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渋谷から徒歩10分ほどの裏通りにある「The SG Club(ザ エスジークラブ)」は2018年創業ながら日本はもとより海外での人気もすでに確立している有名バー。それはひとえに創業経営者(Founder & Proprietor)後閑信吾氏がNYや上海などのバーシーンで実績を積み上げて来た名バーテンダーであるからだ。

2006年に渡米後、下積みを経て「Angel’s Share」ヘッドバーテンダーとなった後閑氏は、2012年に行われたカクテル世界大会で優勝。その後上海に「Speak Low」「Sober Company」という2つのバーをOPENすると2軒とも瞬く間に人気となり、満を持して日本に帰国し「The SG Club」をOPENしたのだ。その間2017年には「International Bartender of the year」を、2019年には「Asia’s 50 Best Bars」で「Altos Bartenders’ Bartender」というバーテンダー界に考えうる最高の賞を立て続けに受賞。同アワードのランキングでは「The SG Club」初登場13位はじめグループ3件全てランクインするという快挙も成し遂げた。いまや世界のバーシーンではナンバーワンのバーテンダー兼バー経営者なのだ。
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後閑氏プロデュースの焼酎「The SG Shochu」と
各国料理のカクテルペアリング<SG Airways>


sg_01その「The SG Club」で後閑氏プロデュースの焼酎を使ったカクテルと料理のペアリング・ディナーがあると聞いて早速渋谷を訪れた。「The SG Club」は地上2階、地下1階の3フロアからなる複合的バー・コンプレックスだ。SGとは後閑さんのイニシャルでもあるがSとは地下1階「Sip」は英語でゆっくり味わうという意味。一方1階の「Guzzle」はゴクゴク飲むという意味だ。そして2階「SAVOR」は会員制でゆったりと寛げるシガーバー。この夜の舞台となるのは地下1階「Sip」だ。

SG_Club20200909_00129薄暗い「Sip」のソファに案内されるとまもなくショットグラスに注がれたシャルトリューズのような緑色の液体が登場。これは小山園の抹茶と後閑氏プロデュースの焼酎を使った食前酒(写真右)。抹茶の香りとほろ苦さ、そして甘さが奥に隠れた焼酎の香りを上手に引き出してくれる。

やがて後閑氏が登場すると、テーブルには航空券を模したメニューが配られた。見ると「NRT LYS あの三つ星ポール・ボキューズでデザートからスタート」と書いてある。つまり今夜はカクテルと料理で世界のあちこちを旅するという演出なのだ。間も無く後閑氏はバーカウンターに入り、カクテルの準備を始めた。世界一のバーテンダーが目の前で作るカクテルを味わいながら、世界各国の料理を味わうという、なんとも贅沢な世界一周旅行が始まった。




究極のカクテル・ペアリングディナーへ
カクテルと料理で世界を旅する


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まず最初の目的地はフランス、リヨン。カクテルは「KOME ソーテルヌ トマト カカオ」(上写真左)。米焼酎「The SG Shochu KOME」にソーテルヌの甘い貴腐ワインの香りとトマトの酸味をプラス、グラスの底にはココナッツミルクの甘さが隠れている。これを飲みつつ「フォワグラ・ブリュレ・カカオ」(上写真右)を小さなスプーンでいただく。デザートのクレム・ブリュレ風だがカスタードクリームの代わりにフォワグラが忍ばせてあり、トッピングには砕いたカカオビーンズ。甘み、酸み、苦味などさまざまな味が口中で混じり合う。

