが認められたようでとても嬉しく思います。

A: イタリア料理というのは、日本始めおそらく世界でも一番愛されている料理です。どの国にいってもイタリア料理店があるし、寿司や天ぷらを知らない外国人はいてもスパゲッティ、ピッツァを知らない外国人はいない。それだけ世界に広まっていると同時に、ファイン・ダイニングで勝負するのは難しくもあります。なぜなら、多くの人が期待するイタリア料理とは違うから。でも日本のイタリア料理のイメージアップにも繋がっているのだとしたらそれはとても嬉しく思います。わたしが兄と慕う「オステリア・フランチェスカーナ」のマッシモ・ボットゥーラもイタリア料理のイメージを変え、世界レベルに上げた功労者です。でもイタリア料理のファイン・ダイニングが世界で認められるようになるには、まだまだしなければいけないことはたくさんあります。

まず食材を見つめる、それが何よりも重要

Q: ルカ・シェフは日本に来る前から「日本料理龍吟」でステージするなど、昔から日本の食文化や食材への研究に熱心でした。来日して10年が経ちましたがそうした食材の研究は日々続けているんですか?

A: はい、それはもちろん終わることはありません。ただわたしはあくまでもイタリア料理というアプローチで臨まないといけない。例えばニンジンのピューレを作る時、もちろん作る前から頭の中で組み立てていますし、上手に作ることはできる。でもそれじゃだめなんです。まず一度ゼロに戻して食材と向き合わないといけない。若いスタッフにはつねに「バッグの中をからっぽにしてから料理に取り組め」と言ってます。

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(写真)子羊のローストにビーツの大胆な赤が印象的な「羊とビーツ」。

Q: ボットゥーラがつねづね「伝統料理は一度批判の眼差しでみつめなおせ」というのと同じことですね。ピューレといえば先日こちらでいただいた白アスパラガスのクレーマはとても美味しかった。

A: あの白アスパラガスは日本産なんですけど、イタリアのものと比べると野性味が弱い。そこでわたしたちは皮を剝いてブロードをとり、繊維をほぐしてからピューレにして舌触りをよくしてからブロードを加えました。他にもアスパガラス・オイルを作ったりと、簡単なようですごく時間と手間がかかってるんです。まず食材を見つめる、それが何よりも重要です。

収束後のファインダイニングのあり方を模索しつつ、今を有意義に過ごす

Q: ところで「ブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン」も緊急事態宣言を受けて休業が決定しました。ルカ・シェフの母国であるイタリアはロックアウトが続いてさらに厳しい状況です。そんな現在何を考えて過ごしているのか、また日本、イタリアに限らずコロナ禍の収束はまだ見えませんが、レストラン界の現状と未来をどのように分析していますか?

A: まずわたしたちのレストランに関して言えば、毎日テレワークで打ち合わせしていますし、若いスタッフたちには彼が作った料理を写真で見せてもらうようにしています。まだ若いスタッフはそうしないと忘れてしまうし、1か月何もしないのはもったいない。実力を伸ばすいい時期だと考えています。

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わたし個人としては、今年は10月までイタリア、バンコク、アメリカなどに招待されていたのですが全てキャンセルになり、イタリアにもいつ帰れるかわからない状況です。一番下の子供はまだイタリアに行ったことがないので、6月には休暇を取って連れて行きたかった。でも残念ながらそれもキャンセルですね。でもこれをいい機会ととらえて日々いろんなことを考え、実行しています。

おそらく今回のコロナ・ウイルスは簡単に収束しないでしょうし、収束後もファイン・ダイニングのあり方も変わって来ると思います。誰ももう以前のように旅行することはできないので、外国のレストランに食べにいくのはとても難しくなるでしょう。ファイン・ダイニングのレストランは従業員も多いし事業規模も大きい。イタリアの地方で、家族経営でピッツァやグリルをやっているお店はこういう時には強いと思いますが、ファイン・ダイニングは今後どうなるかわからない。それについてはわたしたちも連日考えているところで、アイディアもあるのですがそれを話すのはまだ早い。休業したばかりですし、5月にまたお会いできるよう日々準備を続けていますので、楽しみにしていてください。

取材・画像/池田匡克

本記事の続報はこちらから→ 【続報】Bvlgari Lunch Box Project 医療従事者へブルガリがお弁当を提供 by 池田匡克

restaurant information


bvlgari_restaurantブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン

住所:東京都中央区銀座2-7-12 ブルガリ銀座タワー9F
Tel:03-6362-0555
営業時間:ランチ 12:00~13:30(ラストオーダー)、ディナー 18:00~20:00(ラストオーダー)
定休日:日曜日、月曜日


profile


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池田匡克 ジャーナリスト、イタリア料理愛好家

1967年東京生まれ。1998年よりイタリア、フィレンツェ在住。イタリア国立ジャーナリスト協会会員。イタリア料理文化に造詣が深く、イタリア語を駆使してシェフ・インタビュー、料理撮影、執筆活動を行う。著書に『伝説のイタリアン、ガルガのクチーナ・エスプレッサ』『シチリア美食の王国へ』『イタリアの老舗料理店』『世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ』など多数。2014年イタリアで行われた国際料理コンテスト「ジロトンノ」「クスクス・フェスタ」などに唯一の日本人審査員として参加。2017年イタリア料理文化の普及に貢献したジャーナリストに贈られる「レポーター・デル・グスト」受賞。WebマガジンSAPORITA主宰。
イタリアを味わうWebマガジン「サポリタ」
http://saporitaweb.com//
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