次なる旅はギリシャのクレタ島だ。チケットには「LYS→HER地中海到着。ヨットに乗り換えアイランドホッピング開始」と書かれてある。ウニとタコをギリシャ伝統のヨーグルトソース「ザジキ」(下写真右)であえてタルタル状にしてある。合わせるのは「KOME 胡瓜 マスティハ ディタニー オリーブ」(下写真左)。米焼酎にキュウリの青い香りがいいアクセントで同じキュウリを使っているザジキとの相性はぴったり。オレガノの一種ディタニーの香りも地中海を思わせ、懐かしのギリシャの島を思い出す。
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3品目はヨーロッパから一転アジアへ。タイのチェンマイへの旅だ。「HER→CNX 夜市では屋台の定番、焼きココナッツとカオソーイ」(写真下)。カオソーイとはチェンマイなどタイ北部で食べられている麺料理。一口サイズの器にはぴりっと辛くて甘いグリーンカレーのカオソーイに刻んだいぶりがっこ、辛子蓮根チップスのトッピング。「KOMEココナッツ カフィアライム パクチー」は米焼酎とココナッツミルクのコンビネーションが純米のどぶろくを思わせる、とろりと甘い米麹の香り。これにグリーンカレーに使うカフィアライムとパクチーの香りを加えた、いうならばエスニック酎ハイ。しかも極上モノ。
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次は再びヨーロッパへ。南スペイン、アンダルシア地方のヘレス・デラ・フロンテラだ。「CNX→XRY ヘレスといえばシェリーとタパスとフラメンコ」今度は麦焼酎を使ったカクテル。sg-sgclub-10後閑氏はこれをミキシンググラスで作った後、シェリー用のベネンシアドールを使ってグラスに注ぐというパフォーマンスを見せてくれた。麦焼酎にスペインの乾いた大地を思い出させるシェリーの香り。さらにオレンジと鰹出汁をプラスした、どことなく日本の台所を思わせるカクテルだ。合わせるのは日本とスペイン合作のフィンガーフード(写真左)。なんとハモンイベリコをのせた磯辺焼きで、納豆バターがアクセント。発酵食品同士の組み合わせがなんともいえないハーモニーを生み出す。鰹節に似たハモンの熟成香を楽しみつつカクテルをひとくち。国境を超えたユニークな発想のペアリングはたまらない。

「今度はチューリッヒ行きです」と後閑機長がゲストに告げるとまもなく今度は真っ黒い搭乗券が配られた。「XRY→ZRH」行き先はチューリッヒと書かれているだけで内容は一切不明。これはチューリッヒにある真っ暗闇の食事を体験するレストランの「ダイニング・イン・ザ・ダーク」をヒントにしたものだという。スマートフォンも裏返しにするよう指示され、バーの明かりもぐっと落とされてほぼ暗闇に。すると後閑氏が手渡しで冷たいグラスを渡してくれた。視覚に頼らず、味覚と嗅覚だけでグラスの中身をあてる、という趣だ。おそるおそる口に含むとまずスモーキーなアタック、そしてウリに似た食感とぬめりのある植物性のなにか。それぞれが思いついたことをいうように、と後閑機長がいうのでわたしはゲンチアナ、シャルトリューズ、スイカ、メロン、バジルシードと答えたのだが正解はボウモアとメロン、じゅんさい。あのスモーキーさはアイレのシングルモルト、ボウモアだったとは!

再びバーに仄暗い明かりがともされると次の搭乗券が配られた。「ZRH→MSY フレンチクォーターでジャズを聴きながらバーホッピング」ジャズの聖地ニューオリンズ、その名もルイ・アームストロング国際空港経由の旅だ。sg-sgclub-08 ニューオーリンズといえばジャズハウスとバーホッピング。さてはカクテルはバーボンかテネシーウイスキーか、と思っていたところ後閑氏が作ったのは麦焼酎とシャンパンを使った「MUGIフレンチ75 ラモスジンフィズ」(写真上)だった。泡がしっかりした甘口の一杯を味わっていると、やってきたのはアメリカに敬意を表してミニハンバーガー(写真下)。しかしフィリングは日本の味。熟成トンカツとウナギの蒲焼という意外すぎるペアリング!しかしウナギの甘口のタレやトンカツの脂とカクテルの相性が実にいいのだ。添えられていたのはタバスコならぬTABASGO!!これも麦焼酎を使った自家製で、辛みと焼酎の感じがなんともいいバランス。
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sg-sgclub-12デザートはベルギーのアントワープへ。「MSY→ANR ファッションの街で買い物、ビールにチョコレート」とある。ベルギービール、グレープフルーツ、ジンジャークッキーに似たスペキュロスを使った酸味と生姜の味がさっぱりさわやかな冷たいデザート(右写真左)。最後に芋焼酎が登場したのだが、ここまでの流れの中でもやはり芋焼酎の香りは個性的ですぐわかる。「IMO ホワイトチョコレート とうもろこし」芋焼酎に甘い要素を加えるとなんとも上品な食後のリキュールとなる。これには驚いた。

最後の仕上げは東京「The SG Club」への旅だ。「ANR→SGC ヨーロッパ土産に香水をゲット、早速開けちゃおっと」これは搭乗券に香水がしのばせてあるという、遊び心一杯の演出。ガーリーなフランボワーズのマカロンとゼリー(右写真右)で旅は終わり。世界一周の旅を終え、ヨーロッパみやげの香水を彼女に渡し、日本に帰って来たことを実感する、というエンディングのようだ。




2020年9月・10月もカクテルペアリング「SG Airways」は運行!


今回使用した「The SG Shochu」は後閑氏のプロデュースによるもの。米焼酎は白岳の高橋酒造、麦焼酎はいいちこの三和酒類、芋焼酎が薩摩酒造とどれも各カテゴリーのトップメーカーとのコラボを実現。本来ならば2020年3月に運行されるはずだったJR九州の豪華寝台列車ななつ星で後閑氏がゲストバーテンディングで乗車。焼酎の地元九州ということで「The SG Shochu」のお披露目を兼ねてカクテルを作るはずだったのだがコロナの影響で2度延期の後、中止に。実はそのななつ星、私も乗車して後閑氏のカクテルを味わう予定だったのだ。後閑氏にそう告げると「でも今日お召し上がりいただけてよかったです」と満足そうに返答してくれたのだ。

今回のカクテルペアリング・ディナーはビジネスクラス、ファーストクラスの2コースがあり、9月は青山「UN GRAIN」昆布智成シェフパティシエとのコラボで、10月は青山「The Burn」米澤文雄総料理長とコラボ。また後閑氏プロデュースの「The SG Shochu」はサイトからの購入も可能だ。噂に聞いていた「The SG Club」は予想をはるかに超え、まさに国境や既成概念、先入観を超えた自由自在の発想とペアリング。その一つひとつがしっかりしたストーリーに裏付けられているのがまたいい。新しいフードエクスペリエンスを求めている人は、ぜひ一度「The SG Club」で夜を過ごしてみてほしい。きっとこれまで体験したことがない、新しい次元のバータイムが味わえるはずだから。

Photo&Text Masakatsu Ikeda




bar information


sg-sgclub-03The SG Club(ザ エスジークラブ)

住所:東京都渋谷区神南1-7-8
Tel:03-6427-0204
営業時間:日〜木17:00〜1:00(金、土〜2:00)無休
※新型コロナウイルス感染拡大により、営業時間・定休日が記載と異なる場合あり。

現在(2020年9月)ペアリングコースは1日2回、各8名限定、要予約でおまかせコースのみ。詳細は予約時に要問い合わせ。予約は公式FBページより。
https://www.facebook.com/thesgclub/

<The SG Shochuと各国料理のカクテルペアリング「SG Airways」9月・10月運行情報>
【SG Airways×UN GRAIN 昆布 智成】9月1日(火)~9月13日(日),9月20日(日)〜10月1日(木)
Business Class:18:00〜 8コースのカクテルペアリング 16,000円(税・サ別)
First Class:20:30〜 11コースのカクテルペアリング 21,000円(税・サ別)
【SG Airways × The Burn 米澤文雄】10月5日(月)~31日(土)
Business Class:18:00〜 8コースのカクテルペアリング / 16,500円(税・サ別)
First Class:20:30〜 11コースのカクテルペアリング / 21,500円(税・サ別)
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池田匡克 ジャーナリスト、イタリア料理愛好家

1967年東京生まれ。1998年よりイタリア、フィレンツェ在住。イタリア国立ジャーナリスト協会会員。イタリア料理文化に造詣が深く、イタリア語を駆使してシェフ・インタビュー、料理撮影、執筆活動を行う。著書に『伝説のイタリアン、ガルガのクチーナ・エスプレッサ』『シチリア美食の王国へ』『イタリアの老舗料理店』『世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ』など多数。2014年イタリアで行われた国際料理コンテスト「ジロトンノ」「クスクス・フェスタ」などに唯一の日本人審査員として参加。2017年イタリア料理文化の普及に貢献したジャーナリストに贈られる「レポーター・デル・グスト」受賞。WebマガジンSAPORITA主宰。
イタリアを味わうWebマガジン「サポリタ」
http://saporitaweb.com//
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